第2話 パーティー名はどう致しましょう?

 国王陛下より王命を賜った私ユーティスは3日間の猶予を頂き魔王討伐に向け準備を始めます。


 王族ではある私ですがエーゼスキル学園での経験上、庶民生活や野営の仕方などを一通り学んできましたので長旅には問題ありません。


 必要な物資を揃えた後、異世界の勇者シュゾへの準備も行います。聞いた話によると彼の世界では戦争というものがなく魔物もいないので戦闘力は皆無であるとの事。そのような世界が存在している事実の理解に苦しみます。


 シュゾに一通りの装備を設えた後、王城の一室を使って彼に鬼功オルグ講義を致します。こんな時にも学園での学習が役に立つのは本当にありがたい事です。


 シュゾの鬼功オルグは自分の周囲を攻撃する範囲攻撃、近距離では高い攻撃力ですが間合いをとっている相手や離れた場所からの攻撃などは行えないと思われます。この場で鬼功オルグの幅を広げて頂きましょう。


「・・・とこのように鬼力を一点集中させることで・・・ちょっと貴方、講義中に寝るとは何事ですか!」

「んぁ・・・っつっても俺魔法使えるんだろ?こんな難しい勉強なんざいらねぇんじゃね?」

「ゥキィィィィィ!マホーじゃなくて鬼功オルグです!基本も出来てないのに戦闘などできるものですか!私達は貴方に死なれては困るからこんな事してるんです!!もっと気を引き締めなさい!!」


 ここまでやる気がないとは・・・今更ながら本当に彼が勇者なのでしょうか?私の隣にいた騎士ミュリアスが彼に詰め寄ります。


「そうだ!姫様のいう通りだぞ勇者殿!貴殿の戦闘力はお情けにも一人前とは言えない!だからこそここでしっかりと訓練を受けてもらわねば!!」

「あっそ、じゃあまた武器無し魔法無しの組手でもやってみっか騎士サンよぉ?俺はいつでもいいぜぇ、くぷぷぷぷぷ」


 そういうシュゾは右手を開いたままわしわしと指を動かしています。威嚇でも無し格闘術の構えでも無し・・・一体何をしているのでしょう?


「ぅ、うぐ!そ、それはご遠慮願いたく・・・」

 ミュリアスの顔が真っ赤になり威勢が弱くなっていきます。こんな時こそ彼シュゾの鼻を折って頂きたいのですが意外に頼りになりません。


 実は2日前にミュリアスがシュゾの態度に腹を立てて組手を仕掛け完膚無きまで叩き伏せました。

 しかしその後何度やっても彼を叩きのめすどころか逆に抑え込まれる始末。そんな時彼女の顔は何故か赤く染まっているのです、今のように。


「つーわけだ、俺にベンキョは要らねっての・・・学生時代から解放されたニート様にムチャしやがって・・・」

「に、にーと?わ・・・わかりました!ではさっそくモンスター退治に参りましょう!後でお困りになられても知りませんわよ!?」

「ほっほーい、ようやくレベ上げキター!」


 ・・・こんな調子で大丈夫なのでしょうか?



◇◇◇



 ここは王都オルファンから最短の町バリバス。


 私もミュリアスもシュゾと同じく庶民の服装の上から革の胸当てや腰の前垂れといった軽装の装備を身につけています。


 本来であればすぐさま魔王城に行き魔王討伐に向かいたいところですが、現在の我々の力量では死ににいくようなものです。加えて王国も私達3人の他には戦力を回せない事から兵の増員も期待できません。


 ならばいっその事冒険者ギルドに登録をすれば勇者シュゾの戦闘訓練を行うが出来、且つ得られるモンスターの討伐報酬はこの旅の資金補充になるので一石二鳥です。


 またこの町では低級ながらモンスターの被害が多く町民達も困っているとか。この地の治安回復と共にシュゾの戦闘訓練にはもってこいの場所です。しばらくはこの町を拠点にして活動する事に致しましょう。


「さてと、この村の現状を知るべく冒険者ギルドに向かいましょうかミュリ?」

「は、はい!姫様!」


「姫呼ばわりはダメだと言ったでしょう?もうここは王都から離れているのだから、私の正体が知られれば魔王もどのような手段を使ってくるか分かりません・・・ここでは私も貴方もいち冒険者です、さぁ『ユト』と呼んでください」


 以上の理由から私の事は「ユト」でミュリアスは「ミュリ」と呼び合う事に決めていました。シュゾは・・・彼の知名度が低いのでそのままです。


「ゅ、ゅゅゆ・・・ユト・・さまぁ」

「様は要らないのですが・・・それはそうとシュゾが見当たりませんね?」

「ゅぅ、シュゾ殿は何か調べ物があるとか言ってここを離れましたが・・・」


 調べ物がある??もしやその調べ物とは!!


