半人半妖・第3話

 徹が会計をすませて店を出ていくと、晴樹がテーブルまでやってきた。

「何か揉め事?」

「いえ、問題は彼の息子なので、後日彼の息子も含めてもう一度話をすることになりました」

霧斗がそう言って苦笑すると晴樹は心配そうな顔をした。

「あの人、なんだか疲れた顔をしてたわね」

「そうですね。今まで相談する相手もいなくて思い詰めていたんでしょうね」

霧斗がうなずくと布巾を持った楓がやってきてテーブルを拭いた。

「あれの息子は半妖か?今時珍しいな」

「わかるのか?妖狐の子どもらしい」

驚きながら霧斗が言うと、楓は眉間に皺を寄せた。

「狐は頭がいいぶん質が悪い。人間に妖狐の子が育てられるはずがない。さっさと引き取ってやればいいものを」

「半妖を受け入れてくれるだけの度量があるのか?」

「さあな。それはその一族しだいだろう。どれほどの位かにもよるだろうがな」

楓は妖狐にあまりいい感情がないのか人間のほうが哀れだと言ってカウンターに戻っていった。

「珍しいわね。楓ちゃんが妖のほうを悪く言うのは」

「まあ、色々あるんでしょうね」

霧斗はそう言って苦笑すると立ち上がった。

「晴樹さん、また連絡きたらこのテーブル借りると思います。っていうか、この衝立いいですね」

「でしょ!きりちゃんの仕事用に買ったわけじゃなかったけど、ここでたまにバイトの面接とかしてる人たちもいるじゃない?あんまり人に聞かれたくない話をするのにいいかなと思って」

晴樹は衝立が好評だったことが嬉しかったらしくにこにこしながらカウンターに戻る。霧斗も苦笑しながらカウンターに戻り、事務所から財布とスマホ、鍵を持ってくると晴樹と楓に声をかけて店を出た。


 徹から連絡があったのはそれから数日してのことだった。翌日が都合がいいとのことで、時間は前と同じでカフェで待ち合わせた。

 やってきた徹は数日前よりやつれて見えた。蓮のほうは相変わらずにこにこしている。徹は霧斗に頭を下げると蓮と共に椅子に座った。

「こんにちは。あの、体調が悪いんですか?」

思わず尋ねた霧斗に徹は苦笑しながら首を振った。

「そういうわけではないんですが、最近疲れやすくて」

「お前、さっさと息子から離れないと死ぬぞ」

いきなりそう言ったのはお冷やを持ってきた楓だった。楓の言葉に徹がぎょっとする。霧斗はため息をつき、蓮は驚いたようにきょとんとしていた。

「楓、いきなりそれは失礼だ」

「だが事実だ。早くしないと手遅れになるぞ」

「あ、あの、それはどういう…」

徹が死ぬと言いきる楓に言われた本人である徹が震えながら尋ねる。楓は蓮を指差して言った。

「これはお前の息子だろう?無意識にお前の精気を食っている。精気は命だ。精気がなくなれば死ぬ。こいつに自覚はないからやめろといっても無駄だ。お前が離れるしかない」

楓の言葉に徹が蒼白になる。ここにきて蓮はやっと自分が父親の害になっていることに気づいたようで急に慌て出した。

「あ、あの、僕、父さんに何か悪さをしてるんですか?」

「お前、最近空腹ではないか?」

楓に問われた蓮が驚いた顔をしながらうなずく。楓は当たり前だと蓮を指差した。

「お前は半妖。妖と人間では食い物が違う。人間の食い物だけで足りるはずがない」

「妖の食料は人間の精気、というわけか」

霧斗の言葉に楓はうなずいた。

「そうだ。中には血肉を食らうこともあるだろうが、お前は今のところ血肉を求めてはいないだろう。いくら食っても空腹は満たされないのはお前の体が求めているのが人間の食い物ではないからだ。そして、空腹が限界に達して無意識に近くにいる人間、父親から精気を吸いとり始めたんだろう」

楓の言葉を聞いた蓮は青ざめると父親に目を向けた。

「俺が、父さんを苦しめる…」

「落ち着いて。力を制御できるようにして、意識的に精気をもらえれば今みたいに命を危険にさらすほど精気を吸いとることはなくなるよ」

霧斗が落ち着けるように言うと、蓮は小さくうなずいて楓に向き直った。

「あの、僕はどうしたらいいですか?」

「私はお前の母親ではない。そういうことは母親に聞け」

楓はきっぱり言いきるとさっさとカウンターに戻って行ってしまった。

「ごめんね。悪い奴じゃないんだけどね」

不安そうな顔をする蓮に霧斗が苦笑する。蓮は首を振ると真剣な表情になった。

「あの、僕の母親なら、どうにかできるんですか?」

「そうだね。それ以外にも、きみは今後のことをきちんと考えないといけないね」

「今後…僕は、成長が遅いから、このままだと変に思う人が出てきますもんね」

ある程度自覚はあったのか蓮が呟く。その寂しそうな呟きに徹がそっと蓮の手を握った。

「蓮、父さんは何があっても蓮の味方だ。だから、ひとりで思い詰める必要はないからな?」

「うん、ありがとう」

父親の言葉に蓮は少しだけ表情を和らげてうなずいた。

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