光のゲート②

 起動した………!?


 葵は手早く入力してそれぞれを設定した。


 現在年月日:二〇六二年一月一日

 移行年月日:二〇三八年一月一日

 目標地座標:QPRTTVT83?5129KM7CX55ZG415


 すると、四本のオベリスクが内側から発光し、四方から放たれた閃光の交差する空間に薄い扉を思わせる光のゲートが現れた。


 それを見た源川は驚き、ミランダは目元をピクリと上げる。


「おー!? アオイ、すごいね!」


 ただ一人、つくしだけが手を叩いて喜んでいたものの、葵は構わずにすぐさま源川に呼びかけた。


「博士、準備完了です!」

「分かった………」


 源川は緊張した面持ちになると、深呼吸をするように一度ゆっくりと息を吐いた。


「念のために、持ち物をチェックしたほうがいいね。忘れ物はない?」


 ところが、つくしは、まるでピクニック感覚だった。


「大丈夫だ………」

「“ここでっせフォン”も?」

「必要なものは、ここに全部入っている………」


 そう言って、バッグを持ち上げてみせる源川。


「じゃあ、あとは博士がうまくやるだけだね」


 簡単そうにそんなことを言うつくし。


 だが、相手をしている余裕のない源川は、それに応じずにゆっくりと葵の前まで近づいた。


「では、行ってくる………」

「………」


 葵がうなずくと、やや赤みがかった髪がふわりと揺れ、丸メガネ越しに瞳が潤んでいるのが分かった。


「まるで夫婦漫才の別れのシーンみたいだね? でも、博士と葵は、まだ一度も手をつないだこともないけど」


 そんな中、つくしがまたもや場違いなことをサラッと口にしたが、一言も返ってこない。


「あれ? 今日はツッコミはないの?」


 やはり、無反応。


 二人は静かに見つめ合っていた。


 源川と葵は一回りほどの年齢差があったが、固い信頼で結ばれていた。


「戻ってくる時も、頼む………」

「はい………」


 やがて名残惜しそうに最後の言葉を交わし終えると、源川は葵の前から離れてゲートのほうに進んだ。


 が、いよいよその中に足を踏み入れようとしたところで、一度振り向いた。


 見つめるしかできない葵。

 呑気そうにヒラヒラと手を振るつくし。


 源川はしっかりと二人のことを記憶にとどめると再び背を向け、意を決してゲートをくぐった。


 その姿が光の向こうに見えなくなった数秒後、四本のオベリスクの閃光が同時におさまり、ゲートが消えた。


「………!?」


 葵は思わず声を上げそうになりながらもとっさに手で口を押さえると、目を閉じた。


「あーあ、行っちゃったね………」


 つくしは、また足をプラプラさせながら言った。


「………」


 そして全てを見届けたミランダは、硬い表情のまま、一人、先にその場を去った。

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