世界の終わりの花子とトメ子!

猪子馬七

花子とトメ子



 女子中学生の花子とトメ子が、学校帰りにワクドナルドで談笑していた。


「ねえ、トメ子ちゃん」


「なによ、花子ちゃん」


「私さ、エブリ○タで小説家目指してるじゃない?」


「そういえばそんなこと言ってたわね」


「でさ、今度別冊フレ○ドの漫画原作賞が開催されるのよ!」


「ふーん。で?応募するの?」


「一応、そのつもりだったんだけど、どうみても募集部門がおかしいのよね!」


「おかしいって?」


「二つの応募部門があってさ、そのうちの一つは学園恋愛部門。まあ、これは分かるわ。少女漫画と恋愛漫画は切っても切れない関係だし!」


「つまり、おかしいのはもう一つの部門の方?」


「そう!そうなのよ!もう一つの部門はさ、世界の終わり部門なのよ!」


「…ごめん。私、少女漫画って殆ど読まないから意味不明なんだけど?ナニ?世界の終わり部門って?」


「なんかね、世界の終わりを舞台にした、切ないラブストーリーを募集してるのよ。意味不明でしょ?」


「いや、そう説明されたら意味は分かるでしょ?切ないラブストーリーなら、少女漫画でアリなんじゃないの?」


「バッカねぇ~トメ子ちゃんは!前々からトメ子ちゃんの事をバカだバカだとは思ってたけど、本物のバカよねぇ~!」


「え?ナニ?喧嘩売ってんの?鼻にポテトぶっさすわよ?」


「いい、トメ子ちゃん?仮に一週間後に隕石が地球に衝突して、世界が滅びるとするじゃない?そんな状況下に置かれてさ、切ないラブストーリーなんかあると思う?」


「いや、そりゃあるでしょ?」


「あるわけ無いでしょ、そんなの!一週間後に地球が滅びるなんてニュースで放送されてみなさい!非モテのブッサイクな男どもが我先にと、女の子に襲いかかるわよ!」


「そう言わてみればそうかもね。犯罪なんか多発しそうだし」


「まさに阿鼻叫喚の地獄絵図!でも一番悲惨なのは、野獣化した男どもにすら襲われることのない、ブッサイクな女の子!そう、トメ子ちゃんみたいな子ね!」


「……」


「フゴッ!?」


「鼻にポテトをぶっさすって言ったわよね?」


「ごめん、トメ子ちゃん!ちょっと調子に乗ってた!」


「分かればいいのよ」


「でもさ、世界の終わりで切なさを感じるのはブッサイクな女の子だけじゃない?可愛い女の子は逃げるのに必死で、切なさなんか感じてる暇は無いんだからさ」


「…つまり、何が言いたいの?」


「つまり、世界の終わりを舞台にした切ないラブストーリーを募集してるってのは、別冊フレ○ドの読者がブッサイクだって事なのよ!」


「すんごい極論ね。あんた、いつか後ろから刺されるわよ?」


「別に私が決めつけてる訳じゃないわよ?別冊フレ○ドの編集部が、世界の終わりに切ない思いをする、ブッサイクを主人公にする部門を設立したってだけの話!そして私はその対策を考えてるだけよ!」


「で?それを私に話すって事は…」


「そりゃ、トメ子ちゃんがブッサイクだから…フゴゴッ!?」


「…後ろから刺されるって忠告したわよね?」


「ううう…まさかお尻にポテトを刺してくるとは…」


「よく味わって食べなさい」


「お尻でポテトを食べる習慣は無いんだけどね」


「なら、これから習慣付けたら?」


「いや、調子に乗るのを自重させて頂きます」


「よろしい」


「んで、話は戻るけど…私は世界の終わり部門に応募しようと思ってるのよ」


「今の流れで、何でそっちの部門に応募することになるのよ?普通は学園恋愛部門の方に応募するんじゃないの?」


「学園恋愛部門の方が応募者は多いと思うのよね。それだとライバルが多いじゃない?だからブッサイクが切ない思いをする方に応募するのよ」


「まあ、いいけど。で?どんなストーリーを用意してるのよ?」


「うんとね、まず隕石が地球に衝突するってニュースで流れて、可愛い女の子が襲われる犯罪が多発するのよ」


「まあ、そうなるわね」


「そんな混沌とした世界の野獣化した男にすら襲われない、余りにも切ないブッサイクが無双する話を考えてるのよ」


「ちょっと待って。何でブッサイクが無双する必要があるのよ?」


「え?だって男に襲われないブッサイクな女の子が考えることって、逆に男を襲うことじゃないかな?そう、死ぬ前にイケメンを襲って良い思いをしようと、画策すると思うのよね」


「…まあ、否定は出来ないわね」


「それでお目当てのイケメンを襲撃しようとするけど、他のブッサイクな連中も考えることは一緒!ブッサイクな女の子達がイケメンを取り合って争うわけよ!!」


「想像したくないけど…醜い争いが始まりそうね」


「んで、主人公のブッサイクな女の子が無双するのよ!他のブッサイクな女の子のお尻にポテトを刺しまくってね!」


「おい、こら、ちょっと待て」


「そして勝ち抜いたブッサイクな主人公が、お目当てのイケメンに近寄るけど…イケメンは自決するのよ!ブッサイクとなんか関わりたくない!死んだ方がマシだって叫びながら!ポテトを喉に詰まらせてね…」


「…確かに世界の終わりの切ないラブストーリーね。内容はクソだけど」


「大賞は獲れないかな?」


「その作品、読者や編集者が望んでる漫画の原作だと、本気で思ってるの?」


「え?ダメかな?結構いい線いってると思うんだけど?」


「まあ、普通の応募作の中で異色を放つ作品だとは思うから、ひょっとしたら…」


 と、そこで二人のスマホが同時に緊急速報のアラームを鳴り響かせる。


「ちょ、ちょっとトメ子ちゃん!これ、見て!隕石が地球に衝突するってニュースが!」


「……」


「あれ?どうしたの?ポテトなんか握りしめて…」


「私ね、前々からバスケ部のキャプテンの太郎くんってカッコいいなぁって思ってたのよね」


「え?それがどうしたの?いや、それよりも、何で私のポテトまで握りしめてるの?」


「サッカー部のキャプテン、一郎くんもカッコいいなぁって思ってたからね。なら、ポテトは多い方がいいでしょ?」


「ま、まさか…」


「花子、女の子には…いや、ブッサイクにはね、やらなければならない時ってのがあるのよ!そう、それが今なの!」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


「待てないわ!んじゃ!」


「トメ子~!!」


 両手にポテトを握りしめたトメ子は走り出した。何の迷いもなく、ただ部活動に勤しむ太郎と一郎の元へと!



 世界の終わりの切ないラブストーリー。その結末はまた別のお話で…。




 終劇


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