第20話 女王ティナの王命

 崖下の城壁


 ゴブリンリーダーを倒したドルホが城壁内のライトのところへ階段を上がってきた。


 「ライト。水と簡単食はあるか」


 「ドルホに持ってきてあげて」


 近くにいた兵に依頼した。すぐに届けられドルホはゴクゴク、ガツガツし始めた。


 ドルホとライトの所へ城壁外周の警戒に当たっていたアルが上がって来た。


 「ドルホご苦労さん。見てなかったけど手こずったみたいね」


 ドルホは食らいながら。


 「ちょっと体慣らしただけだよ。見事に一発食らったがな。この後はどうすんだい。アル様。流れゴブリン本体百をぶっ叩くんだろう」


 「そうね。ライト、兵の感じはどう?このまま戦えそう?」


 ライトが弓兵と軽装兵の長から報告を受けている。


 「弓兵の新人は全員指が切れてダメね。軽装兵は三人軽傷だけど歩けるようね、でも今ここで傷を回復させてもおそらく魔力を相当消耗しているから戦闘は無理そね。新人は全員戻した方がよさそう」


 ライトの報告を聞いたドルホが。


 「誰がケガしたって。てめえら訓練内容増し増しにしてやるから楽しみにしてやがれ。おいお前とお前それとお前で連れて帰ってやれ。これ以上けが人を増やすんじゃねえぞ。何かの時はお前らが盾になっても新人を入り口の城壁まで送り届けろいいな。ここに居る全員今のうちに飯食っとけ。俺が許可する」


 「あらら?ドルホあなたもケガしているんですから入り口の城壁まで帰るのですよ」


 と言いながらアルがドルホの右ほっぺをツンとした。


 「いってぇぇぇぇ。何するんです。アル様」


 「ほらね痛いでしょ?だから帰るんです」


 「これくらいが気合いが入るってもんです。かすり傷とも言わないですよ」


 「わかりました。仕方ありませんね。食事をしながら聞いて欲しい。先ほどの両者の新人は指定された上官と共に全員帰還治療を優先する。残りの者は館に向かって前進する。計画内容は順次指示を出すのでそれまで待て。帰還隊は我々前進部隊と同時にここを出立。この城壁は全員出た後、土に返す。出立時間は追って連絡する。質問はライト、ドルホへ伝えよ二人から報告を受けてしかる後返答する。以上」


 「そおいやアル様、上の連中はどうするんです。ミラ様、テト様はいいとして。ラミルとうちの五人がいますが?」


 「それなら大丈夫です。彼女たちも別命を受けていますので、それに従って行動予定です。ラミル以下五人も行くみたいですね」


 「それでもあの五人の内の、一人か二人は魔力が足らねぇえんじゃないかな」


 「正解ですね。一人足らなかったみたいです。先ほど浮遊兵が報告してきました、ラミルが魔力補充したと」


 数人の兵が悲鳴を上げた。しゃがみ込んで顔を覆う者も数人いる。


 「うるせいな。お前らにも俺が、たぁぁぁぁぁぷりと補充してやろうか?」


 新人以外の者が。


 「一杯足りてます」


 「大丈夫です」


 「問題ありません」


 「お気になさらず」


 拒絶する声が城壁内にこだました。


 新人たちと補充方法を知らない者達はぽかんとしている。


 「いいですか。補充方法を知っている者は絶対口外してはダメですよ、またこれについてはしかるべき時に教えますので、特に新人は絶対に聞かないように。確実に死にます」


 とアルが語気を強めて話した。


 「ドルホ、ライト。ミラたちとは今回共闘していませんので別行動になります。あと十分で出発します。準備を怠らないように。水だけは全員必ず持つように」


 「わかりました」「了解」




 ドルホの一騎打ちが終わったころの館内。


 バトスメルの屋敷に向かうため、ティナたちが使った館入り口横に建てられた石壁に、バトスメルの向こうへの門が姿を現した。


 その門から一人のフルプレートと軽装兵との間ぐらいの装備の女性兵士が出て、そのまま館の玄関まで赴き扉の前で。


 「わたくしはバトスメル様がお屋敷の当主ノーデス・シーウエスト様が配下、巡回警備兵隊長、ゲットーオスメ・ニガーサンデと申します。妖精族女王ティナ陛下の王命により参上いたしました。アイエ様にお目通りを願いたい」


