おかげさま………②
“オリジナルムーン”。
第一の月という意味合いを込めてつけられた名前だった。
その一方で、もう一つ見慣れない物体がある。
オリジナルムーンの左下辺りに浮かんでいるもの。
それは、第二の月“エンジェルムーン”だった。
色は白。
前回の満月の時に、忽然と現れたのだった。
しかも、エンジェルムーンは、毎日少しずつオリジナルムーンに向かって近づきつつあるようだった。
だから、発見されてからしばらくはいろいろと憶測が飛び交い、不吉な出来事の予兆などと物議をかもして大騒ぎになった。
ところが、今ではほとんど見上げる人さえいなくなっていた。
みんな自分の生活で手一杯で、地球の外のことにまで関心を持つ余裕などなかったからだ。
と、しばし空を眺めていたノボルだったが、二つの月のやや上方を尾を引いて流れていく一筋の光を見つけた。
流れ星………?
いや、違うようだった。
じゃあ、彗星かな………?
そう思ったものの、時折、キラキラしたものが見える。
何だろう………?
それは光る粉のようなもので、どうやら上空から降ってきているようだった。
ひょっとしたら、何かの副産物かも………?
ノボルは不思議な気持ちになりながらも、不意にそんなことを考えた。
肉眼では分からなかったが、きっと、目には見えない様々な物質が地球を取り巻いているのかも知れない。
化学物質や化石燃料の大量使用により、空気中には分解されないままの気体やガスなどの微小な粒子が放出され続けているのだから。
そのため、今日の夜空が昨日と同じように見えても、毎日、時々刻々と変化しているはずだった。
恐らく、良い方ではなく、悪い方へと。
人間が活動しているところには、必ず廃棄物も発生するからだ。
でも、誰が、どうやって、宇宙のゴミを処理しているのだろう………?
ノボルはそうも思った。
何故なら、地上でも似たようなことが起きているからだ。
実際、誰も気にもかけないような小さな神社の境内や周辺にも菓子パンやスナック類の袋、プラスチック容器、空き缶などが無数に落ちていた。
それを見るとノボルは心が痛み、無性に申し訳なさを感じた。
だからリュックを開け、中から常備している袋を一枚取り出すと、黙々とゴミを拾い集め始めた。
が、ほどなくすると、また明け始めた空に一筋の光が流れ、ちょうど小高い三橋山の山頂辺りで消えた。
今度こそ、流れ星かな………?
いや、やはり違う気がする。
では、隕石かというと、衝撃波も衝突音もない。
実際のところ 落ちてきたというより、降下してきたような感じだった。
そう思えるほど、光の筋がはっきりと見えた。
しかも、美しい色合い。
尾を引いていた光はどことなく七色を帯び、その余韻がまだ空に残っていた。
一体、何なのだろう………?
ノボルは少し不可思議な思いを抱きながらも、何故かふと興味も湧いてきてしまった。
今日は勤務時間が短いから、仕事が終わったら見に行けるかも………。
そんなことを考えつつ再び境内のゴミを拾い始めたものの、数歩進んでまた足を止めた。
参道をミミズが這っていた。
大きさは子供の靴のサイズほどあり、頭の先がやや尖っている。
気をつけてね、とんがりミミっち………。
ノボルはいつものクセでつい名前をつけてしまいながらも、そっと指でつまみ上げて手水舎の脇の土の上に放した。
滅多に参拝者が来ない神社だとはいえ、人が来たら踏まれてしまうかも知れないと思ってのことだった。
そして、とんがりミミっちが土の中に戻っていくのを見届けると、ノボルはまたゴミ拾いを再開した。
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