第39話 妖精族女王ティナの裁き その三の二

 ノーデスの屋敷の地下牢屋。


 「待たせたな。名無しの男よ」


 「・・・」


 「さてと今からお主には死ぬことより辛い目にあってもらう。覚悟せよ」


 「・・・」


 ティナがテルユキの方を見て合図した。


 「やってくれ」


 檻の扉が開き兵二人が先に入り前後に付いた。ミルルの杖が頭上に止まった。テルユキが頭に王冠を乗せて術を唱えた。


 「聖なる光にて、この者を縛る心身束縛術を解き放て」


 彼の者の頭から真っ黒な球体がゆっくりと上がりミルルの杖の水晶に引き込まれて消えた。球体は透明色だった水晶を一瞬で真っ黒にした。


 男はがっくりとうなだれ動かなくなった。


 「聖なる光において、この者を浄化せよ」


 王冠の水晶が一瞬光粉々になってこぼれ落ちた。粉は一つ一つがキラキラと男を包み込み牢屋全体が眩い光でいっぱいになった。ミルルの杖の水晶は元の透明になり光を取り戻した。


 男は目隠しのままゆっくりと頭を持ち上げてきた。


 「お前の名は?」


 ティナが男に問う。


 「私はシャルガットです」


 「家族は?」


 「家族はいません」


 「恋人は?」


 「エイミスタ。連れ子のルーリエがいます」


 「お前の仕事は」


 「しばらく前まで城壁の門番でした。首になりました」


 「理由は?」


 「解りません」


 「エイミスタの仕事は?」


 「元冒険者。攻撃魔法と回復魔法でした。今は無職です」


 「なぜ無職か?」


 「ルーリエの足が悪く付き添いが必要です」


 「そうか。わかった」


 「お前の記憶にある城壁で最後に会った者の名前は?」


 「門番兵の友人。トルヴァイン」


 「門を通過した最後の者は?」


 「北西大陸から来た行商の老夫婦。名前は知りません」


 「馬車又は荷馬車を引いた者の最後は?」


 「デワルズ所有の馬車の御者。名前は知りません」


 「会いたいものはいるか?」


 「エイミスタとその子ルーリエ」


 「会ってどうする」


 「ルーリエの足が治ったらエイミスタと結婚します」


 「エイミスタの夫は?」


 「城壁の兵の私の友人でミュマイド。一年ほど前の洞窟で魔獣が溢れた時に、私と二人で妖精族の森の警護中に魔獣に殺れました」


 「そうかあの時の者であったか」


 「その時、あいつに忌の間際に二人を頼まれました」


 「わかった。少し休め」


 「はい」


 「この者の縄を解きベッドで休ませてやれ。あと食事もな。後程来る」


 「御意」


 「テルユキ、ミルル我らも遅くなったが昼食としよう。バト頼む」


 「わかりました」


 「畏まりました」


 「テルユキよルーリエの足を見てやってはくれまいか?メデスも回復が効かないと言っておる」


 「それは昼食前にでしょうか?」


 「食後で構わんよ」


 「了解です」




 昼食の後、暫くしてからのノーデスの地下牢屋。


 「シャルガット。気分はどうだ」


 ベッドに腰かけていたシャルガットは飛び降りて傅き。


 「女王ティナ陛下。呪われていたといえ、とんだご無礼をしていた事、謝罪いたします。どのような厳罰でもお与えください」


 「まずは落ち着け。そしてベッドでいいから座れ。命令だ」


 「畏まりました。失礼いたします」


 「それで気分はどうだ?」


 「多少まだボケている気がしますが、はっきりと考えられます」


 「良かったな。そこに居るテルユキとミルルに感謝しろ。二人がお前の呪術を解除してくれた」


 「勇者カノメス様の所の賢者様と回復魔法師様が私を?とんだお手数をおかけしてしまい申し訳ございません。処分して頂ければ良かったのですが」


 「バカを申せ。お主には聞きたいことが山ほどあるから死なれては困る」


 「申し訳ございません」


 「お主は誰に呪術を掛けられたと思う。思い出せるか?」


 「デワルズの馬車内を確認した時に小太りの男が居ました。その男だと思います」


 「その男の特徴は?」


 「右手の中指に金地に金剛石の塊が付いた指輪をしておりました。それ以上は思い出せません」


 ティナがテルユキとミルルを見て三人は頷いた。


 「そうか解かった。あと悪魔の粉は何処にある」


 「私は持っておりませんし、販売を委託もされておりません。ただ、頭に残っている指示は、ノーデス様の屋敷の見取り図と住人の秘密を探れ。後は女王ティナ陛下を捕縛できぬなら・・・」


