第六話 二つの謎の現象①

「ケリロ! カロリン!」


 突然、色とりどりのフルーツを並べた露店の前で一人の男が奇妙な声を上げたかと思いきや、今度は中腰気味になり、一度ポンと跳ねる。


「ケケリン!」


 さらには、また奇声を発すると、行き交っていた人たちが戸惑いながら距離を取る。


 麗らかな陽射しが降り注ぐマーケットは、不可解な行動をする男の出現でざわつき始めた。


 ◇ ◇ ◇


 ………!?


 車で町中を巡回していた三玲は、突然、車道に飛び出してきた男を見て急ブレーキをかけた。


 そのあとを銃を持った二人組が追いかけていく。


 グレーのスーツに、忍者のような覆面頭巾とサングラス。


 “隠密警察”だった。


 隠密警察の二人は、人混みを蹴散らすようにして男を追跡していく。


 と、また路地から飛び出してきた一人の男が必死の形相で車道を突っ切っていき、それを別の二人組が猛追していく。


 赤を基調にした軍服のような制服、ベレー帽、そして肩口には誠の一文字が刺繍されたワッペン。


 “赤新選組”だった。


 赤新選組の二人は、迷惑そうな目を向ける周囲の人たちを押しのけて男のあとを追う。


 さらには、対向車線にはみ出しながら周囲の監視をする一台の車。


 青いボデイ、上部には誠の文字の青色灯。


 “青新選組”の隊員が使うパトカー、通称“青パト”だった。


 青パトはけたたましくクラクションを鳴らしながら、我が物顔にパトロールを続ける。


 リリリリリリ!


 と、三玲がそんな様子を見ている折、呼び出し音が鳴ったので車を路肩に移動してとめた。


 それから手の平サイズのタブレット電話をポケットから取り出して応答ボタンを押すと、画面に佐山が映った。


『通報があった、“カエル化現象”だ。場所はマーケットだ』

「分かったわ」


 三玲は佐山との通話を切るや、無線で呼びかけた。


「マーケットでカエル化現象が発生したわ! すぐに急行して!」

『了解です!』


 左耳につけたマイク内臓のヘッドセットから、即座に水嶋ヒナコと竹林タツオの返答が聞こえる。


 もう一人からの応答はないようだったが、三玲は気にせず車を発進させた。


 ◇ ◇ ◇


 表通りにはいくつもの店が軒を連ね、網目のように入り組んだ裏通りには露店がひしめく。


 マーケットは買い物客でごった返していたが、ちょうど三叉路前の広場の一角に人だかりができていた。


 そして、人垣の向こうに中腰の男の姿を確認した三玲は、すぐさま腰のベルトの右側につけたホルダーから麻酔銃を抜いて構えた。


「見つけたわ!、果物屋の前よ!」

『了解!』


 三玲はヒナコとタツオの声が返ってくるのを聞きながら、男との間合いをはかった。


 普通なら野次馬が障害物となって照準を合わせられない状況だったが、三玲にとってはまったく問題ではなかった。


 黄緑色のスタッフジャンパーの左肩の部分には、宇宙船の上に乗る地球が型取られたロゴ。


 銃を構える三玲の姿を見た人たちは、少し距離を置いて様子を眺める。


 ふと一陣の風が吹き、一瞬、人垣の壁のすき間に男の姿が見える。


 その直後、視覚が捉えているターゲットとの距離が瞬時に割り出され、三玲は引き金を引いた。


 すると、中腰の男がユラユラと倒れた。

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