第13話 八方塞がりです?

 王都の宿屋にて。


「エルバ、報告を」

「・・・・・・予想通りライステ監獄に着いた模様、と」


 やはり凱旋と偽ってそのまま監獄へ直行という事でしたか。予想が当たりましたが全く嬉しくありません。


「あの方達は?」

「・・・・・・偽物だが情報を握っている、と」


 偽物と分かっても無罪放免とはいかない・・・分かっていたけど気の毒に思います。シュゾが柄にもなく宥めてきます。


「気にするなユトさんや、こうなるこたぁ予測済みだったろ?」

「それはそうですが・・・はぁぁ、まさか貴方の考えがこんなものだったとは」



◇◇◇


 時間を遡って魔王討伐の翌朝。タナス砦の一室にて。


「これより王国騎士団が凱旋のために私達を迎えに来ます・・・しかしそのままライステ監獄に直行し監禁されあわよくば冤罪を付きつけられ処刑となるでしょう」


 ライステ監獄とはオルファン王国の犯罪者が収容される場所です。


「なんでだよ、ユトさんを監視していたエルバはこっちの味方じゃねぇか?」

「・・・・・・王国の闇部は私だけではない、と」

「し、しかし解せません!何ゆえ国王陛下が姫様や我々を連行しようなどと!」

「ぅみゅー凱旋して豪華フルコースがないのですー?」


「一言で言えば・・・王族の争いです、貴方がたを巻き込んでしまって申し訳ない限りです」


「王族の争い・・・しかしあの豪放磊落な国王陛下が同じ血族たる姫様を無体にするハズが!」

「あり得んハナシじゃねぇだろ?俺ントコでも王国や帝国の歴史にゃ似たような話は腐る程あるしな・・・」


 俺ントコ、というのはシュゾの元いた異世界の事でしょう。やはり王という地位に関してはどこの世界も変わらないようです。


「皆さん、今日まで本当にありがとうございました・・・凱旋には私一人がいけば済む事です、貴方達が同行する必要はありません・・・身の振り方はギルドマスターのハルオン氏にお任せすれば良いようにしてくれます、わがままウッキーズは解散です」

「そんな!姫様!!」

「ぅみゅー・・・後味悪いのです」

「・・・・・・従うしかないのか、と」


 使わなくなってから随分経つ指輪に鬼力をこめて暗号を呟きます。


「ぁぐっ、あれ?首輪が取れた・・・こいつを外したのはユトさんかよ!」

「ええ、特に異世界から来た貴方には永らく窮屈な思いをさせてきましたねシュゾ?討伐最大の功労者は間違いなく貴方です・・・ただ元の世界にお返しできなくてごめんなさい、それでは」


 私が部屋を出ようとするとシュゾが立ち塞がってきます。


「シュゾ、そこをどいて下さい」

「やだね」


「今貴方に止められると・・・出ていく決心が鈍ってしまいます!」

「だったら行くなよ、本当にお姫さんが一人で出てって一緒に魔王討伐した俺達は無罪放免なのか?」


「それは・・・しかし他には方法が!」

「人より一尺高いところから見れば方法はいくらでもある・・・つーことで『わがままウッキーズ』は存続だぁ!」


「「「おおおーっ!」」、と」

「ぅ・・・」


 私に付いてきてくれる皆さんの意志に不覚にも感情が溢れてしまいます。


「お?ユトさんが感動のあまり泣いてるぜー!こんな時ス〇ホがあればなぁ!」

「ゥキィィイイイ!泣いてません!こんな物騒な計画立てる貴方がたに呆れているだけです!」



◇◇◇



 その後ギルドマスターに頼み込んでギルドの犯罪者収容施設に行き、4人の受刑者を特例で釈放して頂きました。我々に背格好の似た彼らに私達の服と装備を身に着けさせて、タナス砦に来ていた騎士団の前に無理矢理連れて行きました。


 その4人には多額の報酬を前払いした上で「魔王討伐の凱旋に行ってくれ」とシュゾが頼み込んで説得した模様です。普通なら怪しむハズの取引ですが騎士団達への受け渡しが速かったため疑うヒマもなく替え玉作戦が成功したという理屈です。



