第12話 勝利の凱旋を?

 魔王の必殺技ブラックホールの前に我々の攻撃は全て吸い込まれ無効化されてしまいます。シュゾが何か閃いたのかアレイの元に行き指示を出します。


「ぃ良し出番だアレイ!バリケィドを作りまくれ!!」

「ぅみゅー石畳は土じゃないので形がうまくできないのですー!」

「無問題だ!とにかく大量生産だ!!」


 アレイが言われた通りに歪な形ながらバリケィドを作り出していきます。なるほど、これなら吸い込む力を少しでも抑えられるというワケです・・・か?


「ミュリにエルバにユトさん!バリケィドを壊しまくるぞ!ヒートグレイブ!!」

「な!何をやっているんですかシュゾ!せっかくのバリケィドを壊すなんて!!」


「姫様、シュゾ様には考えがあるようです、ここは従いましょう!チェインソード!」

「・・・・・・魔王に攻撃するよりは楽、フォトンブレィド!!」


 3人が壊したバリケィドの破片、すなわち城の石畳の破片が魔王のブラックホールに吸い込まれていきます。やはり鬼功オルグ以外の物質でも吸い込まれるようです。


「こんなもので余の鬼功オルグが破られるものかぁぁぁ!もっと足掻いてみろぉおおお!」


「言われなくともやってやるぜ!アレイ、死にたくなけりゃどんどん追加だ!」

「ぅみゅー死ぬ前にもっとうまメシ食べるのですー!」


 またもやアレイがバリケィドを作ってはシュゾ達が壊し魔王の鬼功オルグが吸い込みます。心なしか魔王の黒い球が大きくなって来ているような・・・そうか!

 シュゾの狙いが分かりました!!私も手伝いましょう!


「・・・ムーヴメントエリア!」


 私の背後に城の中にあった大量の椅子に机などの調度品や武器が宙に浮いています。この階に置かれている物を拝借致しました。


「私からも魔王閣下に進呈致します・・・残さず全て喰らいなさい!!」


 ありったけの調度品を全て魔王目がけて投げつけます。やはり魔王の身体には届かず吸い込まれますが、更に黒い球が大きくなりました。


「効かんといったハズだぁあああ!さあ今吸い込んだ力を我が力に変える時がきたよう・・・ぅげ!」



 さっきまで威勢のよかった魔王がうずくまりました。やはりシュゾの狙いはこれだったのですね。


 どんなに強力な鬼功オルグでもそれを発動させているのは使用者、つまり限界があるという事です。バリケィドでえぐった石の破片を際限なく吸わせる事で容量限界、鬼功オルグの使用限界を狙っていたという事です。


  ずどんっ!!!


 魔王のそばに数十センチメートル程度の小石が落ちました。彼の鬼功オルグで吸い込んだ物が重力によって圧縮されたもののようです。これだけで何トンあるか分かったものではありません。触らぬ方が良いでしょう。


「ぁぐ・・・・・・はぁはぁ、くそぉ・・・ぅ動けない・・・がぁっ!」

「あ?どうしたどうしたぁ魔王サンよォ!どんなヤツでもこんだけ食ったら胃もたれになるっての・・・ほれ、何か言ってみろよぉ!」


 魔王の身体を蹴り飛ばして仰向けにさせた状態でシュゾが煽りまくります。普通なら動けない相手に対して卑劣な行為ですが、魔王の行動に王国が散々悩まされた経緯を考えると罪悪感はまったくありません。


「ぉ、おのれぇ・・・またしてもこんな汚い勝ちかたおぉ・・・オルファンの王女よ、こんな勝ち方が果たして勝利と言えるのかぁぁ・・・」


 魔王の正論がだんだん言い訳染みたものに聞こえてきます。その言葉には真摯に応えなければなりません。


「お褒めに預かりまして光栄でございます・・・シュゾ、とどめを」

「アイアイサー、ヒートクレイモアっ!」


「ぉ、オルファンに滅亡あれぇ!ぐぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 シュゾの鬼功オルグたる炎の剣が魔王の身体を燃やし尽くします。最後に残ったのは巨大な魔石でした。


「ぅみゅー!ビッグサイズな魔石なのです!これなら憧れのマイホームも建てられるのです―!!」

「・・・・・・持ち家いいなぁ、と」


「しかし姫、魔王から魔石が出たという事はやはりモンスターだったという事ですね?」

「断言は出来ませんが・・・モンスターよりも遥かに高い自我意識や知識を持っていたところを見ると、恐らく彼は紛れもない人間だったのでしょう」


「んぁ?それじゃあこいつは魔石を取り込んだ人間ってことなのか?」

「いいえ、魔石とは無機物に宿りやすい性質を持っています・・・自我の強い生物や人間に宿る事例は冒険者ギルドや留学していたエーゼスキル学園でも聞いた事がございません・・・私の推測では生前は普通の人間が亡くなった際に魔石に憑り付かれたアンデッドといった存在なのではと考えています」


 そう・・・アンデッドとは亡くなった人間や生物の遺体に魔石がとり憑いて生まれたもの。その人間だった者がたまたま念属性を持っていて、魔王の力を生み出す事になるとは何が起こるか分からないものです。


「ともあれ皆さん、お陰で魔王を討伐する事が出来ました!本当にありがとうございます!!」

「おぅ、意外とあっけなかったけどね!」

「シュゾ様、それは酷というものです!あんな策略は常人なら思いつきもしません!」

「ぅみゅーアチシはお腹ペコペコなのですー!」

「・・・・・・そろそろ温かい食事を、と」


「はいはい、それではタナスの砦に帰還します!今夜は打ち上げです!!」

「「「「ひゃっほぉおおおおい!」」」、と」


 魔王を討伐した英雄パーティーがゴハンで浮かれているなんてお子様みたいで世話が焼けます。とは言え私も疲れた事ですし今日は無礼講に致しましょう。



 その後タナス砦に入りギルドマスター・ハルオン氏に魔王討伐を報告しました。もっとも王国には内密して頂くようお願いをして置きました。魔王討伐を聞いた国王陛下は時を置かずに私達を凱旋という名前の連行・捕縛を行い亡き者にしてしまう事でしょうから。


 その晩は砦でどんちゃん騒ぎの無礼講です。お酒がはいるとミュリは泣き上戸になるし、アレイとエルバは厨房を困らせるほど食べまくりました。意外にも早く潰れたのがエールを立て続けに3杯も飲んだシュゾでした。彼の弱点を発見です。



◆◇◆◇◆



 そして夕方。砦の門の前にて王国騎士団が率いる兵隊がわんさかとやって来ました。指揮官役の騎士団員が口上を述べやがります。


「開門、我らはオルファン王国騎士団である!魔王を討伐した王族ユーティス様と勇者パーティーをお迎えに参った!!」


 タナス砦から私達「わがままウッキーズ」の4人が颯爽と現われてやりますわ。


「お出迎えありがとう、それじゃいきましょうですわ」

「ひゃはー!憧れのガイセンってヤツだ!」

「アタ・・・自分達も偉くなったモンよ!」

「ぅにゅー英雄なのだしー!」


 皆さん下品な口調でしゃべくっていやがります。もう少し口の利き方を考えて欲しいものですますわね。


「では皆さんこの馬車の中に・・・」


 そういって指揮官が指で指したのは、荷台の部分が布ですっぽりと覆いかぶさっているクソでかい馬車でしたわ。


「これは・・・確か幌馬車ですますわね?」

「おぉっ、これじゃガイセンしても下々どもの間抜け面が見れねぇじゃねぇか!」

「アタ・・・自分の全身武装の晴れ姿が見せられないよ!」

「ぅにゅー暗くてせまいのだしー!」


 彼らは勝手気ままな文句ばかり言いやがります。確かにパーティー名前通りのわがままウッキーズですが、こっ恥ずかしいったらありませんですわ。

 そんな自分勝手な訴えに騎士団員はニヤけながら答えます。


「何、中には英雄たる皆さんを妬む愚か者もいるかも知れません・・・ここは警護の一環だと思って頂ければ」

「しょうがないわね、皆さん入るわよます!」


 ようやく皆さん馬車の中に入ってくれました。全く手の掛かる連中ですますわ。



 そして一週間後、私達を乗せた幌馬車が向かった先は・・・王城ではなくオルファン王国の犯罪者が収容される場所、ライステ監獄でしたわ。


 あのガキども・・・人をハメやがったですますわねぇぇぇっ!

 ムキィィィイイイイイィィィィィィィィッ!!

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