二階堂・グレース・春香は捜しものが上手い -桃井英志の場合-
モモンガ・アイリス
01
最初にそのことを知ったのはいつだったか――まだ一年の頃、文芸部に入部したのが二階堂を知ったきっかけだったとは思うが、さて、それではあいつの「捜しものが上手い」を認識したのは、具体的には覚えていない。
俺はあいつと特に仲良くお喋りをする間柄ではないし、たぶんこれからもそうだろう。だから特別なナニカがあったわけではないはずだ。
ただ、なんとなく耳に入ってくることがあった。
時間をつぶすために部室へ顔を出し、部員からオススメされた小説なんぞを読んでいると、ふと二階堂に感謝している誰かの話が聞こえてくる。
「ずっと探してたんだぁ。ありがとう、二階堂さん」
なんて、そんな感謝の声。
ほとんどの場合、当人は割とどうでもよさそうな顔をしていた気がする。
◇◇◇
二階堂・グレース・春香について語ることは、俺には難しい。
あまり接点がないのもそうだし、奇矯なところのある人物だからだ。
俺は理解の難しいものがあまり好きじゃない。判りやすいやつの方が好きだ。そういう意味で二階堂は、理解の難易度がピーキーなやつだと思う。
まず、容姿。
きらきら光る真っ直ぐな金髪で、透き通るような肌の白さと暴力的な胸部を有している。瞳の色も
現在は二年B組で、俺とは別のクラス。
所属は文芸部。これは俺と同じだ。
好んで読む書物はライトノベル全般――というか、あいつがラノベ以外読んでるのを見たことがない。
一年の、いわゆる文学少女みたいな後輩に純文学の本を勧められたとき、二階堂は思いっきり嫌そうに首を横に振っていた。苦手な食い物を差し出された動物みたいな反応だったのを覚えている。一年の文学少女はすげぇ悲しそうにしてたな。
性格は……よく判らない。
決して愛想のいい方ではないが、かといって無愛想でもない。異様に整っている容姿のせいで近寄りがたく感じるが、読んでるラノベの話を振ったらめっちゃ食いついてきたことがあった。
ただし彼女の容姿に惹かれてチヤホヤしてくるような相手には、マジで興味なさそうに素っ気なくなる。ほとんど会話も成立しないほどだ。けど、用事があって話しかけられればちゃんと受け答えしている。
好きなものはラノベ。
他のものは知らない。そりゃ、なんかはあるだろう。例えば牛丼が好きかも知れないし、ミケランジェロの絵画が好きだったりするかも知れない。でもそういうことを俺はなにも知らないし、たぶん深堀りすることもないだろう。
結局のところ、俺と二階堂・グレース・春香にはあまり関わりがないのだ。
しかし、ひとつだけ言える。
あいつがいなかったら、
あいつのせいだ、とまでは言わないけど。
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