 館の扉が開き中からアイエが出てきて。


 「私がアイエです。女王ティナ陛下の王命と聞き参りました。お一人ですか?」


 「はい。向こうへの門の屋敷側に女性兵十五名が控えており、命令待ちです。ただもう一人だけ呼びつけたいのですがよろしいでしょうか?」


 「必要であればお呼びください」


 「では失礼して」


 一礼をして門に向かい同じ装備の女性兵士を連れてきた。


 「どうぞお入りください」


 側仕えの詰め所に案内された。


 「お掛けください」


 「失礼します」


 ゲットーオスメだけが座りもう一人はその斜め後ろに立っている。


 「アイエ様、こちらを」


 後ろを振り返り布と書状が乗ったトレーを受け取り、アイエの前に出した。


 アイエが書状の封蝋を見て書状を開けた。


 「判りました。テルユキ様はすでに始まった戦闘の指揮を最前線にて執っておいでです。ここより後方の指揮は私が仰せつかっておりますので王命ではありますが現場優先とさせていただき陛下には事後報告でご勘弁頂きたいと思います。今から前線に向かうと場が混乱しかねません。城壁を出て南、つまり入り口の城壁方向へ全隊で向かっていただきます。途中我が隊の  と言う名の女性兵に会えると思いますのでその者に指示を仰いでください。およそですがこの城壁南の後方防衛に就くことと思います。良いでしょうか?」


 「了解です。それとそちらは女王ティナ陛下からお預かりした旗なのですがご覧いただけますか?」


 アイエは旗を持ち椅子から立ち上がって近くに居た者に端を持ってもらって広げた。


 白地にティナの旗印が描かれていた。中心にそそり立つ大樹、両脇に三分の二程度の高さの樹木。その三本の樹木を三本のクロスした輪が前から樹木の後ろへ回り一周して前でつながっている。三本の線上には各一体の羽の生えた妖精が描かれて、樹木の後ろには剣がクロスし樹木に上には弓が弦を下にして樹木の中を通っている。


 「ゲットーオスメ殿ありがとうございます。こちらの旗印をあなた様が最も信頼を置いている槍騎兵の槍に結んではくれますか?」


 「あの、よろしいのですか?この初対面のわたくし共にお与えになっても。旗印と言えば王の命とも同等な代物と他の大陸では大切に扱われていると聞き伝えで聞いたことがあります。そのような大役は我々には到底


 アイエはゲットーオスメの話しを途中で片手で止め


 「女王ティナ陛下はあなたたちを相当信頼しておいででしょう。でなければたとえこの距離でも同胞に託すはずです。それをあえてあなたの隊に遣わした。わたくしごときがどうこう言える立場にはありません。どうかそちらの旗印をお願いいたしす」


 ゲットーオスメは両目に涙を溜めて。


 「この命に代えましてでも、この旗印をお守り致します」


 そう言っているゲットーオスメにアイエが自分のしたためた書状も乗せたトレーを戻した。


 「こちらの書状も一緒にアルに見せてください。ご武運を」


 「ありがとうございます」


 館前に城壁の南門出口に向けてゲットーオスメと巡回警備兵十五人が整列した。


 先頭にゲットーオスメ隊長、すぐ後ろにティナの旗を持った槍騎兵その少し後方両脇に一人ずつ、その後ろに兵たちが二列で並んでいる。


 「これより館城壁南門より入り口の城壁へ向って進軍する。ぜんたぁぁぁぁい。進め」


 館の城壁で守備防衛をしている兵たちが旗を見て軽く礼をしている。

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