◇◇◇



「それにしても今回の作戦は酷いです、モンスター相手ならともかく貴方には人道というものが無いのですか!」

「つってもよー・・・そのままユトさんがバカ正直に出てって処刑された方が良かったのかい?」

「そ、それは・・・」


 シュゾの正論に全く言い返せません。


「シュゾ様の言う通りです!ユト様のご身分は決して軽くありません!あれは必要な犠牲だったのです」

「ぅみゅー、アチシ役の子は『ぅにゅー』とか『だしー』って言ってたので馬車に乗る前でバレないか心配だったのですー」

「・・・・・・対して違わない、と」


 アレイとエルバがやいのやいのと言い合っていますが私はそれどころではありません。次の行動をどうするか考えないと。


「まぁ情報聞き出すならいきなり処刑とかはないっしょ?それよりユトさんはこれからどうすんだ?俺らは一連托生だからどこへでもついてくぜ?」

「・・・そうですわね、最初は王弟たるお父様の領地に戻ろうかと思っていたのですが」

「それは難しいです、何せ王弟殿下の領地は王城の更に奥まった場所ですから」

「こんだけ早く騎士団達に行動させるぐらいだ、多分領地は捜索隊の目が光りまくってるぜ」


 残念ですがミュリとシュゾの言う通りです。わが家の領地は王城よりも更に奥、すなわち王族の反乱が起きても鎮圧できるように配置されています。


 そして行方不明になった私が帰る場所は必然と王弟領地しかありません。当然私を捕縛せんものと捜索隊が待ち構えている事でしょう。


「情報整理を続けましょう・・・エルバ、タナス砦へ向かった1000人の兵隊達は凱旋の後どうなったのですか?」

「・・・・・・凱旋の馬車の警護部隊20名以外は砦の警護に残った、と」

「なるほど、解放された砦を手つかずのままにはしないという事ですか・・・逆に王都からの動きは?」

「・・・・・・3日前にグーテス、アスティ両砦に国防軍の兵隊が1000名ずつ向かった、と」


 これは・・・タナス砦はもちろんの事、グーテスとアスティにもそれぞれ1000人大隊の戦力を展開するとは。もはや今更戻って砦に頼る事はできません、ここまで早く八方塞がりにしてくるとは予想外でした。


「えぇい、王国騎士団は何をしているんだ!いかに陛下のご命令とは言え同じ王族たるユト様を追い詰めるなど・・・」

「ミュリ、貴方の気持ちはありがたいのですが彼らも職務上の立場があっての事・・・あまり悪く言ってはなりません」

「し、しかしこのままでは!!砦に駐屯する1000人大隊は鬼力の弱い鬼功オルグしか使えない一般兵なので我々にとっては戦力外です・・・しかし騎士団の指揮があれば侮りがたいものがあります!!」



 ここにいる全員の考えが煮詰まった時、何を思ったのかシュゾが手を叩きます。


「はい注目!ここでおさらいだ!ユトさん、戦闘のプロたる王国騎士団とその他の兵隊は総勢何人だ?」

「騎士団はここにいるミュリを加えて総勢300人です、一般兵による国防軍の総数は5000人余りかと」


「次にミュリ・・・1000人規模の兵隊に同行する騎士団は何人ぐらいなんだ?」

「確か、20人分隊につき騎士団から伍長役1人を置くのでだいたい・・・え~っと・・・」


「1000人隊につき50名ってトコか、今度はアレイに質問だ


 ここに1個で銅貨20枚の魔石が300個あったとさ、

 分け前は俺とユトさんにミュリの3名で50個ずつ頂きます


 残りの魔石と値段はなんぼや?」


「ぅみゅー魔石の計算なら得意なのですー、


 1人50個を3人に渡すと150個・・・

 それを300から引いてみると残りは150で、それに20を掛けると」


「・・・・・・魔石は150個で値段は銅貨3000枚、と」

「ぅみゅー!先に言ったらダメなのですー!!」


 [300個の魔石]を【3人】に「50個」ずつ渡すと150に、それを元の数から引けば150ですなわち半分・・・

 魔石と同じ数の騎士団の総人数[300人]と【3つの砦】に向かった騎士団「50名」ずつの人数に置き換えてみると。


「はっ・・・そうか!そういうことですか!!」

「じ、自分は計算というものが苦手で・・・」


「分かりやすく説明しましょう、3つの砦に戦力を分散したことで現在城に残ってる騎士団は多くても150名しかいないのです!

 その上魔石金額の計算では銅貨3000枚となりましたが、総数5000人から砦に出兵させた3000人を差し引けば・・・実際に残っている一般兵は2000人しかいません!!」


「ご名答だユトさん、更に王様からすりゃユトさんの実家もいつ反乱するか分からん立場だから捜索隊も数十人なんてケチな数じゃねぇ・・・多分砦に向かわせた1000人、いやそれ以上の戦力が集中しているハズ・・・

 つまり、今城はガラ空きってコトだ」


 シュゾが怪しく微笑んでいます。この顔は勝利を確信した時のものです。以前少しかじった帝王学ではこのような顔をする者には要注意するようにという事でしたが、今の状況では頼もしくさえ見えてきます。しかし、


「それでは私が王国を簒奪するという事に!」

「人聞きの悪い、国王陛下と対話するための時間稼ぎですよ・・・そうと決まったらこれから作戦会議じゃ!」


 物は言いよう、というものですか。とは言え私のためにここまで協力してくれるのですからシュゾ・ミュリ・アレイ・エルバには感謝しかありません。

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