第7話 女王ティナの粋な計らい 前

 テルユキの向かえで薄ら笑みを浮かべる美しい顔立ちのティナを直視しながら。


 「はい。どこまで何をご存じなのかを教えて頂けないのであれば、いつまでも悶々として悶え苦しみ死ぬか、土竜の口に自ら飛び込んで食われて死ぬか、はたまた櫓の天辺から飛び降りて死にます」

 

 テルユキはテーブルの上で両手をワナワナさせて震えている。


 「土竜に食われたり櫓から飛び降りた程度で死ぬようなお主ではなかろうが、悶え死ぬのは危ないな」


 「はい。悶えてのたうち回り、やがて灰になるかもしれません」


 「そうか。教えるためには条件がある。我の質問に嘘偽りなく正直に答えることだ」


 「ティナ陛下の質問の内容をお聞かせください」


 「お主の記憶の中の件。と、言えばよいか。我の知らない場所、物などについてだ。あとは経緯だな」


 「そうでしたら術式を使って尋問すればよいのでは?」


 テルユキの両手はワナワナしたままだった。


 「それは出来んのだ。生きていれば多少の嘘や秘密は持って当然。我や仲間たちを裏切っている訳でもなく、また害そうとしている訳でもないのでな。だから術を掛けても発動はせん。これは実証済みだ。だからお主の口から正直に答えて欲しいのだ。ただどうしても言いたくないことはあるだろう、そこは無理強いをしないと約束しよう。どうだ?」


 「失礼いたします。お茶のご用意をお持ちいたしました」


 扉の向こうからテトが声を掛けた。


 「テトか?入れ」


 「はい、失礼いたします」


 テルユキが作ったワゴン車に木製の茶器を乗せてテトが押してが入ってきた。廊下の突き当りの部屋に簡易の厨房が設置されている。


 「お茶を入れたら、そのままそこで控えていてくれ」


 「畏まりました」


 テトを見て話していたティナが向き直りテルユキを見つめて。


 「テルユキどうだ。質問には答えてはくれまいか」


 「わかりました。ティナ陛下には人質を取られている訳ですからお答えするしか方法は無いようですね」


 テトが人質で少し反応した。


 「人聞きの悪い事を言うでないぞ。そこまで我も悪人ではない。まぁ実際はそのようなものではあるがな」


 ティナはテーブルの上で両手を組んでもじもじさせながら、うつむき加減で、視線を逸らし、口を尖らせながら言葉はだんだんと小さくなっていった。

 

