第45話 デワルズ討伐
エルモアとゲットーオスメ率いる警備兵がいる野営地におよそ千人の男たちが向かった。あと千五百メートルのところで、
あちらこちらから爆発音が響き始めた。ある者はバラバラに、ある者は手足が無くなった状態で男たちが宙に舞った。
しかし、男たちは何かに取りつかれたように前進して行きその数を確実に減らしていった。
エルモアの持つ幻影魔法と先の男の報告で洗脳された男たちは幻の小川と裸体を見せられていた。
南北の茂みから一斉に弓兵が立ち上がった。
「放て」
の掛け声と同時に男たちの頭上に弓の矢が雨のように降り注いだ。両脇の矢が届かない中央はゲットーオスメ隊の弓兵数名が正面から打ち抜いた。
ロスフォン隊のシャルガットと医療隊のライトの矢はその位置から中央の男たちの頭を真っすぐ打ちぬいていく。
その後、エルモアとゲットーオスメ隊は五百メートル後退。
「くそ。はめられた。馬車を後方へ回せ。全力で逃げるぞ。お前たちも着いてこい」
カジルダットが周りにいた四人のB級冒険者に声を掛けた。
「カジルダット。あれはなんだ?」
一人の冒険者が指をさした。
その方向見たカジルダットの顔から血の気が引いた。
テルユキが率いるおよそ百人の警備隊が隊列を組んで行く手を阻んでいた。
「何でここに勇者の賢者テルユキが居るんだよ」
一人の冒険者がうわごとの様につぶやいた。
爆発音が止み弓の雨が止んだ。この時点でデワルズの雇った戦力はおよそ三分の二を失っていた。
それでも地雷原を抜けた者達がエルモア、ゲットーオスメ隊に突撃していったが。
「ノーデス隊突撃」
とカノメスが先頭で走り出した。それに呼応するかのように南のスピランスが
「カラチョム隊突撃」
西のゲットーオスメが
「ゲットーオスメ隊。抜刀。突撃」
三方から攻められたデワルズ戦力は男の兵を見て武器を取り出し戦い始めたが、その数を一方的に減らし、後方へ逃避し始めた。
「ウッド隊。火魔法発動。最大火力。槍術隊、剣隊両翼展開」
デワルズの馬車を追い越し逃げようとした者達は容赦なく炎の洗礼を受け、それをよけて左右に分かれた者達は槍や剣によりバタバタ倒れて行った。
テルユキも束になって襲い掛かってくる賊の首を一払いで切り離していた。
二週間以上歩き続け、朝食も昼食も取らず全速力でおよそ二十キロを走ってきた者達にとって疲労困憊をすでに超えていた。粗悪品の薬のため効果は薄く戦闘力も能力の引き上げも恐怖の緩慢もほとんど無かった。
それはもうテルユキ達の一方的な蹂躙だった。
フラポットに情報を送っていた間諜はすでにニ十キロ手前で離脱していた。最初に大声で女兵の話をした男であった。
「ミルル。ドルホ様達に前方三キロ黒い馬車B級五人。地雷は封印済み」
ゲットーオスメ隊とカラチョム隊の間で待機していた、医療隊のミルルに連絡した。
「ドルホさん出番です。前方三キロの黒い馬車。B級五名」
「出番なしかと思ったぜ。ラミル、ライト行くぜ」
「了解」
三人は一直線に馬車に向かった。三人が通過した後には死体が横たわっているだけだった。
ゲットーオスメ隊のエルモアは。
「何よこの木偶の坊。張り合いないわね。少しは頑張りなさいよ」
「奥様そんな無理な事言ってあげないで下さい。この者達が可哀そうです」
「オスメ何言ってるの、あなただってサクサク切ってるじゃない。これじゃウサギ狩りの方が難しいわ」
「奥様、おそらくこの者達テルユキ様の策に完全にはまって、昨日から何も食べずにここまで私たちの体を求めて全力で走って来たんでしょうね」
「それにしても、張り合いないわね。虐殺じゃないこれじゃ。ほらもっと脇を締めて剣を振りなさい。脇が甘いってば。ほら踏み込んで。あぁぁあ」
