青桐が助けた人間・第2話

 ベッドで眠っていた霧斗は青桐が戻ってきた気配で目を覚ました。

 いつもは気配を感じさせないように戻ってくる青桐がわざと帰りを知らせるような真似をした。何かあったのかと起き上がった霧斗の目の前に青桐は名刺をずいっと差し出した。

「おかえり。急になんだよ。名刺?」

「狩りをしていたらたまたま妖に喰われそうになっている祓い屋を見つけてな。助けてやった。その礼に主の役にたってもらうことにしたんだ。それはそいつの名刺だな」

「は…?」

予想外の青桐の言葉に寝起きの霧斗の思考が一瞬停止する。部屋の電気をつけて名刺をしっかり見ると、そこには若宮当真と書いてあった。

「若宮、知らない名だな。若い奴か?」

「そうだな。主よりは若いかもしれん。祓い屋としてはまだまだ未熟だな」

青桐の言葉に霧斗はため息をついた。

「そんな駆け出しの祓い屋にどう役だってもらえばいいんだよ」

「腕はまだまだだが、目はよかった。俺を縛る主の鎖が見えていたからな」

げんなりしていた霧斗だっがた、青桐の言葉で表情が変わった。

「そんなに目がいいのか?今時珍しいな」

「ああ。面白いだろう?いい目は何かと役にたつ。勝手に死なれては困るんで、俺の印をつけておいた」

「へえ?そいつのこと気に入ったのか?」

意外そうな顔をして笑う霧斗に青桐はふんっとそっぽを向いた。

「そういうわけではない」

「そうか。ま、この名刺はもらっておくよ。お前の印がついてるってことは、俺も会えばわかるわけだ?」

「そうだな」

霧斗の言葉にうなずいて青桐は姿を消した。これ以上話すつもりがなさそうな青桐に苦笑して、霧斗はベッドをおりて名刺を机においた。

 青桐が自分の意思で人間を助けたのは初めてだった。たとえ一時の興味であったとしても、人を助けたという事実が単純に霧斗は嬉しかった。

「さて、この縁はどういう結果になるかな」

ひっそりと呟いて霧斗はベッドに戻った。

 スマホを手に取り名刺にあった名前を検索してみる。そうすると同じ名前の人間がやっているSNS等が様々出てきた。だが、当然ながら同姓同名というだけで恐らく別人だろうと思われるものばかりだった。開いては閉じを繰り返していると、おや、と思うものがあった。それは個人がやっているサイトで、どうやら何でも屋のようなことをしているようだった。依頼はメールで送るようになっていたが、依頼主と思われる人間からのお礼などが掲示板に書いてある。そこに書かれていたのは猫探しや失せ物探しといった簡単なもののようだった。

「ふうん。こういうやり方で仕事を集めてるわけだ」

霧斗は知り合いからの紹介でなければ仕事を受けない。それは冷やかしや興味本位での依頼を弾くためだった。だが、それは晴樹や高藤のような窓口になり得る人間がそばにいるからできることだった。なんの伝もない人間が祓い屋をして依頼を受けようと思ったら、こういうやり方のほうがいい場合もあるかもしれないと思った。

「ま、今は仕事はきてないし。顔を見るのはしばらく後になりそうだな」

スマホをおいて呟いた霧斗は欠伸をすると布団に潜ってまた目を閉じた。

 目を使うような仕事がなければ特に頼むこともない。実際会うのはいつになるのかと思いながら眠りについた霧斗だったが、霧斗が思うよりずっと早く若宮当真に対面することになるのだった。

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