第8話 女王ティナの粋な計らい 後

 テルユキは淡々と話し始めた。


 「ティナ陛下が仰る通り。私はこの星の者ではありません。夜の空にある星より参りました。こちらでは空が動いて昼と夜が入れ替わっていると思われていますが実際は宇宙という空間に漂う星又は惑星で、それで私はこの地の惑星に他の宇宙空間にある私の住んでいた惑星から偶然飛ばされてきたということになります。私達の世界で言うところの、異世界人ですね」


 「なるほど。よくわからん。端的にお主はこの地の者ではいないと。大きく言えばこの惑星という土地以外から、似たような他の惑星の地から参った。で良いか?」


 「はいその通りです。私自身の意思ではなく未知の力か、たまたま偶然なのか、または誰かの意思でこちらに呼ばれたかはわかりません。何故ここに居るのかの目的すらも判りません」


 「我もそのような経緯の者を知っておるが、詳しく聞いたのはこれが初めてだ」


 「ティナ陛下もご存じなのですか?異世界人を」


 「ああ、良く知っている。ただ、本人たちの意向で全てを秘密にしているので、今ここで名を明かすことも居場所を教える事も出来ん。本人の許可が出てからだ」


 「判りました。聞かなかった事にします」


 「そうしてもらえると、こちらも助かる」


 「私も冒険者仲間のカノメス達や親しくして頂いた方たちにも秘密にしています。ですから今の今迄、誰一人私が異世界人とは知りません。ただ、ある二人を除いて」


 「判った。カノメス達にも秘密にしておく」


 「ありがとうございます」


 ティナはテトにお茶のお代わりを頼みながら。


 「テト。今、テルユキと我が話した内容、そして今から話す内容に関しての一切の口外を禁ずる。良いな」


 「畏まりました」


 ティナはテルユキの方に向きなおし。改まった口調で。


 「ただ、これだけは聞いておきたい。我の知るその異世界人達は魔術も武術も剣術も周りの者達より数段強い。我をも凌駕する力を有している。お主が我を裏切るとは思わぬが、娘の命も預けるかもしれぬ者だ。一応聞いておきたい。やはり全てにおいてカノメス達より強いのか?正直に答えてはくれぬか。他言せぬことを誓おう」


 「はい。正直に申しまして。カノメス達より全てにおいて上回る力と魔力量を持っています。魔術に関して言えばミルルさえ凌ぐ魔法の種類と力を有しています」


 「それは、カノメス達を殺すことも可能と言う事か?」


 「はい。三人が同時にかかって来ても一瞬で終わります。ただ、彼らに如何なる理由が有ったとしても、私が剣を向ける事も、傷をつける事も未来永劫ありません」


 「なぜだ」


 「私にとって彼らは命の恩人。この命は彼らの物。私が彼らに殺されるのなら喜んで殺されます。逆に彼らを害そうとする者は例え女子供であっても一切容赦しません。だた、カノメス達が私の思う悪事に走った場合はそのとこ考えます。身勝手ですが」


 「正直にって欲しい。それは我であってもか?」


 「はい」


 「我を殺すことも可能か?」


 「はい」


 「どのように?」


 「壁の向こうからティナ陛下が私の姿を見ることなく、一瞬です」


 顔色一つ変えずに話すテルユキを見てティナは底知れぬ恐怖を覚えた。そして、恐怖を抑え込むためお茶を一気に飲み干した。


 「我を、リアティナを裏切る可能性はあるか?」


 「全くありません。ただ」


 「ただ?」


 ティナの表情が緊張へ変わった。


 「ティナ陛下がカノメス達に対し、彼らが何の落ち度もなくまた、何の理由もなく害そうとした場合や、デワルズやヲガライネンの様になってしまったら、裏切るのではなく攻撃をする可能性はあります」


 「我にそのつもりは無いが、もしおかしな方向へ進みだしたら修正を頼めるか?その時は素直に受け入れよう」


 「ティナ陛下は臣下に対しとてもお優しい方。大陸で聞いた今までの言動。その可能性や心配は全くありませんので、必要はないかと思います。そもそも私などは、木っ端の無知な若輩者。ティナ陛下に対し修正など口にする事すら憚られます。今までの話は、あくまでも例えの話です」


 ティナは安堵して胸をなでおろした。そして、お代わりのお茶で喉を潤した。そして、ようやくのように背もたれにもたれた。


 「お主は今後どのように我に仕えてくれる」


 「お許しを頂き、末席に置いて頂ける間は、ティナ陛下の夢の成就に微力ながら協力させていただき、どこまでも付いて行きます。ただ、ティナ陛下に私が嫌われたら、私が力不足であったなら、その時は潔くティナ陛下の前から静かに一瞬で立ち去りますのでご心配なく。私がティナ陛下に必要な者ではなかった。それだけの事です」


