天職 〜女神様の願い〜

大橋 仰

前編 天職決定

 ここは剣と魔法でしのぎを削り合う世界。


 この世界では15歳になると、女神様から『天職』を授けられる。それは戦士職であったり魔法職であったりと様々だ。


 今年15歳になった俺は、村の同い年の連中と一緒に、隣街にある大きな教会に向かっていた。天職は教会にいる神父しか読み解くことが出来ないのだ。



 教会に入り、俺は神父の前に立つ。

 すると——


 俺の天職を調べていた神父が驚愕の声を上げた。

「なんだこれは!? こんな職種、聞いたことないぞ!?」


 ふふっ、それはそうだろう。だって俺は特別なのだから。



♢♢♢♢♢♢



 俺は日本生まれの日本育ち。


 日本で交通事故に遭い死亡した俺は、その直後女神様に会ったのだ。


 その時、女神様はこう述べられた。


『日本での記憶を残したまま、私が管理する世界に転生させてあげましょう。そのかわり、私の願いを叶えて欲しいのです』


 俺はその『願い』の内容を確認することもせず、一も二もなくその申し出を受け入れた。


 俺が肯定の意思を伝えると、女神様はニコリと微笑んだ。

 その瞬間…… 俺の意識は途絶えたのだった。


 気がつくと俺は赤ん坊の姿になり、この世界に放り出されていた。



♢♢♢♢♢♢



 赤ん坊として転生して以来、俺は、今日のこの『天職』を授かる日をずっと心待ちにしていた。


 女神様の願いとはいったいなんだったのだろうか。

 その答えは、きっと今日わかるはずだ。



 さて、俺の目の前にいる神父の様子に目を移すと——

「なんだこの職種? カコウ? こんなの聞いたことないぞ?」

 神父が驚きの声を上げている。


 カコウとは何だろう? 火口だろうか火光だろうか? 多分火を扱うとは思うんだけど。まさか下降ってことじゃないだろうな。俺、日本でバンジージャンプをやった時、失神した悲しい思い出があるんだよな……


「おっ、続きが見えてきたぞ。職種はカコウ職で、職業は、なになに…… ツクダニ職人? なんだそれ?」


「…………ツクダニ? あの、すみません神父様。今なんとおっしゃったのですか?」


「ええい、うるさい! わ、私にもよくわからないが…… とにかくお前は今日からツクダニ職人だ!」


 ツクダニって…… きっと佃煮のことだよな?

 じゃあ、カコウ職って、『加工職』ってことなのか?


「なんだよそれ!? なんで俺が異世界に来て佃煮の加工をしなきゃならネエんだよ!」


「無礼者! 口を慎め!」

 顔を真っ赤にして神父が怒っている。


 仕方ない。女神様の代弁者でしかない神父にゴネても、どうにもならないのだから。



 俺は教会の出口を目指し、トボトボと歩き出した。すると——


「待て、ツクダニ職人! 喜べ、補足事項が見えたぞ!」

 背後から神父の声が聞こえた。


 なんだ? ちょっと希望の光が見えてきたのか?

 職業は佃煮屋だけど、実は魔法の腕が超一流の佃煮職人だったりするのか?



「お前に向いているのは、『コンブ』や『イワシ』といった水産系ツクダニのようだ。『ごぼう』や『ふき』等の農産系ではないので注意するように!」


「余計な情報付け足さなくていいよ!」


「私にはなんのことかサッパリわからないが、まあ頑張りなさい、水産系ツクダニ職人よ!」


「そんなカテゴリーの佃煮職人なんて聞いたことネエよ!」


 チクショウ…… なんで俺が異世界で佃煮を作らなきゃならないんだよ。心当たりが全くない…… 訳ではない。


 実は…… 俺の日本での職業は老舗佃煮屋の店員だったのだ。しかもその店の跡取りだったりしたのだ。


 でも、佃煮を作るんなら、別に異世界に転生しなくてもいいじゃないか。

 もう一度、日本で生まれ変わらせてくれれば済む話だろ?


 仕方ない。いろいろ考えたって、天職が変わるわけじゃない。

 俺は諦めて異世界で佃煮作りに励むことにした。

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