pre第5記のショート~ シアナたちとおしゃべり『ハァヴィって、だれよ?』 <2章>


「ハァヴィさん。」


「・・だから、誰それ?」

って、優しく微笑み、言い聞かせるような口調なのに、妙に苛立ちを感じるシアナの声に。

不思議そうにしたエルはそれから、隣で一層もじもじしてるようなアヴェを白い指で、指し示す。

「あえっ?」

変な声を出したのは後ろの席のススアだけども。

ススアの声に、キャロやエナもちょっと驚いたようにアヴェを見る。

ビュウミーもさっきから、シアナたちのやり取りを見てたが。

教室の中では、授業の支度の他に先生が来るまで友達とお喋りしてたり、休み時間を過ごしている子たちばかりで。

「アヴェエって、ファミリーネームはハァヴィだっけ?」

ススアはそう聞いたけれども。

「あー・・・、んー・・・。」

その場のみんなも覚えてないらしく、唸り始める子もちらほらいたりする。

そうやって、じぃっと、自然と視線が集まるアヴェは、もうそれだけで俯いて顔を紅くしてるのであって。

その答えもすぐには聞けそうになく・・。

「アヴェエ = ハァヴィさん、です。」

って、エルがまだ少し不思議そうなみんなに代わりに答えてた。

「ほー・・・、そんなフルネームだったっけ?アヴェエって。」

おそらくフルネーム、というか、ススアは正直すぎる。

「えーと・・・そうだったっけ?いやぁ、ごめんね」

そんな声を受けて、キャロはアヴェに素直に謝ってるけど。

「あれぇ・・?・・・うーん?」

小さく唸ってるエナはまだ何か引っかかるらしく。

けども。

アヴェエが何を思ったか、ふるふるふると首を横に振り始めている。

それを見たみんなはまた、うん?、と不思議に思うわけで。

「あ、ニックネームでしょ。自分達だけの」

ビュウミーがそんなことを思いついた。

「ああ・・」

って、エナも納得しかけたけど・・、また首を捻る。

でも。

今度は、ふるふると首を横に振るエルで。

「本名、です。・・・よね?」

1度は言い切ったエルは。

やっぱり、振り向いて聞いてたエルで。

いきなり聞かれたらしいので、アヴェはエルを見もせずにこくこくと慌てて首を縦に振ってて。

「あー・・・そっかぁー・・・。」

「だからハァヴィさん、かぁ。」

「でもなんでファミリーネームで呼んでるの?」

って聞かれて。

「・・・・・・」

考えてるようなエルは。

「・・・・・・・・・」

虚空へ・・・その瞳を移して、見つめ。

「・・・?」

それから首を傾げていて。

『・・・。』

とりあえず、それを見つめてた皆も沈黙してるわけで・・。

何か言いたそうな顔を見合わせてみる子も、ちらほら。

「ぁ、あの・・・、」

って、より小さな声が。

アヴェが、顔をやや上げて、何かを言おうとしてるのを。

・・・・おお・・お?、と、アヴェのおずおずとした動きに、1つ1つに、皆も静かに注目を・・・。

「・・み、ミド、る、ネーム、です・・。」

「ほーー。」

やっと答えたアヴェの言葉に、大きく納得してたキャロで。

「え、どっちが?アヴェエ?ハァヴィ?」

「ハァヴィじゃないの?」

「ハァヴィかぁ。」

って、ススアたちに、アヴェはこくこくと激しく頷いてて。

「ん-、」

「つまり、アヴェエ・ハァヴィはファミリーネーム入ってない、ってことよね?」

シアナが丁寧に聞いてあげれば、アヴェは紅い顔でこくこくこく、頷いてた。

・・その横で。

ちょっと目を円くしてエルザがアヴェを見て固まっている。

・・滅多に見れないような、驚いたような、でも呆けたような表情で。

「・・エルザ、勘違いしてたんじゃ・・・?」

ぼそぼそと、ビュウミーがシアナの耳に口を寄せてた。

「・・・っふ、くす。」

シアナの口からはちょっと、小ばかにした風にも聞こえるかもしれない音が漏れたのは、まあ、聞かなかった事にしたビュウミーで。

「ハァヴィかぁ・・っ、かっくいいなぁ、なんかーー。」

って、うちのススアは何故か興奮し始めてる。

きらきらした様な瞳が輝くのを。

共感してない表情の皆が見てたけども。

「私もハァヴィって呼んでいいっ・・?」

・・・目をきらきらさせたススアに。

詰め寄られた気の弱いアヴェはもう、こくこくと頷く。

「おぉっ・・、ハァヴィねっ、今日からハァヴィっ。」

「いや、前からだけどね・・。」

ささやかに言っとくキャロも。

「そんなのわかってるよ・・っ。」

「はいはい。」

子供をあしらうような、あからさまな態度にススアも少し頬っぺを膨らましたようだった。

―――鐘が鳴ってた。

それに気付く教室の中は、ちょっとは静かになっていってて。

「頬っぺた、触わっていい?」

「いやだ!」

ビュウミーが悪戯っぽく笑って絶対に届かないのに手を伸ばして、ススアの頬っぺた目掛けて指を伸ばしてるのも、ススアが何かを言ってるのも横に。

―――・・・エルは隣のアヴェを見つめてた。

・・その瞳に気付いたアヴェは、その不思議な瞳に、ぴくっと少し、目を円くして。

じっと・・・見つめてくる、エルの瞳の・・。

「・・アヴェエさん、って、呼ぶべきでしょうか・・・?」

って、あの子が、静かに、呟くように言ってた。

たぶん、凄く気にしてる、のかもしれない・・・。

「・・ハ、ハァヴィ・・、でも、いいです・・。」

少しずつ、小さくなってくアヴェの声だったけど。

「・・・ハァヴィさん・・」

あの子は、そう呟いて・・。

・・・・。

「・・・ぁ、ぁと・・、」

アヴェは、緊張のままに、あの子に。

「はい。」

あの子は、ちゃんとアヴェに返事をして。

「・・『さん』、は、つ、つ、・・・付けなくて、も、いい・・です・・・。」

「・・・」

・・瞳を瞬かせてるような、あの子に。

アヴェは、俯かせたままの顔に、少し恥ずかしくなってきて・・。

・・顔も上げれなかったけど。

「・・はい。」

そう、静かな声が、返って。

・・アヴェの頬がまた少し紅くなる。

「・・・ハァヴィ・・・?」

って、少し不思議そうな響きも・・。

「は、はい・・っ。」

どきっとして、顔を上げたら。

あの子は、私を見つめてて・・。

少し、嬉しそうに、微笑んでて・・・。


―――・・・そんな2人の横で、シアナが眉を寄せてるような、怪訝そうな顔で、そんな2人の様子を見てたけど。

その隣で眺めてたビュウミーは、そんな横顔のシアナと大人しい2人で丸ごと。

小さく噴いた、ちょっと可笑しくて。

その後ろで、開いたノートの前で、マンガの話をして笑ってるキャロとエナに、ススアも。

先生が大きな声で教室に入ってきたら、次第になるべく口を閉じてく教室と。

先生の声を聴き始めて。

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