 「構わん申せ」


 「はい。恐れながら。殺せ です」


 「ロレーナとエルラルは?」


 「デワルズの手下なる者が来まして、誘拐と薬漬けの手伝いをして消えました」


 「消えたとは?」


 「殺されたと子供から聞かされました。エルラルに遣わした子供とは別人です」


 「また尻尾が切れたな」


 「申し訳ございません」


 「まぁいい気にするな。あとこの界隈で悪魔の粉の売買があるようだが何か知らないか?」


 「エルラル一家に盛った者の話なので正確かはわかりませんが、(お前もこれが欲しくなったらトルヴィットのヴィヴィアンズという女に言え格安で分けてもらえると 言ってました) あとウッド様やシーウエスト様のあたりに居る販売者たちはこのヴィヴィアンズの子飼いだそうです」


 「そのヴィヴィアンズとは何者だ?」


 「その者も詳しくないようでしたが獣人族のタイガン族の女のようです。逆らうとエサになると言ってました」


 「よし、よく言ってくれた。ご苦労であったな」


 「このまま厳罰をください。女王ティナ陛下。もう生きていけません」


 「なぜだ?」


 「私は陛下を殺せと命じた者です。到底許されるものではありません。どうか、どうかこの場で処刑をしてください」


 「お主はウッドの所の城壁から見れる景色が恋しいのではないか?」


 「そのような事は何でもありません。厳罰を頂かないと胸が押しつぶされそうです」


 「楽になりたいのか?」


 「そうではありません。命を懸けて森の警備隊に志願して、敬うティナ陛下に対しての数々のご無礼、非礼を思えば心の蔵がどうかなりそうになります」


 「そうか。ではな、もっと生き地獄を味わってもらおう。処罰を言い渡すのでよく聞け」


 「はい、何なりと」


 「入ってこい」


 ティナが後ろに居るバトスメルに言った。


 「シャルガット。面を上げよ」


 「はっ」


 シャルガットの前にエイミスタとルーリエが立っていた。


 「エイミスタ。ルーリエ?立てるのか。ルーリエ立てるか?」


 「うん。おじさん見て。ちゃんと歩けるしほらジャンプもできるよ。すごいでしょう」


 ルーリエはくるりと回ってスカートを花のように広げた。


 「すごい。すごいな。良かった。ルーリエの立っている姿、奇麗だな。おじさん嬉しいな。でも、何故だかぼやけて良く見えないな。ミュマイドにも見せてやりたかったな」


 「おじさん大丈夫だよ。お父さんはちゃんと天国から見ているから。喜んでいるよきっと」


 「そうだな。ああ、きっとルーリエの姿を見て喜びながら泣いてるよ」


 「シャル。私達のために苦労を掛けてしまってごめんなさい。ルーリエの足を治すお金を工面しようとしてくれてたなんて知らなかった」


 「ああ、でもお金が出来る前に罪人になってしまった。ルーリエの足が治ったなら良かった。本当に良かったよ。そして二人になってしまうが幸せになってほしい。すまなかった。ミュマイドとの約束が果たせないのが残念だが」


 「感動の再開を邪魔して申し訳ないが良いか?」


 「ティナ陛下。失礼たしました。お見苦しいとこをお見せしました。厳罰を願います」


 「わかった。今から申し渡す。エイミスタとルーリエお前たちもよく聞け。反抗も口答えも許さん。罰の軽減も無い。よいな?」


 「畏まりました」「わかりました」


 「申しつける。今、これより三人でロスフォン・ウッドの屋敷に向かいそこで指示を仰げ。そして三人仲良く暮らせ。離れることは絶対に許さん。これを持って行け。

エイミスタこれで良いか?」


 「この上なき、ありがたき幸せ」


 「ティナ陛下これ


 「黙れシャルガット。発言を許してはおらん。エイミスタこの書状をウッドに渡せ。すでに使いは出してあるから問題は無い。これは妖精族のために勇敢にも散っていったミュマイドへの我からの謝礼金だ。あと、ルーリエの危険も考慮して護衛二人と馬車御者を付ける。そしてシャルガットに弓を遣わす。命を懸けて二人を守り抜け、だが死ぬことは許さん。良いな」


 「ティナ陛下。これでは


 「まだ文句があるのか?これは我からの謝礼だ。妖精族の森ではミュマイドには申し訳ない事をした。エイミスタ許せ。その代わりシャルガット、お前が死ぬほど働き残された二人をこの世で一番幸せと思うくらいにしてやってくれ。これがお前に対する我からの礼と処罰だ。わかったらもう行け」


