異世界転移は二十歳になってから

佐木間 雅

第1話 二十歳前の転移

 地球によく似た星の日本によく似た国。とある場所の施設のクラスの中。


 女性の先生が。


 「はい。皆さん。今日は日食の日です。

 今から良く見える観光地の崖まで行きます。中庭に集合です」


 数十人の中学生以下の生徒たち。


 「はぁぁぁい」




 観光地の崖。柵が張り巡らされ。周りには日食を見ようと人が集まっていた。

 その後ろで、小学生の高学年の一人の少女が。


 「星森空。あんた私達と友達になりたいらしいわね」


 「なれたらいいなぁと思ってるだけだよ」


 少女の周りにいる付き人のような男子が。


 「お前、妹の方がいいじゃねぇの」


 「そうそう。仲良くしてるじゃん」


 星森がむっとした表情で。


 「妹は関係ない」


 「あぁあ。可愛い妹が可哀そう。お前の後ろで泣きそうだぜ」


 「私達よりそこの可愛い妹の方がいいじゃない」


 「妹は妹。友達が欲しいんだ」


 「シスコンの友達なんていらねぇなぁ」


 「お前ここの施設に来て何年経つんだ?ずっと俺達の事を無視してたじゃねぇかよ」


 「そうだぜ。今さらなんだよ。友達になってくださいだと」


 少女はすました顔で。


 「本当に友達になりたのなら私を守るだけの勇気と強さが在るか示しなさいよ。

 ここいる子たちはみんな私を守るために色々な形で勇気と強さを見せてくれたわ」


 「わかった。君を守れる勇気と強さを見せればいいんだな。何をすればいい」


 「そうね。もう色々見てきちゃったし、普通では詰まらないわね。

 そうだ。あそこの崖から飛び降りてここへ帰ってきて、そして私をこの施設の女王にしなさい。

 あなたの力で。

 最後に私の手の甲にキスをしなさい。

 それが友達になる条件よ。

 本当に出来たら結婚してあげてもいいわよ。

 出来るのかしら」


 取り巻きの小学生高学年の男子たちが一斉に声を合わせて。


 「空を飛べ、空ぁぁ。空を飛べ、空ぁぁ」


 辺りは日食で薄暗くなっていた。

 空は両手を拳に変えて、少女たちを背にして、空の妹の横をすり抜け、日食に夢中な大人たちを掻き分け柵をくぐり抜け崖へ向って走った。


 その後を空の妹が。


 「お兄ちゃぁぁぁぁん。行かないでぇぇぇぇ。私を一人にしないでぇぇぇぇ」


 周りの大人たちは突然の出来事に唖然としていたが、施設の先生が。


 「やめてぇぇぇぇぇ」


 空が崖の縁から消えた。その後すぐ妹も消えた。


 追いかけた先生は崖に辿り着き下を覗きこんだ。

 崖から海までの高さを見て先生は言葉を失い絶望した。


 日食も後半になり。辺りは明るくなり始めていた。





 深い森の中。木漏れ日の中、空が股間を押さえて倒れて悶えていた。


 「いってぇ。お腹も痛いぃ。潰れたのかぁ」


 「あまり大声は出さん方が身のためじゃの」


 頭の丸くなった杖を持ち、ローブを身に纏った坊主頭の老人が立っていた。


 「ここは?」


 「常識も普通も通用せん異世界じゃの」


 「異世界?」


 「魔獣や魔物がおるの。ここから早く逃げるの。

 エサになりたいのなら別じゃがの」


 「魔獣?魔物?おじいさん?」


 「わしを魔物と一緒にするでないの。その話は後じゃの。

 先に自慰を早く済ませるのじゃの。向こうを向いておいてやるの」


 「違います。でっかい鳥の首で股を打っただけです」


 「そうじゃったかの。立って飛び跳ねると多少は良くなるの。

 もう一人は何処へ行ったのかの」


 空は言われたように飛び跳ねた。


 「もう一人?誰ですかそれは」


 「痛みは治まったかの」


 「はい。かなり良くなりました」


 「ここは、危険じゃの。とにかく何も言わずに、わしの家に一旦来るの」


 「はい。行きます。でも海は何処ですか」


 「後で聞くの。とにかくの。食われたくなかったらの。わしのローブを掴むの」


 「わかりました。こうですか?」


 二人の姿が森から光と共に消えた。




 星森空は元居た星から弾き出され違う星の大陸に飛ばされていた。


 星森空が辿り着いた、この星の大陸は陸続きで大まかに三大陸に分かれていた。

 中央大陸。北西大陸、西の大陸。


 星森空はこの内の中央大陸に辿り着いた。

 この大陸には人族、妖精族、エルフ、精霊族、ドーワフ達が住んでいた。


 建物は石や土塀、丸太などで作らていた。ガラス窓は無く食器類は木製品。


 武器はドワーフのおかげで充実していた。

 母材は鉄。一部で特殊な母材も出回っている。


 大陸全土には一般的な動物が巨体化し獰猛かつ自分の種族以外は捕食対象でしかない魔物が存在する。

 ただ、魔物は人族をはじめとする種族の貴重な食料でもあった。




 中央の大陸は三百有余年前から、海を隔てた西の大陸より押し寄せる獣人族の襲撃を受け続けていた。

 その目的は主に人族を含めた種族の誘拐であった。


 特に妖精族とエルフは最優先で狙われた。


 妖精族の女王ティナは戦いの効率を上げるため、一部で人族との共闘に踏み切っていた。

 ただ、妖精族は全てが女性であり、美しい外見であるため人族の一部と獣人達の誘拐の対象でもあった。




 星森空が辿り着く四十年ほど前。

 突然、龍が山に洞窟を開けて出てきた。

 その出口から魔獣と言われる魔物よりさらに強固な肉体を持ったもの達が魔物と一緒に出現するようになった。


 魔獣の出口と妖精族の住む森は目と鼻の先で、妖精族女王ティナはそこから吹き出て来る風に魔力の殆どを奪われて思うように森から出られなくなっていた。


 それでも妖精族女王ティナは人族と共闘して各地で戦闘を繰り広げ、彼女たちに助けられた者達から神の如く敬われるようになっていた。

 特に人族は恩恵を大きく受けていたのでその思いは他の種族よりも強かった。




 星森空がこの大陸に来て六年後の現在。


 五年ほど前に、この中央の大陸に勇者と呼ばれる四人組が誕生した。

 四人は魔物退治や各地に散らばった魔獣退治。妖精族を含む各種族の誘拐された者の解放と犯人の討伐などを生業としていた。


 妖精族女王ティナはこの四人組に依頼し、人族と妖精族の混成部隊で洞窟封印の戦いに挑んだ。


 そして、勇者一行の賢者が封印に成功した。

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