ゲットーオスメとエルモアの前に立った者達は剣を振り上げる前に縦、横にと切り裂かれ、槍を持った者は穴だらけで立ったまま死んで逝った。弓を持った者は弦を弾く力も無く、魔法の者は魔力が尽きて立っているだけであった。
「あなたそれで何人目」
「こいつで二十七人目ですっと」
「あら少ないわね。私はこいつで三十三人目よ」
「奥様二十数年のブランクを感じさせない槍捌きですね」
「もう今ならあなたにも負けないかもよ。ほらほら、あなた一歩が遅いわよっと」
「いえいえ。あの者達の様にバラバラや穴だらけになりたくありませんので遠慮しておきます」
「しっかし弱いわね。これで冒険者?ゴブリンの方がまだ強いわよ」
「先般の流れゴブリン討伐時のケーブタウロスやケーブヒユースは面白かったですよ」
「私も参加したかったわ。こんなの肩慣らしにもならない」
「でも、この大陸に住む同じ人間として気が引けますね」
「こいつらはその人や他の種族を金としか見ていない屑よ。現にあなたたちを見て性欲の道具としか見ていないんだし、もうすでに廃人だし」
「そうでした。今まで殺る側だったのが、殺られる側になっただけ」
「そう言うことよ」
「遠慮なしに行きますよぉぉって。奥様もう両脇から味方の姿が見えてきましたよ」
「あららぁ。もう終わりかしら。後ろは?」
「我が隊のみですね」
デワルズの馬車の所で。
テルユキは頭から返り血を浴びて顔の半分が血まみれで、ローブの体の半分も返り血がベットリと付いていた。
「勇者テルユキとお見受けする」
「勇者ではありませんよ。冒険者テルユキです。会話は無用です」
「いや。確認したい。何故我々は殺されなけらばならない」
「この大陸に住まう者達の共通の敵です」
「デワルズはそうかもしれんが我々B級冒険者はそうではない。過去には人族をはじめ、守り救って来た」
「あなたは?」
「カジルダット。B級だ」
「やはりそうでしたか。なぜ人の道を外れ、デワルズの金を受け取ったのですか?」
「生活の向上と、歳のためだ。そう長くは冒険者は務められない」
「冒険者になる時点でわかっていたはず。いい訳です。しかもあなたは十分なお金を持っている。嘘をつかないで頂きたい」
「そうではない。君はまだ若い、我々ぐらいになればそのうち解る。金と女の大切さが。己の掲げる正義だけでは生きては行けん」
「じゃぁ今は解りませんので仕方ありません。若気の至りと言う事で許してください」
「いや、待て。待ってくれ。まだ俺は何もしていない。今ならやめれる」
「形勢が不利になったからと雇い主を裏切るのですか?そんな人は何を言っても信じられませんね。女王ティナ陛下を誘拐し、リアティナ様を殺そうとしたあなたの言うことなど絶対に信じません」
ドルホが到着した。
「おいおい。カジルダット久しぶりじゃねぇか。元気だったか。いやぁ歳くったなぁ」
「ドルホ。なんでここに」
「俺がどこに居たっていいじゃねぇか?いちいちお前の許可が必要か?なんならラミルもライトも居るぜ」
ドルホがカジルダットの後ろを指さして教えた。恐る恐る振り返るカジルダットの目にラミルとライトが華麗に舞い元B級の冒険者を撫でるように倒している。ライトは弓を剣に持ち替えてラミルの指導の元、右に左にバク転し軽く飛び回っている。
「あいつらにとっちゃB級なんざ練習台にもならねぇな。そんでお前はテルユキ様に命乞いか?」
「違う。俺は何もしちゃいねぇんだよ」
「ほう。今日は だがな。前回は森にピクニックにでも来てたのか。ティナ陛下を誘いに」
「あの時だって、俺は誰も殺しちゃいねぇじゃねぇか」
「殺していないんじゃねぇよ。俺たちを殺せなかっただけだよ。お前が弱くてな。で、死ぬ準備は出来たのか」
