第8話 後顧の憂いも無し?

 続いてグーテスとは反対方向のアスティ砦奪還の作戦です。


 こちらのギルドでも私達のグーテス砦攻略戦が聞こえているのか、参加する冒険者達40人に私達の指揮に異を唱える方はいらっしゃいません。


「あれが合同クエストの司令官わがままウッキーズか!」

「男が作戦考えて嬢ちゃんが指揮するみてぇだが」

「あの娘になら踏まれてみたいぜウッキー!」


 毎回思うのですが冒険者の方々は顔を合わせるたびに色々とこちらの評価してくれるようです。彼らからすれば挨拶と同じなのでしょうけど「ウッキー」の連呼だけは控えて下さると有難いのですが。



 現在砦の正面で我々の隊が陣形を取っていますが、前回グーテス砦にて使われた落とし穴作戦を警戒してかモンスターは一行に現れません。


 シュゾ曰く、「防御する敵に対して味方は敵の3倍の数が必要」との事で少数精鋭の私達では無理に攻め込むワケには行かないそうです。砦の防御力を考えると私としてもその意見には賛成です。


 そんな時、シュゾから作戦を受けたミュリが砦の門前に行き大声で叫びます。


「魔王軍司令官に告ぐ!我は最強パーティーわがままウッキーズのミュリアス・ティーダなり!!先日グーテス砦の司令官は自分が倒した!無益な戦闘を避けるべくここは総大将同士の一騎打ちとしたい!!わが挑戦を受けられるか!?」

「・・・・・・・」


 砦のモンスター達の混乱が雰囲気で分かります。ミュリの声は騎士団らしく十分に大きいのですが、それを私の風属性の鬼功オルグにて更に拡声致しました。これなら砦の奥深くにいる司令官にも伝わったハズ。


 時間にしておよそ30分後、司令官と思われる牛の頭を持つミノタウロスが巨大な斧を持って砦から登場しました。


「イッキウチトハイイドキョウダ・・・ワレノチカラヲオモイシルガイイ!!」

「そちらこそモンスターの供も連れず挑みにくるとはなかなかの武人と見た!助太刀手出しは一切無用!!」

「イザジンジョウニ!・・・グハッ!!」


 ミノタウロスが走り出した瞬間を狙った闇討ちの一撃が決まりました。もちろんシュゾの攻撃です。いつの間に敵の背後に回り込んでいたのでしょうか?


「ぁ、シュゾ殿!貴殿は何をやっているのか!!」

「ナ・・・シマッタ、コンナヒキョウナヤツラノアツマリダッタトハ・・・フカク!」


「一対一と言われてホントに出てくるなんざ随分余裕こいてるじゃねーか、こっちは後がねぇのに・・・とどめだ、ヒートクレイモアぁぁ!!」

「ミュリアストヤラヨ・・・キサマヲシンジタワレガオロカダッ・・・ゥグァァアアア!!!」


 シュゾの炎の剣が司令官を燃やし尽くします。ミュリがシュゾに掴みかかります。


「シュゾ殿!貴殿の礼節のない騙し討ちのせいで自分の騎士としての名が地に堕ちてしまったではないか!」

「けっ、モンスター戦に礼節も騎士の名前もへったくれもあるかっての!」


「GugyaAAAAAAAAA!!」


 司令官のミノタウロスが倒されたことで砦の残存勢力たるモンスター達が一気に2人に襲い掛かってきます。

 炎の剣ヒートクレイモアを使った事で消し炭となったスタッフを捨て、替えのスタッフを構えたシュゾがミュリに言い放ちます。


「くそっ、文句は後で聞いてやる!今は目の前のコイツラをカタづけるぞ!!」

「ぅぐ・・・癪だがここは貴殿に従おう!」


 シュゾとミュリは背中合わせになって敵を迎撃します。多勢に無勢ながらコンビネーションを発揮して迎撃しています。


 再度シュゾに代わって全軍に指示を出します。


「全軍、敵兵を各個撃破!」

「「「おぉぉぉっしゃぁあああああ!!!」」」


 モンスターが2人に集中している隙を突いて私達とギルドの冒険者達で各個撃破していきます。気を取られている相手と変わらない上に、指揮系統がありませんので手早く全滅する事が出来ました。



