第15話 どうしてこうなるのですか?

 城内の使用人達が使う食堂にて立食パーティーが行われています。


「ぅみゅー!栄養補給なのですー!」

「もぐもぐ、さすがに城のシェフの腕前は最高というもの!」

「・・・・・・腹が減っては戦はできぬ、と」

「わ、ワシにも食わせくれぇぇ!」


 アレイとミュリにエルバが遠慮無しに食べまくっています。この状況で食べられる神経は理解ができません。


「な、アイツぅ!」

「一人だけいいモノを食いやがって!!」

「し、しかし毒が混ざっている場合も・・・」


 3人の闇部・諜報士達が机の上の料理を見ていますが警戒しているようでなかなか手を付けようとは致しません。

 シェゾがステーキの一切れをフォークで取ります。


「ほほぅ、疑うのなら君から毒見役だ・・・これでも喰らえ!」

「がぶ!・・・・・・んん~テイスティ!」

「安全が分かったところでお仕事だ、他の闇部のみなさんも連れておいでなさい!」

「「「Yes,sir!!」」」


 その後全ての闇部24名がやってきての立食パーティーが始まりました。彼らはエルバと同じく粗食に慣れているためこの城最高級のメニューに舌鼓を打っています。


 シュゾが食事中の闇部達全員に声を掛けます。


「みんな、食いながらで聞いてくれ!今から君達に使命を与える!!この厨房および食堂に我々以外の人間は立ち入らせるな!そして料理人達を何としてでも守れ!しばらくは豪華メニューを食いまくれるぞぉ?!」

「「「・・・委細承知ぃ!!!」」」


 戦わずしてあっと言う間に闇部全員を支配下に置いてしまいました。エルバの時から思っていましたが、この件が片付いてから闇部達の食生活にも再検討が必要です。



◇◇◇



「よくやってくれたユーティス、同じ王族として誇りに思う!」


 謁見の間に向かった私達を待っていたのは国王陛下と騎士団長と十数名の騎士団員のみでした。鬼功オルグを使って感知してみても伏兵などはいないようです。

 シュゾの予想通りお父様の領地への捜索隊で大半の兵力を派遣していたと見るべきです。


「それに異世界の勇者シュゾ殿に騎士団第9部隊ミュリアス、他の従者たるアレイとやらに行方知れずとなっていた諜報士のエルバもよくやってくれた・・・さぁ、席につき給え」


 玉座の前に机と椅子が6脚並べられています。


「その前に陛下にお尋ね致します・・・先ほど私達の前に騎士団達に迎え入れられた者達は?聞けばライステ監獄に向かったようですが」

「あの者達ならばユーティスと勇者殿達を騙った罪で監獄に入れただけに過ぎない、相応しい罰を与えてやるつもりだ・・・さぁ早く席に」


 もっともらしい答えですが本物の私達なら尚更監獄にて拘束していた事でしょう。


 シュゾが引っ張っていた鎖をミュリに手渡します。その先には残りの鎖で縛られて身動きの取れない宰相シカニシがいます。


「ではお言葉に甘えまして・・・宰相閣下、まずは貴殿から」


 シュゾの慇懃な言葉とともにミュリが宰相を強引に椅子に座せます。


「や、やめろ!この椅子には・・・あぎゃぁああああああま!」


 椅子に座った宰相が叫び声をあげます。これは感電している??しばらく経って煙をあげて事切れました。一方椅子の仕掛けは電属性を持つミュリを傷つける事は出来なかったようです。


 国王陛下がため息をつきながら答えます。


「ちっ、こうも簡単にタネが割れるとは・・・異世界の者だけあって侮れぬわ」

「陛下、これが貴方のご意志なのですね?」


「王とは常に一人のもの・・・故にお前がいなければ全ては収まるのだ!魔王と共倒れにでもなってくれれば良かったものを・・・騎士団、こやつらを始末せぃ!!」

「御意、ユーティス様!お覚悟を!!」


 陛下の命を受けて騎士団長が襲いかかってます。ミュリが彼の前に立ちはだかりました。


「そうはさせん!このミュリアス・ティーダ、逆賊から姫様を守るため剣となり盾となる!」

「笑止、貴様程度の力量ではこの騎士団長の敵では・・・ぐふぁあ!」


 ミュリアスの剣を団長が受け止めますが、死角からシュゾのスタッフが団長の脇腹を襲います。


「ビリヤードストライク、成功じゃ」

「ぉ、おのれひきょう・・・ガががががが!!」

「チェインソード、戦いにおいては卑怯も何もないと自分に教えて下さったのは騎士団長の貴方です・・・アレイ!」


「ぅみゅー!魔王城で身に付けた石畳版バリケィド・・・ストォンウェイヴなのですー!!」


「ぅぐぁあ!!こ、これは・・・」

「く・・・周りが見えねぇ」

「こんな時は心の目で!」


 アレイのストーンウェイヴにより石畳が変形し、置かれていた机や椅子をふっ飛ばします。辺りには石の破片から生み出された粉塵による煙が立ち込めます。


「・・・・・・フォトンアロゥ!」

「がふっ!」

「ぅげぇ!」

「ぬはぁ!」


 エルバのフォトンアロゥが次々に騎士達を狙い撃ちします。粉塵の中では視界は遮られますが、光属性の鬼功オルグを持つエルバは視力を強化できるので的を外すことはありません。もちろん急所は外したうえにナイフには痺れ薬を塗っています。


