第50話 あった!

「カイン、それとって!」

「どれですか?」

「えっと……その茶色い表紙って……全部茶色い……」

「抱きかかえるんで、取りたいものをご自身で取ってください!」

「えっ、それは、ちょっと恥ずかしいかも……」

「背表紙に書かれている文字が読めますか?」

「うーん……消えてるのよね?」

「消えてる?文字の消えている本はありませんが……」



 首を傾げるカイン。

 どうしたものか……と悩んで、やはり、カインに抱きかかえてもらうことにした。



「カイン、お願い!」

「仰せのままに!」



 しゅっと抱きかかえてくれ、私は本棚の最上段へ手を伸ばす。



「もう少し右にズレてくれる?2歩3歩くらい」

「わかりました!」

「ふふっ、くすぐったい……」



 返事をしてくれたとき、お腹に息がかかりくすぐったくて、思わず笑ってしまった。

 それを聞きつけたのであろうセプトとニーアが駆け寄ってきた。



「何をしているんだ?」

「本を取ろうと思って、カインにお願いしたの」

「……カイン、変わろう」

「セプト様では、無理ですよ?」

「むぐ……」

「カイン、もう一歩ズレて!あと、話さないで!くすぐったくて仕方がない!」

「……」



 カインに支えてもらい、手を伸ばしたところで、目的のものに手が届いた。



「もうちょっと……うぅ……いよっと……うー……取れた!」



 私は目的の本を手にいいよ!とカインに下ろしてもらう。



「これがどうしても気になったの。背表紙の文字がもう消えてないのだけど……」

「本当だ……」

「それ、本棚にあるとき、見えませんでしたよ?」

「さっきも言っていたね?中を見てみようか!」



 そっと開くと……うん、いいお胸ね……パタンと閉じた。



「何が書いてあったんだ?」

「うん、きっと喜ぶと思うからあげるわ!返しておいて!」

「何怒っているんだろうな?カイン」



 何気なくセプトが開き、カインと二人で本を覗き込む。



「あぁ、なんていうか……ビアンカ様、ご愁傷様です」

「次、あれを見てみましょう!」



 とと……と移動して違う本を手に取る。まだ、みているのかと後ろを振り返り、ぷいっと違う棚の本を手に取る。



「ビアンカ様、そんなにあちこちと触られていますが、何か目印でもあるのですか?」

「本棚を見ているとね?ぼんやり光っているように見えるの。きっと、魔力があるのかなって思って。魔法書は、呪文自体に魔力が籠るらしいから……」

「そうなのですね?私には見えませんから……」

「いいわよ!側にいてちょうだい!」



 私は、本を開く。今度は魔法の書であるが、聖女の魔法ではない。



「いったいどんなものなのだろう?私、全然、見当がついていないのよね?」



 うーんと唸っていると、チカっとエメラルドのブレスレットが光った。腕を伸ばして光る方を探す。

 そちらを目指して歩いていると、大きな扉の前につく。



「ここ……入れるのかしら?」



 ドアノブを回し、そっと扉を押すとぎぃーッと蝶番のさびたような音がする。一人分の体が入るくらい広げて扉の中に滑り込んだ。

 そこは、隠し部屋のようで、見た目が鳥籠のようだった。鳥籠と違うのは、壁一面に本があり、天窓から光が降り注いでいる。その真ん中には、机があり1冊の本が開かれていた。



「ニーア、あれかしらね?」

「……」

「ニーア?」



 振り返ると、そこには誰もおらず、私だけがこの部屋にいたのである。



「ここで、悩んでいても仕方ないよね……」



 気を付けながら、1歩1歩その机へと近づいていく。席も用意されており、そこに腰をかけ、開かれている本を読んだ。



「何々……あるとき、大魔法を1つ完成させた。王宮の一室に部屋を賜り、柱に埋め込んだ宝玉に少しずつ魔力を貯めていく。それらを満たせれば、この国は、魔物から民を守れるはずだ。ただ、この大魔法……は、リスクがある。どんなものかは、確認できないが、かの君が、これ以上傷つかなくていいように……私が、守ってみせる。例え、どんな罰を受けようとも……ここで文章が切れてる……

 かの君って誰のことだろう?あの剣を授かったセプトそっくりの王様のこと?よくわからないわ。大魔法のやり方が書いてあるけど……これは、発動されてないのかしら?よくわからない……」



 私はもう1度同じ場所を読み直す。何度読んでも理解できなかった。ただ、王宮の一室というのと柱に埋め込んだ宝玉というのには、心当たりがあった。


 どうしたものか……こんな大規模なものを本当にするのだろうか?私には、ここまでの魔力はないから、無理だろう。

 違うページをめくり、見ていると……婚約の儀式が書いてあるところに出くわす。


 赤薔薇の刻印が胸元に顕現したと書かれているので、私が見た姿見の聖女であろう。私は、書かれていた場所と同じところをそっと撫でる。その場所には、私の白い肌があるだけで、何もなかった。



「あの聖女は、私じゃないはず……刻印がないもの」



 次のページをめくると、聖女のお披露目で使われた魔法が書かれていた。



「あった!これは……光の魔法?でも、呪文がない……無詠唱で出来るってことなのかしら?今の私なら……あるいはできるかもしれないけど……雪が降るように、温かな光の粒が国民へと降り注いだ。かの君のことを想えば、想うほど……なかった力が湧いてくるようだ……って、何?かの君に恋をしていた?愛情があった?詳しいことが何も書かれてない!もぅ!!肝心なところなのに……」



 誰もいないことをいいことに足を放り出した。

 本を持ち上げるとジャランと音がする。チェーンがついていて、持ち出せない。セプトたちにも見てもらおうとしたのだが……無理そうだ。



「光の魔法……かの君を想って……雪が降るように温かな光の粒が降り注いだ……か。この魔法も、かなりの魔力を必要とする気がするけど、私の魔力って、どこまでが限界値なのか、まだわからないのよね……失敗するかもしれないわ……とにかく、本があったことを伝えなくちゃ!」



 椅子から立ち上がり、私は扉を開いて外に出た。すると、外にいたニーアが涙目で私に抱きついてきた。驚いて、どうかしたの?と聞くと、セプトもカインも焦っていた。



「どうかしたの?じゃない!どこに行っていたんだ!」

「どこって、ここの扉から、中に入っただけなけど……」

「急にいなくなったら、驚くじゃないか!」

「いなくなった?言っている意味が分からないけど……」



 私は三人を見まわし、一人きょとんとする。



「そういえば、あったわよ!聖女の魔法。ただ、結構な大規模での魔法になるみたい……私にできると思う?」

「ビアンカ様なら必ず!」

「あぁ、俺が当日もついているから、大丈夫だ」

「それなら、安心ね!」

「それで、そこには何が書かれていた?」

「うん、聖女の魔法は、光属性の魔法みたい。雪のように降り注いだってなっていたわ!」

「降り注いだって……結構な量の魔力を必要とするのでは?」

「そうなの、カイン。魔力がなくなる可能性も視野に入れる必要があるわね。当日は、倒れるかもしれないから、お願いね?セプトとカイン」

「「わかった」」



 二人共がニコリと微笑み、支えてくれる約束をした。



「とりあえず、目的の魔法は探せた。お昼に出かけようとしよう」



 セプトの言葉で、お腹がすいたことを思い出す。ぐぅっと私の腹の虫が鳴けば、静かな図書館も笑い声に包まれた。

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