 このように大量のモンスター達にはアレイの落とし穴、大将同士の一騎打ちを呼び掛け出てきた敵司令官を闇討ちする等、礼儀やルールからは大きく逸脱したものでしたがわずか一週間弱の時間でグーテスとアスティの両砦を奪還できました。


 戦果を見てみると作戦の成功に比べて味方の損害が少ないのでこれ程効率の良い作戦はありません。

 シュゾは元の世界に帰る必要がありますが、もし彼がこの世界に永住し王国のために働く事になれば有事の際には頼もしい参謀となることでしょう。



 そしてグーテスとアスティの砦にもタナス砦の時と同様、麓のギルドに警備を依頼致しました。




 その後私達は英気を養うべくタナス砦に戻って休息をとっています。

 そばに控えていたミュリが尋ねてきます。


「ユト様、砦の警備をギルドに任せるのは理解できますが・・・早々に騎士団に知らせて明け渡すべきではないでしょうか?」

「王国騎士団は王国最後の要、守りの戦力を失うワケには参りません・・・その証拠に魔王討伐はもとよりこの砦奪還作戦にも参加しなかったではありませんか」


「ぅぐ・・・その事については返す言葉がありません」

「ミュリを責めているのではありません、人にはそれぞれ役割というものがあるのですから・・・明日にはここを立って魔王討伐に向かいます」


「はっ!というワケだシュゾ殿にアレイ・・・今のうちに町で準備を整えるよう!」

「おぅ、砦で魔石をガンガン稼ぎまくったからブラブラ遊びまくるぜぇ!」

「ぅみゅーレストランで大盛メニューを頼むのですー!!」

「貴殿ら・・・自分も武器屋に行ってきまぁぁぁあす!」


 はぁ、まったくもって騒がしいです。しかしシュゾだけでなくミュリやアレイも実力を上げているので頼もしくなってきました。魔王と対峙してもよい時期です。


 そしてミュリには明かせませんでしたが、このタナス砦を騎士団に任さないのは・・・身の安全を守るためです。国王陛下、ティルガス・ロイヤル=オルファンはどうやら私をこの機会に排除したいようです。理由はやはり私の鬼功オルグにある模様です。


 自分で言うのも何ですが、王族の中で鬼功オルグの習熟に熱心なのは私ユーティス・ロード=オルファンを除いてありません。他の王族はもとより陛下の王子王女も一通り学習をしてはおりますが、鬼功オルグを身につけて間もないアレイよりも劣ります。


 一方私は大陸の向こう側にあるエーゼスキル学園に留学を許された身分の上に、王弟の娘である事から王位継承権があります。別段王位など欲しくはないのですが。



 ともあれ陛下は魔王討伐によって御自身から王弟殿下や私に王位が移る事を懸念しているものと思われます。


 今になって考えてみれば-勇者召喚の儀に立ち合わせたのもシュゾの首輪を制御する指輪を私に託したのも-最初から勇者の魔王討伐の随行を私に任命するつもりだったのでしょう。そしてミュリ以外の騎士団を派兵しないのもあわよくば魔王と共倒れを画策しているのかも知れません。


 ならばなおさら砦を王国の直轄下には置きたくないのです。進軍中に背後から騎士団に襲われればひとたまりもありませんし、逆に魔王を討伐した時点で砦の勢力が一気に敵に変わる事も考えなければなりません。



 砦の屋上からバリバスの町を眺めています。この砦にはすでにギルドマスターの意向を受けた冒険者が数十名ほど警備に当たっています。先日仕留めた1万の大軍相手でもない限り問題はないでしょう。


 砦をギルドに委ねる事には成功しましたがこの先の事を考えると頭の痛い所です。百歩譲って魔王討伐が成功したとしても、陛下達は戦果をあげた私達を歓迎するハズはなく存在自体を消そうとするに違いありません。


 砦もいつまでもギルドに使用させる事は不可能ですので立て籠もるワケにもいきません。せめて王弟たるお父様の領地まで帰る事が出来れば安全なのですが。


「・・・・・・タナスおよび2つの砦を至急明け渡せ、と」

「やはり貴方が来ましたか」


 城壁の上には例の闇部の諜報士が立っていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る