 「それではお答えするにあたってこちらから二つ質問をしても良いでしょうか」


 「その二つの質問に我が答えなければ、我の質問を拒絶すると」


 「いえ、それはありません。私からの質問内容を吟味して頂き、二つの質問を拒否して頂いても構いません。ただ、ティナ陛下のお心積もりを知っておきたいだけです」


 「わかった。その二つの質問に正直に答えよう」


 テトは場を察したのか席をはずそうと、一礼をして扉の方に歩き始めた。


 「待てテト。控えておれと言ったはずだ。お茶のお代わりを注いでくれ」


 「申し訳ございません。畏まりました」


 「それでテルユキの一つ目の質問は?」


 「単純です。それを聞いてティナ陛下は私をどうされるおつもりですか?」


 ティナはお代わりのお茶を飲みながら。


 「何もせんよ。危害を加える事も追放とかも考えておらん。我の命に誓って保証する。ただなぁ」


 ティナは口ごもった。


 「ただ?」


 「我もをどう扱おうか解らんのよ。それでお主と相談がしたかった。と、言うところか。ただし後学のためいきさつは知りたいと思っておる」


 テトは話しが見えないため少し首を傾げた。


 「判りました。ティナ陛下に対し嘘偽りなく、可能な限り詳しくお答えいたします」


 「ありがとう。よろしく頼む。それで、二つ目の我の質問は?」


 「私の話を聞いて公表されるのでしょうか?」


 「いや。それは断じてしてない。ここに居るテトも口が堅いからな。一応厳命はしておく。ただ、今後の我やお主の言動で周りの者に薄々感じ取られる可能性は

否定できぬ。不可抗力としてその部分は認めて欲しい。勿論、我も言動には最大限の注意を払う。しかし、秘密というものはいずれ必ず知れ渡るもの、それはそれとして

納得を願い出たい」


 「判りました。心しておきます。ただ、私の件が白昼に出た時、皆さんはどのように思われるでしょうか?」


 「恐らくは、普段と変わりないと思うぞ。お主が想像しているような事態には陥らんと思う。もし万が一そのような事になった場合は我が口添えし事態の収拾を図ることを約束しよう。これはお主が我の元を離れるその時まで有効とする。不安であれば覚書や念書でも取り交わして良いと我は思うぞ」


 「覚書や念書は必要はございません。お言葉を聞けただけで十分でございます。感謝いたします」


 「まぁ。我も洞窟を封印するほどの力を持った、お主のような優秀な人材は手元に置いておきたい。お主の自由は尊重するが可能であれば我の臣下として居て欲しいと思っている。あくまでも我の願望だがな」


 「はい。もし、可能であるならば私もそれを望みます」


 「まぁ、お主もまだ若い。その件はおいおい考えるとして、二つ目の質問の答えとして合格か?」


 「はい。納得できる回答を頂けましたことありがたく思います」


 「ありがとう。テトすまんが扉の外に誰かおらんか見てきてはくれまいか?盗み聞きするようなものはおらんと思うが、中には我ら三人がベッドの上で組んづ解れつをしている想像を巡らせている輩がおるかもしれんのでな」


 テトは顔色一つ変えず。


 「畏まりました」


 テトは扉を開けて一見した。


 「どなたもおられません」


 「今度はそこの窓の下に誰がおる?」


 一人掛けのテーブル横の窓から体を乗り出して。


 「アイエ様とアルとミラが庭掃除中です」


 「申しつたえよ。掃除ご苦労。掃除を終えて風呂に入れ と」


 「わかりました」


 テトは窓から半身を乗り出し下に向かいって。


 「アイエ様、アル、ミラ。テトです。三階を見てください。ティナ陛下からのご指示です。お掃除ご苦労。掃除を終えてお風呂に入れ。と、申されております」


 「畏まりましたぁ」


 元気な返事が返ってきた。アイエは側仕えの長を務めている。ティナの指示にはしゃぐ二人を見て、やれやれといった表情で。


 「テト。ティナ陛下に伝えて欲しい。ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 「ティナ陛下。お三人ともお風呂に向かいました」


 「ご苦労だった。そこに控えていてくれ。くれぐれも席を外そうとしないように。判ったな」


 「畏まりました」


 ティナは前にこぼれ落ちていた前髪を両手で肩の後ろに持って行った。


 「テト。髪を後ろで束ねて欲しい」


 「畏まりました」


 テトはティナの後ろに回り、朝日が昼の光に変わり始めた窓からの光をキラキラと反射させているストレートのサラサラの髪を軽く櫛で梳いて、

首の後ろ付近で、可愛いフリルの付いた白いリボンで一つに束ねた。


 「お待たせいたしました」


 「すまん。テルユキ、待たせた」


 ティナは姿勢を正した。


 「テルユキ。我の質問に際し何か言っておきたいことはあるか?」


 テルユキも腰かけ直し。姿勢を正した。


 「まず初めに、質問は一つづつとしてください。それとなるべくこの地の言語に変換して話しますが、私の回答の中で解らないところが有れば、その都度質問してください。おそらく話が前に進みませんので」


 「わかった。質問は一つづつとする。回答内容の疑問点については、この場に必要と思うものを選抜して質問しよう」


 「お願いいたします」


 「ティナ陛下。ご質問をどうぞ」


 「まず初めにテルユキ、お主の記憶を見た限り我が知らない物、見たことの無い物ばかり。我が知るこの世界の三大陸ではないようだが、お主は何処から来た?」


 テトがハッとした表情でティナとテルユキを交互に見つめている。

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