 「判った。その言葉を信じて今後の協力を仰ごう。我の夢の成就に協力を頼む」


 「はい。おこがましいのですが、もうその思いです。微力ながら末席でお手伝いさせていただきます」


 「リアティナも含めよろしく頼む」


 「はい」


 「それで、何歳の時にこちらに来て、今何歳だ」


 「向こうを十二歳の時に飛ばされて、こちらで六年経ちましたので単純計算で十八歳になります」


 「向こうの年月とこちらは一緒なのだろうか?」


 「地動説つまりこの地が宇宙空間で回転している事を唱える魔法師様がおられてその方の話しですとこちらの暦と私がいた世界の暦はほぼ同じでした」


 「あまり細かい内容は今回は端折っていこう。ちなみにお主のいた惑星とやらには名前はあるのか?」


 「はい。水密球と言っておりました」


 テトがピクッとしたがテルユキは気づかなかった。


 「十二の時にこちらに来たと言っておったがどのように来たのだ?」


 「経緯と原因から話すと長くなりますので簡単にこちらに来る瞬間から話しますと、崖から海に向かって飛び降りる。落下の途中、突然崖から出てきたワイバーンの首にまたがる。落下の勢いで私の股間をワイバーンの首で強打。意識朦朧。ワイバーンは驚いて崖に後戻り。その時股間の痛みがピーク記憶を失う。この大陸の森で股間を押さえたまま悶えている時に気が付きました」


 テトが目に涙を浮かべて両手で口元を押さえている。


 そんなテトをテルユキが見て。


 「テト様。どうなされたのです?その時は死ぬかと思いましたがもう大丈夫です。心配して頂かなくても結構ですよ。おそらく子供もできると思います。テト様は、お優しいのですね」


 ティナは少し笑いながら。


 「男にとって世界を渡るということは大変なのだな」


 「どうでしょうか?」


 「向こうに兄弟はおったのか?テルユキというのは実の名か?おっとすまんつい気が早ってしまって二つ同時に質問してしまった」


 ティナは少し先に急ぐ様に質問した。


 「仰る通り、テルユキという名は偽名です。私をこちらに呼び出した者がいるかもしれません。もしいるならばその得体のしれない者に気づかれずにしばらく監視しようと思いましたので。本名は星森 空といいます。妹がいました、四つ下で名前は 海花みはなといいます。向こうに一人ぼっちで置いて来て


 「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん」


 テトが突然テルユキに抱き着いて大泣きになった。


 テルユキは座ったまま両手を上げ抱き着くテトを上から見ながら。


 「えっ?テト様。あの?えっと?あれ?お兄ちゃん?えっとテト様?あれ?」


 「おやおや、さすがの賢者様もたじたじか?」


 「いや?え?私、テト様に何か悪い事でも?それよりもお兄ちゃんって聞き間違いでしょうか?」


 「ううん違わないよ、空お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだよ。私、海花みはな だよ。お兄ちゃん。会いたかったよぉぉ」


 テトはまた大泣きになった。


 「海花みはな 本当に海花なのか?テト様?本当に海花なのか?なぜここに?どうやって?}


 テトは泣きながらテルユキにしがみつき二回、三回と頷いた。


 「海花、海花、海花ごめんよ。ごめんよ。一人ぼっちにして、寂しい思いさせてごめんよ。バカなお兄ちゃんで本当にごめんよ。海花」


 空は海花を強く抱きしめた。テルユキの止まらない大粒の涙がテトの髪に伝っていった。


 「お兄ちゃぁぁん。元気で、無事で良かったよぉぉぉ。本当に良かったよぉぉぉぉ。お兄ちゃぁぁぁん、会いたかったよぉぉぉ」


 テトは抱き着いたテルユキの顔を下から眺めそう言って、また胸に顔を埋めて泣いた。テトの両掌はテルユキのローブの背中をしっかり握りしめていた。


 「他の質問はまた次回だ。我は茶を飲みすぎたようだ。   で行ってくる」


 ティナは静かに立ち上がり、六年目の兄妹の再会に瞳を潤ませ、溜めきれない涙が光を反射させながら頬を伝っていった。


 ティナを見たテトに右手でそのままでいいと促した。そして二人を残し扉の外へ出て、静かに扉を閉めた。

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