「ぎゃー!どろぼうだー!!出てけコノヤロー!!」


 斜め向かいの民家から怒鳴り声が飛んできました。追い出されて中から出てきたのは・・・シュゾ?


「痛てて、誰がドロボウだこんちくしょー!こちとら勇者サマだってのに!!」

「ちょ、ちょっとシュゾ!人の家で何をやっているのですか貴方は!!」

「あ?いやぁ民家でもツボとかタンスとか調べてみたらお金を見つけました!タンス預金で金貨20枚ってすごくね?」


「ゥキィィィィイ!それは窃盗というのです!私達はこれからモンスターを討伐するのですからそんなものは要りません!さっさと返してきなさい!!ミュリ、あの家の方にこれを持って謝罪を!」


「承知しました!シュゾ殿、いくぞ!」

「へいへい、ったくお姫様と騎士様わ頭が固ぇなぁ・・・」


 しぶしぶ住民にお金を返すシュゾと私の代わりにお金を渡して謝罪するミュリ。目を離すとすぐこれだから油断ができません。


 彼につけている隷属の首輪は私の指輪から指示を送ることが出来ます。しかしあまりに力づくで命令を与え続けるとシュゾの不満が高まっていき、やがては首輪自体が爆発を起こすものだとか。無暗やたらに命令するワケにも参りません。


 なるべく今のように説得する方向で彼を誘導する必要があります。



◇◇◇



 この町にある冒険者ギルド「ホーデュラ」にて全員の冒険者登録を済ませました。次にパーティー登録ですがパーティー名を考えなければなりません。ミュリが命名を考えてくれています。


「僭越ながら・・・『プリンセスユト遊撃部隊』」

「却下」


「では『ユト姫と愉快な騎士たち』」

「不愉快です」


「ならば『ロイヤル=オルファン魔王討伐隊は最強!余が悪かった、侵略行為は中止するから許してくれと言っても今更遅い!』」


「長すぎです、全部私たちが王国関係者で魔王討伐隊だって言ってるようなものではありませんか!これは隠密行動なのですよ?」

「ぅぐ、申し訳ありません!!」


「要は『バレ』なきゃいいんだろ?ここは俺に任せな?」

「何か名案があるのですかシュゾ?」

 シュゾは私から手続き用紙を奪い取り、それを受付嬢に渡して話し込みます。


「はい、決定しました!『わがままウッキーズ』パーティー結成おめでとうございます!ずいぶん可愛らしいお名前ですね!」


 わがままウッキーズ?わがままウッキー・・・わがままウキー・・・わがままウキィー・・・??


「なぁぁ!なんということを仕出かしてくれたのですか!ウッキーズって何なのですか?!」

「お姫さんよく言ってるじゃん『ゥキィィィィー』って、アンタがリーダーだしちょうどいいかなぁと」

「ぷっ・・・くくく」

「ミュ、ミュリ!笑っている場合ではありません!!受付の方、訂正をお願い致します!!」


「ぁ、ごめんなさい・・・一度登録したものはパーティー解散まで抹消できないルールがありまして・・・再登録は1ヶ月後になります」

「うんうんこれならぜってーバレないよな?どこにも勇者とか姫なんて書いてねーんだから、わがままってのもリーダーの特徴捉えてるよねー」

「ゥキィィィィィィィィィィィィ!わがままは貴方の方でしょうがぁぁぁぁ!!」


「ゅ、ユト様!ここは抑えて下さい!!」

「どうしたというのですミュリ・・・はっ!!」


「お?ホントにウキィィィって言ってるぜ?」

「ありゃあ確かに・・・」

「わがままウッキーズだぁ」


 ギルドにいた冒険者達の声が聞こえてきます・・・魔王討伐の前に私の心が折れそうです。

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