インビジブル:U>S>A
玉露でんちゃ
第1話 奴の名前はサドラ
ヒーローは死んだ。だれも他人を救わない。
僕がこのことに気が付いたのは、つい最近のことだった。
―1月前
「シバ。遊びに行こうぜ。」
僕の後ろから、奴に声を掛けられる。
僕はシバ。奴の名前はサドラ。
遊びとは、まったく楽しいものではない。
15歳。学校の帰り道。僕は友人に囲まれゲームセンターに向かっている。
サドラはガキ大将だ。取り巻きも2、3人いる。
僕は取り巻きの一員でも、サドラの友人でもない。
へたくそな遊びをやらされ笑われる。断ると殴られる。
そして、料金はいつも僕が払っているのだ。
ゲームセンター。爆音と筐体の光がくっきりうつる。
「シバ。これやってみろよ。」
E.X.D《エイペックス・クロス・ダンス》噂のダンスゲームだ。
足元6面のステップを音楽に合わせ踏む。よくあるゲームだが、難易度がおかしい。店舗が独自にイジり、だれもクリアできなくなったのだ。
「シバ。クリアできたら言うことなんでも聞いてやるよ。」
この文言は聞き飽きた。クリアできたことはないのだ。
僕は運動ができない。体育の成績はいつもギリギリだ。
座学で穴埋めをしているわけだが、サドラはこれが気に食わなかったらしい。
E.X.Dから音楽が流れ始める。繰り返しの多いEDMだ。
しかし筐体の指示はそれに伴っていない。ビビットカラーのやじるしが高速で流れてくる。
どうにか足を動かしてみる。
→↑↓↖↓←→↑↘↙←↓↑↑↘→→↓↖→↑…
無理だ。足が絡まる。
後ろから、大勢の笑い声が聞こえた。
いつものことだ。
視点が固まる。
この日の出費は1万。財布はからになったが足りなかった。
サドラ達はさっさと帰ってしまっている。
「じゃあ、払えないと。」
鼻にリングを通した定員が睨んでくる。
「どうすんだ?」
「明日、払います。」
「ダボぬかしてんじゃあねえぞ!!この、ガキが!」
いきなりの出来事だった。
「俺はなぁ、不確定ってのが嫌いなんだよ、口で言うだけならだれでもできんだ。わかるか?お前が明日ここに来る保証はねえってことだ。」
声が出ない。目を離せない。
「いいか!?お前は、ここでママに電話して、助けてもらうしかないんだ。早くしろ!」
電話。僕は持っていない。そして財布は空だ。
「財布、小銭もなくて。」
「ならよ。一つここで仕事をしてもらう。」
うなずく。おそらく掃除かなにかだろう。
「来い。」
「そこ座れ。」
バックヤード。パイプ椅子に座らせられる。
「これ飲め。」
銀色の水筒を渡される。
紅茶のにおいがした。
明らかにあやしい。飲むべきではない。だが飲まずとも無事に帰れる気もしない。
「早くしろ!」
おそるおそる口に含む。
味はダージリン。全く変なところはないが、
...
気が付くと丸い照明が網膜を突き刺す。
「意識もどったのか。気の毒に。」
身動きはとれなかった。
インビジブル:U>S>A 玉露でんちゃ @Sinkee
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