「まっ、待ってくれ。頼む。謝るから。許してくれ」
「お前の前で何百人の者達がそうやって命乞いをしたんだろうな?しかも全く罪も無かった者をお前は容赦なく笑いながら切り刻んで殺した。両手足を切り落とした男親の目の前で妻や娘を犯し、恋人の男の前でも、同業者の女たちも同じように犯し続けたな。俺の怒りを表現する形容詞がねぇよ。この変態野郎」
「あれは薬のせいだったんだ。もうやめた。そうもうやっていない。反省もした。だから許してくれ。頼む」
「すべてがやりすぎて、遅すぎましたね」
「ラミル様。ドルホ様にお願いしてください」
「何を?あなたを助ける?冗談じゃないわ。あなたの鬼畜さはこの大陸の全員が知っている事。ここで私達があんたを見逃すと思って」
ラミルはガジルダットの首筋に剣を突き付けた。
「ドルホ。連れて来たわよ。デワルズ」
「おうライトありがとな」
「こいつ凄いわよ。こんな戦闘の中、馬車の中で女達侍らせてやりまくってたわ。捕らえる瞬間に、こいつ女を全員殺しちゃったけど」
「どいつもこいつも変態鬼畜野郎だな。女を何だと思ってやがる。なんか剣の錆にするのも嫌になってきたぜ。ライト二人纏めて矢で粉にしてやってくれ」
「はいはい。いいですよぉぉぉ。私の人族の友人もガジルダットの毒牙で殺されましたからね。恨み込めて、でも一瞬では死にませんからね」
「おいおい。お前たちなぜわしを捕らえる。わしはこの大陸で一番の偉い人なのだぞ。もうすぐティナの体はわしのおもちゃとなり、そしてわしの子を孕むのだ。早くティナの元に案内せよ」
「何だとこのクソタヌキ野郎が。ライトやれ。一秒でも早くぶっころせ」
「このゴブリン以下の下等野郎たち。どこまでティナ陛下を侮辱する。死にさらせ」
ライトが弓を弾き終えると同時にテルユキの鋭い眼光が過去最高の魔力を矢に注いだ。白く眩しく光る矢は虹色、金色と変わりそして真っ黒になった。
その瞬間に矢が放たれ立っていたデワルズの頭を貫通し、ガジルダットの胸を貫いて矢は消滅した。二人の体は一瞬ぐにゃりとよじれて消えた。
「テルユキ様よ。なんかあっけないな。苦しまずに消えちまったよ」
「ドルホ様。ご心配なさらず。ティナ陛下の枯葉と同じ効果がありますが、僕のはティナ陛下の数十倍の威力で魂の激痛が一年間続きます。この水晶で今、二人がいる
空間を確認できます。いい気味ですねぇ」
返り血を浴びた顔に薄ら笑みを浮かべたテルユキが、手に持った水晶を三人の前に出した。
そこに映し出された二人の姿は表現が出来ない形になって、何かを叫んでいる。
「声もいりますか?」
「これが一年?おお怖い怖い。失礼しました。十分ですテルユキ様。ラミル、ライトなっとくか?」
「はい。テルユキ様に従います」
ラミルは弱々しく答えたが、ライトは口を押えて突き上げそうなものを押し込んでいた。ドルホとラミルが背中をさすった。
「しかし。テルユキ様もお優しい顔してえげつないですね」
ラミルがライトをさすりながら質問した。
「ティナ陛下とリアティナ様に牙をむくものには何者であっても一切容赦しません。これでも足らないくらいです」
「テルユキ様が味方で良かったと心底思うよ。俺達妖精族の積年の思いと、今まであいつ等に無念に殺されていった者たちの恨みがほんの少しでも報われればいいな」
「そうですね。ドルホ様」
「さてと他の奴らはてこずってねぇか?」
ドルホがライトをさすりながら戦場を見回した。もうほとんどデワルズの戦力は残っておらず。数人が這いつくばって動いているが戦闘は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます