第4話 生存者はいるのですか?

 町から南にある草原、ここで犬型モンスター・ノール50頭の討伐クエストを請け負っています。


 一時間ほど前このクエストを受けにギルドに行きました。

 いつもは入り浸っている冒険者達に「待ってたぜウキィィィ」と揶揄われるのですが、何故か前回から皆さんは何かに怯えているようで目を合わせようとしません。


 また私達に因縁をつけてきたBランクパーティー・シードルの泊っている宿屋へ行き火傷をさせたリーダーへの見舞い金を渡そうとしたのですが、パーティーの方達はガクガクと震えてそれを頑なに受け取ろうとしませんでした。


 どうも私の学んで来た常識と冒険者達の暗黙のルールとは差異があるようです。



 それはさておき現状把握です。およそ50頭いるノール達はその群れを小分けにして少しずつ私達を取り囲んできています。障害物のない草原ですので囲まれては不利です。


「今日はシュゾの番です、初めての戦闘で緊張もしているでしょうけど、危なくなったら私達も手伝いますので頑張って下さい・・・ミュリもいいですね?」

「はい、ちゃんと彼のサポートに回ります!シュゾ殿、ファイトです!!」


 シュゾは思ったより落ち着いた足取りで前に出ます。しかし護身用に渡したナイフは納刀したままです。まさか丸腰で戦うおつもりでは?!彼の鬼功オルグは射程距離の狭い範囲攻撃しかないというのに!


「さぁて今日から俺も勇者デビューだぁ・・・おらっ犬っコロども!かかってきやがれぇ!!」


 まったく何という下品な言葉使い・・・ここが他国でなくて良かったというところですが、こんな山賊まがいの勇者がいて良いのでしょうか?


 そんな事を考えているウチにシュゾがあっという間にノール10頭にとり囲まれてしまいます。いけない、あれでは鬼功オルグがあってもひとたまりもありません!


「シュゾ!ミュリ、早くシュゾの援護に!」

「はっ!分かりまし」

「余計なお世話だ!いくぜぇ、セルフバーナぁぁぁぁぁ!!」


 次の瞬間シュゾの身体は炎に包まれました。ご存じの彼得意の範囲攻撃の鬼功オルグです。


「WaoooOOOOOOOn!!」


 突然の切り返しにさすがのノール達も襲い掛かった足を止めることが出来ずシュゾの炎の中に飛び込んでしまいます。これなら狭い範囲攻撃でも有効です。


 その中から一頭だけノールが飛び出そうとします。それをシュゾが捕まえました。そのまま鬼功オルグで倒してしまうのかと思えば何故かノールの背中に張り付きます。


「はぁいポチちゃぁん、イイ子だからみんなの所に帰ろうねぇ・・・おらっ!!」

「Gyaoooooon!!」


 お尻を叩かれたノールはシュゾを背中に乗せたまま走り出しました!他の群れに向うと更にシュゾは無傷のノール達に鬼功オルグで攻撃します。また逃げ出す一頭に飛び乗りまた違う群れに・・・。


 気が付けばシュゾは武器を使わず一頭も逃すことなくノール50頭を仕留めていました。こんな無茶苦茶な戦い方があっていいのでしょうか?エーゼスキル学園にも粗暴な方はいらっしゃいましたが、ここまでケタハズレの戦い方をした者はいませんでした。


 普段の失礼な態度に勇者としての品性に欠けるものの、一人でこれほどの戦果を上げる。やはり彼はまぎれもない勇者なのでしょうか?


「はぁはぁ、さすがにニート様にはキツいぜ!ちっと休憩をば・・・」

「シュ、シュゾ殿!貴殿は何という戦い方を・・・戦闘にも礼儀というものが!」

「ミュリ、気持ちは分かりますがここは彼の戦績を認めましょう・・・魔石採りを始めます」


 疲れてうずくまっているシュゾを置いてミュリと作業をします。しばらくするとシュゾは起き上がって採り出した魔石を眺めています。


「ねぇユトさん、これをギルドで金に換えるのは分かったが・・・結局こいつはギルドからドコに行くんだ??」

「最終時に魔石は『石柱(バベル)』に住む『石柱人(バーベリア)』が買い取ります・・・先ほどから向こうに見えている建物があるでしょう?」


 そういって私が指で指した方向には岩石で組みあがった巨大な建物、石柱バベルが見えます。


「あーあれか!異世界にも高層ビルが建ってやがるたぁ思ってたけど屋上がさっぱり見えんなー・・・んで何アレ?」

「詳しくは私にも分かりませんが何でも空を支えるものだとか、そして石柱人バーベリアとは昔からあの石柱バベルの中で住んでいる古代人らしいのです・・・それはそうと貴方もそろそろ手伝っ」


 そんな時ミュリが血相を変えてやってきます。


「ユト様!南の方で襲われている馬車が!」

「!・・・あれはノール?まだ生き残りがいましたか!急いで助けますわよ!」


 今度は私達3人で10体ほどのノールを難なく討伐しました。ミュリを外の守りに残して荷台の大きい馬車の中に入ります。


 馬車の荷台の中は見るも無残な光景でした。8人の方達が無残な姿で全員事切れています。


「うわーマジキツいよリアルグロ光景・・・さすがの俺もここにはアイテムはないと見た、早く帰ろうぜ?」

「お待ちなさい、せめてこの方達を弔わないと・・・ハっ!」


 突如荷台の角にあった大きな樽が揺れ出しました!


「そこにいるのは分かってます!ヴァキュアムカッタぁー!!」


 私の風属性の鬼功オルグ・ヴァキュアムカッターは真空を作り出して相手を斬る技です。樽ぐらいならば簡単に切断ができます。


 まっ二つに割れた樽からでてきたのは、


「ぅみゅーひどいのですー、モンスターじゃなくてカワイイ女の子なのにー」


 ボロ布をまとった身なりの悪い女の子でした。見た目では14、5歳ぐらいでしょうか?髪型は短い目ですが彼女からすえた悪臭が漂ってきます。


「これは失礼しました、生存者がいたとは知らずに・・・しかし残念ですが貴方のご家族は」

「家族じゃなくて人買いですー親とはぐれたところを無理矢理さらった人でなしなのですー、こいつらは当然の報いを受けたのですー」


 やはりこの娘は奴隷でこの馬車は人買い、つまりは奴隷商人のものだったのでしょう。よく見ると彼女にはシュゾとは違う首輪と手錠まではめられています。


 もちろん我が国では奴隷商売を禁止しているのですが違法商業は後を絶ちません。

 奴隷商人の遺体から鍵を探して彼女の首輪と手錠を外しました。


「そうですか・・・ならば近くの町まで貴方を送りましょう、そこから先は身の振り方を考えて自由に生活してください」

「ぅみゅーそれができれば苦労はしないのですー、売り手の無くなった奴隷に帰る場所なんてないのですー・・・そこで提案があるのですがそこの貴方にアチシの主になってほしいのですー」


 そう言って彼女が指さしたのは・・・シュゾ??


「ぉ、俺?」

「ちょ、ちょっと貴方!自分の主に、ってよりによってシュゾなんかに!」

「ぅみゅーアチシは女の人との趣味はないのですー、この人が養ってくれればアチシの身は安全なのですー」


「おぅ、よく分かってるじゃねーか・・・このシュゾ様が主様になってやる、名前は?」

「アチシは『アレイ』といいますー、安定した生活ができるように主様についていくのですー」


「シュゾ!こんな幼い娘を同行させるなど私は認めませんよ!これは魔王討伐の戦いなのであって物見遊山などではありません!!」

「まーいいじゃねーか姫サン、旅は道連れ世は情けってね?それともこのままガキンチョ放ってくかい?確実にモンスターの餌食だぜ?」

「く・・・・・仕方ありません、この娘には私どものお手伝いをして頂きましょう」


「ぅみゅーそれはイヤなのですー、アチシは働かないで贅沢三昧が夢なのですー」

「やかましい!『働かざる者食うべからず』だ、文句があるなら連れてってやらん!」

「ゥキィィィ!それは貴方も同じでしょう!まったくもうさっさと帰りますわよ!」


 奴隷だったアレイが私たちのパーティーに加わりました。戦闘などはさせられませんので主に雑用や荷物持ちといったところでしょうけど。


 まったくもって先行きが不安です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る