行方不明者と目撃者・第4話
協力といっても何をしてほしいとのかと尋ねた霧斗に、村木は「遺体を探したい」と言った。
「遺体が見つかれば犯人の痕跡が残っているかもしれないし、殺人事件として捜査もできるから」
「わかりました。というか、遺体ならたぶんこの公園にあると思います」
「えっ!?」
村木が目を丸くして驚くのとは対照的に、晴樹と桐原は微妙な顔をしていた。
カフェにくる霊はその近辺で亡くなった者。病院や自宅、事故で亡くなった以外で人が亡くなる場所。そして遺体が見つからない場所。そう考えたらこの公園しか思い当たる場所がなかった。
「ここ、ですか?」
「ええ。カフェにくる霊はカフェからそう離れていない場所で亡くなった人たちです。だいたいは近くの病院で、あとは自宅、たまに事故。それ以外となると殺人ですが、遺体を隠せる場所となると、そう多くない。この公園くらいしか思い付きません」
「な、なるほど…」
霧斗の説明に納得しつつ、村木は周りをそろりと見回した。もしかしたらこのそばに遺体があると思うと落ち着かない。それは晴樹や桐原も同じだった。
「ねえ、きりちゃん。具体的にどこっていうのはわかるの?」
晴樹の言葉に霧斗は「そうですね」と公園内をぐるっと見渡した。すると霧斗の影から青桐が顔を出し、植え込みのほうを指差した。
「あっちか」
霧斗が青桐が指差した場所に行くと、確かにそこは一度掘り起こしたようなあとがあった。
「たぶんここですね。掘りますか?」
尋ねられた村木はぎょっとして首を振った。
「待って!いきなり掘って出てきたら大変だから!」
慌てる村木は一度署に戻って諸々の手続きをすると言った。
「掘るときは連絡をください」
「わかりました。たぶん明日か明後日には掘り起こせると思うので、そのときは名刺の番号に連絡します」
そう言って村木が去っていく。桐原もまた何かあったらすぐに知らせるようにと言って帰っていった。
「あたしたちも帰りましょうか?」
晴樹の言葉にうなずいて、霧斗も帰路についた。
「きりちゃん、あそこに埋まってるかもしれない女性、ちゃんと成仏できたからうちのお店にきたのよね?」
アパートに向かって歩きながら晴樹が尋ねる。霧斗は少し考えてうなずいた。
「そうですね。あそこは黄泉への通路になってますから、店にきたってことは黄泉へ行ったってことになる」
「じゃあ、恨みとかはないってことよね?」
「晴樹さんが言いたいのは、未練とかを残して誰かを恨んだりしてないか、ってこと?」
霧斗の問いに晴樹は静かにうなずいた。
「たぶん、何かに巻き込まれて亡くなったなら、恨みを抱く以前になんで死んだのかもわかってないかも。犯人もわかってないかもしれないから、恨みようがない。監禁されたとか、暴力を振るわれたとかなら別だろうけど」
「なるほど。恨みを残してこの世に留まるよりはいいのかもしれないけど、なんだか複雑だわ」
納得したように言いながら晴樹は空を見上げた。
「でも、どうして目撃者はうちで見たなんて言ったのかしら?そもそも、本当に見たのかしら?」
「さあ、その辺はわからないけど、もしかしたら晴樹さんが見えるのを知ってる誰かかもしれない」
霧斗はそう言うと難しい顔をした。
「とりあえず、帰ったら高梨さんに連絡しておきます」
「お願いね。あたしがお礼言ってたって伝えてちょうだい」
晴樹は霧斗がうなずくのを見るとちょうど見えてきたコンビニに寄って遅めの夕飯を調達した。
村木から連絡があったのは翌日の午後だった。夕方に公園のあの場所を掘り起こすと言われ、同行したいという晴樹に店に残るよう言って霧斗はひとり公園に行った。
「あ、昨夜はどうも」
公園に行くとすでに警察官や鑑識が集まりブルーシートで茂みの辺りを囲っていた。村木は霧斗を見ると気さくに挨拶したが、他のものたちは胡散臭そうに霧斗を見ただけだった。
「どうも。今日は店もあるんで俺だけできました」
霧斗はそう言ったが、晴樹に死体を見せたくないというのが本音だった。仕事柄死体を見ることもある霧斗と違って晴樹はちょっと目がいいだけの一般人だ。死体などそうそう見るものではない。
「じゃあ掘り起こしますね」
村木の声を合図に数人の若い警官が土が柔らかい地面を掘り始めた。
掘り始めてすぐ、辺りに異臭が漂う。それは明らかに腐臭だった。
「村木さん、彼女、行方不明になってどれくらいですか?」
「えっと、1週間は経ってます」
村木が袖で鼻を覆いながら答える。霧斗が険しい顔をすると、警官のスコップが何かに当たった。
「で、出ました…」
そう言う警官の声は震えていた。出てきたのは腐敗して原型もわからなくなった死体だった。唯一わかるのは髪が長いこと。そして服装から女であるということ だけだった。
弔われない死体は穢れを呼ぶ。霧斗はパチンッと指を鳴らして寄ってくる穢れを祓った。
「鑑識さん、お願いします」
青ざめた村木の言葉に鑑識が動き出す。霧斗は掘り出されてブルーシートにおかれた死体に近づいた。
「触れてもいいですか?」
「えっ!?ダメですよ!?」
霧斗の言葉に村木が慌てて首を振った。
「どうして触ろうなんて?」
「この死体に残った記憶を読み取ろうと思って。俺はそこまで目がよくないので、触れないと見えないんです」
「死体の記憶…?」
困惑している村木に霧斗はうなずいた。
「うまくすれば犯人がわかるかもしれませんよ?」
「それは、気になるけど、触るのはまだ待ってください」
鑑識が終わるまではダメだと言う村木に霧斗はうなずいて現場検証が終わるのを待った。
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