第7話 備えあれば憂いなし?

 大量モンスターを討伐した翌日、タナス砦の司令官室にて。


 魔王軍の司令官であるトカゲの亜人・リザードマンを目の前にして、シュゾの扱う木製のクォータースタッフから火が噴きあげています。ちょうどその様は古代以前にあったとされる武器「ナギナタ」に酷似しています。


「でぇぇぇい!必殺ヒートグレイブぅ!!」

「グギャァアアアアア!マ、マサカタダノスタッフニソコマデノチカラガアルトハ・・・ヨクモダマシオッタ・・・ナ・・・」


「いやーホントにこれただの木の棒なんだけどなー、おらっくたばれ!!」

「ノ、ノロッテヤル・・・ノロッテヤル・・・ゾハァアアアアア!!」


「はーいお掃除完了!砦の制圧完了だぜ」


 司令官のリザードマンは事切れました。見事にシュゾの勝ちです。鬼力のコントロールも自在になってきたようで頼もしい限りです。もっとも勝ち方は卑怯ですが。



 昨日私達はモンスターの囮作戦を成功させましたが、ギルドの戦力では砦を制圧する事が出来なかったようです。


 あれほど横柄だったギルドマスターが泣きついてきて砦の攻略を依頼してきました。私は一端保留にしようと思ったのですが、例のごとくシュゾが「今攻めずしていつ攻めるのだ?」と言い承諾してしまいました。


 実際砦に入ってみるとシュゾの言いたかった事が分かりました。何せ囮作戦で大量のモンスターがいない今となっては100体以下の少数精鋭です。グズグズしていればあっという間に戦力を回復していた事でしょう。この程度の数なら私達4人で制圧できます。