「一丁あがりなのですー!」

「・・・・・・任務完了、と」


 ここにいた騎士団は全て戦闘不能に致しました。ケガこそさせていますが命に別条はないようです。これで陛下と話が出来ます。


「ば、バカな・・・我が騎士団達がいとも簡単に!!」

「これでそっちの戦力は崩したぜ?後は王様だけだな?」

「陛下、どうか姫様と誤解を解かれるよう伏してお願い致します!」


「ぬぅぅ、この余に対して一騎打ちを仕掛けるなど無礼な・・・しかし、その願い聞き届けよう!!ティルガス・ロイヤル=オルファン、相手になってやる!!」

「は?」


 私は一騎打ちなど挑んだ覚えはないのですが。


「陛下、何を仰っているのですか?私は魔王討伐による野心などありませんし、誤解を解いて身の安全を保障して頂ければ」

「これは王国の玉座を賭けた決闘!他の者達一切手出し無用!」


 そういった陛下はマントを脱ぎ去り手に持っていたメイスを構えます。


「こ、国王陛下!姫様はあくまで陛下との話し合いを・・・」

「えーナニコレ?後は自分だけだから一騎打ちでユトさんを始末しようっての?その上他の者は一切手出し無用って完全に自分の都合だけじゃん?」

「ぅみゅー往生際がわるいのですー」

「・・・・・・以下同文、と」


 ミュリはともかくシュゾ以下3名はあまりの陛下の行動に呆れ果てています。とは言え武器を携えて向かってくるのなら私も無抵抗ではいられません。


「分かりました・・・このユーティス・ロード=オルファン、伯父ティルガス・ロイヤル=オルファン殿から申し出された決闘、受けましょう!」


「よくぞ言った!くらえ、ロォォォド!!」

「エァショーテル!」


 陛下もといティルガスのメイスから水流が襲い掛かってきます。それを私のエァショーテルで相殺しました。


 今まで知らされていなかったティルガスの属性は水のようです。私の属性である風よりも質量が大きいので鬼功オルグを強い目にしないと対抗できません。出し惜しみはしません。


「はぁあああ!ヴァキュアム・カッタぁああああー!」

「ふはは、効かぬわ!!見よ、この盾をぉおおおお!!」


 あらゆる物を切り裂くヴァキュアム・カッターを巨大な水のかたまりが取り込んでしまいます。これは一体??


「これぞわが最強の盾・・・ウォータースクトゥムだ!この前ではいかなる攻撃も無力!!」


 巨大な水のかたまりの中には・・・大き目の魔石が入っています?その大きさは魔王の肉体に入っていたものとほぼ同等のようです。


「魔石??もしやこれはモンスターを創り上げた?!」

「察しがいいな、正確にはこれは擬似魔石という遺物で召喚士どもから献上されたもの・・・余の鬼力を込めた擬似魔石を入れることで生み出した水を安定させ尚且つ自在に操れるのだ・・・さすがにモンスターそのものとはいかないが・・・そして攻撃も可能、ウォーターストライクっ!!」


 ティルガスの手前の水の盾が変形します。まるで彼の腕を振り上げパンチを繰り出す動きについていくように・・・しまった!!


「ぁぐっ!!ぁあああああ!!」


 変形した水に頬を殴られた私は軽くふっ飛んでしまいました。



「おのれ!いかに陛下でも見過ごせない!チェインソード!!あ、あれ??」

「効かぬといったハズだ!水は電気を通す・・・ならばそれを拡散させる事も可能、ウォーターストライクっ!!」

「ぐぁあああっ!」


「クソっタレがぁ、ヒートクレイモア・・・ぅあ!」

「水に消えぬ火は無し・・・ウォーターストライクっ!!」

「ぅがああっ!!」


「ぅみゅー勿体ないけど魔石を壊すのです、ストォンウェイブ!!」

「・・・・・・フォトンアロゥ!」


「無駄だ無駄だ!粉塵は取り込める上に光は水の中では弱くなる・・・ウォーターストライクっ!!」

「ぅみゅあああああ!」

「・・・がはぁああああ!」


 私が立ち上がった時にはアレイとエルバまでが倒されてしまいました。あの水の盾をどうにかしないと勝機はありません!


 あの大きさの魔石で強化されているという事は・・・私達はもう一度魔王を相手にしているようなものです。

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