 「発言のお許しを、足の礼を言っておりません」


 「そうか。ならばテルユキとミルルにしてやれ。治したのは二人だ」


 「賢者テルユキ様。回復魔法師ミルル様この度はルーリエの足を治していただき感謝してもしきれません。どのような謝礼をすればよいのでしょうか?」


 「謝礼ならもう頂きましたよ」


 ミルルがルーリエに向かって歩き始めた。


 「どなたから?」


 ミルルがルーリエを抱きしめて。


 「ルーリエちゃんから。二人ともほっぺにキスを頂きました。テルユキは真っ赤かになって照れていたから大丈夫。私もとっても嬉しかったよ。ありがとね、ルーリエちゃん」


 「うん。ありがとう。女王様。お兄ちゃん、お姉ちゃん」


 ティナはルーリエの髪を撫でながら笑顔で。


 「良かったなルーリエ。これからはシャルガットがお父さんだからな。思いっきり甘えるんだぞ。よいな」


 「はい女王様」


 「では、行け」


 「はい」


 三人がバトに連れられ地下牢から出て行った。




 三人の後姿を見ながら。地下牢から外に出た。


 「陛下。シャルガットさんがルーリエちゃんの治療費を工面していたのですか?」


 ミルルが不思議そうに尋ねた。


 「ああ、兵の仕事もこなしつつ、非番や夜間は城壁の向こうで農民たちの畑仕事を手伝ったり、冒険者の真似事で稼いでいたりしたようだ。現にあ奴の部屋から

ルーリエ治療費と書いた術式を施した貯金箱なるものが見つかっておる。中を見たわけではないが目的の治療費まで後わずかだったようだ」


 「ああ、そこに書かれた目的以外では開閉できない術式ですね。普通には解除できない」


 「バトが城壁の兵に確認したら、あ奴一日をこぶし大のパン一個と雑草のサラダでほぼこの一年過ごしていたようだ。見かねた友人たちが裾分けを申し出ても頑なに断り続けたようだ。給料も半分以上をエイミスタにウッドからだと言って渡し、残りのほかで得た金も殆どを貯金していたようだな」


 ミルルは言葉にならず、目にあふれるものがあった。


 「おそらく。甘えちゃいけないと思ったのでしょうね」


 テルユキも目を滲ませていた。


 「ああ、一人で頑張りすぎたのであろうな。友人との約束を。そしてデワルズに人となりを見られて、その心の隙を突かれたのであろう。卑劣な真似を」


 「絶対に許せませんね」


 ミルルが強く拳を握りしめた。


 「ああ、あの人でなし絶対に許さん。この手で必ず罰してやる。テルユキ。ミルル。あ奴の処罰を手伝ってくれるか?」


 ティナは強く返した。


 テルユキもミルルも強く深く頷いた。そしてテルユキが。


 「ここにいる皆さんも。いえ、この大陸の平和を望む方たちすべてがを望んでいるはずです」


 「ああそうだ。その通りだと我も思う」


 屋敷の広間に付いた三人はソファーに腰かけた。


 ティナは三人掛け。テルユキとミルルは一人掛けに。


 丁度メデスが休憩をしていた。


 「メデス。すまないが我達も熱めの茶を貰えるか?」


 「わかりました。少々お待ちください」


 メデスが近くにたメイドに頼んだ。


 「ティナ陛下。お疲れ気味ですか」


 「ああそうかもな」


 メデスにそう答えて、ティナは肩に手をやって首を左右に振った。


 「ティナ陛下、お肩をおもみします」


 「ああ、ありがとう」


 メデスがソファーに腰かけているティナの肩に両手をかけた。


 「シャルガットが我を捕縛できぬ場合は殺せ、エルラルはシャルガットの命に背いて痺れ薬、ロレーナはエルラルからの指示を泣き止まぬ呪術へ変換」


 「でも、何故デワルズはティナ陛下を捕縛しようとしたのでしょう」


 テルユキが不思議そうにティナに言った。


 ミルルも不思議そうな顔をして。


 「そうよね。不敬と思いますが、殺せだけの方がまだ現実味があるように思うのですが。捕縛って生きたまま、もしかしてデワルズはお美しいティナ陛下に気があるのかも」


 「ミルルよ恐ろしい事を言わんでくれ。うううう寒気がする」


 ティナは自分で両腕をさすった。


 「ティナ陛下。悪寒ですか?いけません。ミルル様手伝ってください。皆の者、ティナ陛下がご病気だ手伝ってくれ、すぐにお部屋へ」


 「メデス様?はい、あ あの あ、わかりました。ティナ陛下こちらへ」


 ミルルも突然の出来事に訳が分からず。


 「いや待て。違うぞ。おい待て、違うといってあぁぁぁぁ。メデスぅぅぅ、ミルルぅぅぅぅ」


 ティナはメデス、ミルルとメイド達に片足に二人づつ体の部分を二人づつ大の字で持ち上げられ二階へ連れて行かれた。


 ティナの部屋からティナの叫び声を最後に静かになった。


 夕食が運ばれた後も翌朝までその扉が開くことは無かった。

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