「お疲れ様ですシュゾ、これでタナス砦も奪還できました」

「ぅみゅー鬼功オルグ戦闘がうまくなってきたのですー、さすがは私の主様なのですー!」


「ゃ、やはりというか・・・スタッフと見せかけて鬼功オルグで強化して戦うのは如何なものかと」

「けっ、まだ正々堂々な騎士道言ってやがるのか?だったらお互い鬼功オルグ無しの組手で決着つけようや」

「ぅ、うぐっ!そ、それはご遠慮願いたく・・・」




「何をグズグズしているのだ!ギルドに魔石の納入を!君達も換金したいだろう!」


 砦奪還の知らせを受けたギルドマスター・ハルオン氏が私達に談合、いえ半ば恫喝してきました。


 今回のタナス奪還作戦にて「わがままウッキーズ」を除くギルド側は敗戦をして経費を上回る赤字を出した模様です。

 私達が囮作戦で手に入れた大量の魔石は喉から手が出るほど欲しいのでしょう。納入先の石柱人バーベリア達から支払われる資金にて財政を立て直すつもりと見えます。


 あえて魔石をギルドで換金せず保管しておいた私の返事は、


「丁重にお断り致します、お引き取りを」

「な、なぜだ!あんなモノ腹の足しにもなりはしない!さっさと要求に従わないと」


「まさか強硬手段でもなさいますか?モンスターの大軍を全て仕留めた私どものレベルはご想像できると思いますが」

「くっ・・・」


 恫喝には恫喝で返します。ハルオン氏も即答できません。


 私どもわがままウッキーズのメンバーは以下の通り。


 エーゼスキル学園で鬼功オルグを専門的に学んできた私。

 王国騎士団の団員たるミュリ。

 現在着実に実力をつけてきている異世界の勇者たるシュゾ。

 同じく意外にも鬼功オルグのセンスを持っていたアレイ。


 四名ながら一万のモンスターを倒し、残存部隊と司令官を倒した実力はギルドマスターと言えども否定はできません。

 わずか100体のモンスター達に後れを取ったギルドの冒険者達ではもはや私達には歯が立たないでしょう。



「代わりと言っては何ですが・・・魔石を報酬に貴方がたに依頼したい事があるのです」

「なんと?いちパーティーがわれわれギルドに依頼を!?」


「一定期間ではありますがギルド『ホーデュラ』の拠点をこの砦に移して頂きたく」

「こ、この砦でギルドを?」


「そして砦を再び魔王軍に奪われる事の無きよう警備して頂きます」

「それは出来ない相談ではないが・・・もうじき王国騎士団がやってくるハズ、別段我々が警備せずとも」


「現在王国騎士団は国の守りのために動く事が出来ないのです、故に貴方がたギルドにお願いしているのです」

「し、しかしいちギルドマスターでしかない私の権限で王国の砦を無断で使用する事など到底不可能!」


「権限なら与えましょう、私ユーティス・プリンセス=オルファンの名のもとに!」


 同時に王家の一員である証のペンダントをハルオン氏に提示します。


「プ、プリンセス=オルファン!王族の方でありましたか!これはご無礼を!!知らなかった事とは言え今までの失礼な態度を謝罪致します!」


「それは構いません、私達も故あって名を隠していましたので・・・それよりこちらの依頼は引き受けて頂けますか?お断りするのなら他ギルドに任せようと」

「滅相もございません!王族の方の権限があるなら喜んで遂行致します!」


 商談成立です。大量の魔石が入った麻袋を出し渋るアレイを諭してハルオン氏に手渡しました。



◇◇◇



 次にこのタナス砦の両隣にある残りの2つの砦―グーテス砦とアスティ砦を麓の町のギルドの合同クエストにて奪還致します。ギルドマスターの話によるとこれらの砦の奪還作戦も現地のギルドにて合同クエストが近々行われる様です。


 参加する理由は簡単、両隣の砦を魔王軍に渡したまま放置しておくと再度タナス砦が奪還される恐れがあるからです。行動に出る前メンバーに相談したところ意外にもシュゾがまっ先に賛成してくれたので心強いのです。



 まず最初にタナス砦より西にあるグーテス砦に向かいました。合同クエストに参加する冒険者は50名ほどです。


「おお、わがままウッキーズの登場だぁ!」

「あのお嬢ちゃんがリーダーか!」

「顔も名前もかわいいなぁウッキー!」


 こちらのギルドの皆さんはハルオン氏の紹介状もあってタナス砦奪還の功があった私達の作戦に率先して従って頂けるようです。国の防備のみに専念している王国騎士団とは違い何ともありがたい事です。


 しかしマスターのご配慮で私の素性は隠して頂けた代わりに、わがままウッキーズの名前が通ってますので少々複雑です。



 砦の前にはタナス砦の時と同じく大量のモンスターが砦前に集結しています。残念ながらタナス砦の時のような罠に最適な地形はありませんでしたので、シュゾは別の作戦を考えました。


 手始めにシュゾとアレイが砦の前に単騎突入する模様です。シュゾからの合図があるまで我々はギルドの冒険者と待機しておけばいいとの事。

 私もミュリも鬼功オルグには詳しくともこのような軍隊戦術には詳しくありませんのでシュゾに任せます。


 モンスターの進軍が開始されシュゾとアレイは敵軍に取り囲まれました。しかしアレイが両手を地面につけて叫びます。


「ホォォォルイン、テンサウザンドなのですー!」

「Ga?Boooooooooo!!!」


 集結していたモンスターが突如としてかき消えました。アレイの鬼功オルグでモンスターの足元に無数の落とし穴を開けたようです。

 彼女もシュゾ同様に鬼功オルグの練度を上げているので、土という範疇を超えて地形操作が出来るようになりました。


「Bugyaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 落とし穴に落ちなかったモンスターが激昂して襲い掛かってきますがその数は半分以下。我々とギルドの冒険者達の戦力で対応可能です。

 シュゾがこちらに向かい大きく手を振りました。打ち合わせ通りに対処します。


「全軍、総攻撃です!」

「「「おぉぉぉぉぉおおぅっ!!」」」


 アレイの護衛をしているシュゾに代わって私が総攻撃の指示を出します。冒険者達は私達の指示に従って頂いているので効率よく各個撃破していきます。



 大量モンスターを討伐した後、砦に突入してみると敵司令官である豚の亜人・オークナイトがいますが付き従う部下のモンスターは数十体ほどに過ぎません。恐らく先ほどの戦闘でほとんどの兵数を投入したようです。シュゾとミュリが先陣を切ります。


「ミュリちゃん、ザコは俺らに任せてボスを倒してくれや!」

「承知した!・・・・・・はぁぁぁぁ!チェインソード!!」


 ミュリの一撃でオークナイトは倒れました。私達も残党を掃討致します。


 ほどなくしてグーテス砦を奪還致しました。

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