第45話 聖女の魔法?

 目が覚めると、広いベッドで一人眠っていた。

 隣で眠っていただろう人の姿はなく、シーツもすでに冷えている。


 おはようございますとニーアに挨拶され、おはようと言葉を返した。

 魔力が枯渇して3日目の朝。私は、まだ、鳥籠へ帰れずにいた。



「セプトは、意外と心配症だよね?」



 ニーアに言ったつもりが、当の本人が意外とに反応してぼやいた。



「殿下、お戻りでしたか?」

「あぁ、そろそろ寝坊助が起きてくるころだと思って帰ってきた」

「寝坊助って、私のこと?」

「ビアンカ以外、他にいないだろう?ニーアも早起きだし。ほら」



 確かに今の今まで寝てはいたが……寝坊助と言われる時間ではない。



「セプトが早起きすぎるんじゃない?」

「まぁな。今だけな」

「今だけ?」

「この間、誰かさんが倒れたりしたから……その日の政務が終わってなくて、立て込んでるんだ」

「……あぁ、私のせいね。ごめんなさい」

「いや、他にも案件があるからいいんだが……そういえば、聖女のお披露目の日取りが決まったぞ」

「いつ?」

「ひと月半後だ。そのあと、日を改めて婚約式をする」

「あっ、どっちもするんだ?まとめてしたらいいのに……」



 めんどくさそうに言うと、苦笑いされた。王族の方が忙しいはずなのに、私のために儀式を2回も立て続けにしてくれるのだ。

 それだけで、ありがたいとお礼を言うことはあれど、文句をいうことはない。そして、文句を言うのは、他の誰でもなく、当事者である私であった。



「一応、王子の妃になるんだが?物事には、順番があるだろ?」

「まぁ、そうよね。でも、この状況で、順番も何もない気がするわ!」



 ゴソコゾとベッドから降りると、確かにとニヤつく。



「ニヤついても、何もないんだからね!」

「あぁ、そうだった。ビアンカとは、ベッドでおててつないで、ねんねしてるだけだもんな」

「その言い方っ!」



 くくっと笑うセプトに、怒っていると、あの……と、ニーアが言いにくいそうに会話に割り込んできた。

 一応、ニーアには、この前のことも話してあるから、誤解は解けた。誤解から本当になるのも時間のうちだと思ってはいるが、とにかく、今は何もないのだから!とニーアとカインにだけは、知ってもらっておいた。



 子どもがーっと、騒ぎ立てる貴族がチラホラ出てきたもんだから、そういうのから避けられるようにと言うことだ。

 ワイルズ公爵令嬢であるアリーシャが婚約できなかったことに諸侯が騒いだ結果、別のものと婚約したとは発表されていた。

 まずは、聖女として、国に認めてもらわないといけない。それがお披露目になる。



「朝ごはんでも、食べながら話すか」

「着替えていくから、待っていて」



 セプトは寝室から出ていき、ニーアが私を整えていく。

 小さくため息をつくと、どうかされましたか?とニーアが聞いてきた。



「いいえ、何も。ただ、迷惑をかけたなと思って……」

「ビアンカ様はそう思っているでしょうけど、殿下はそうじゃなさそうですよ。ビアンカ様の寝顔を見ながら、幸せそうに微笑んでいましたから。一緒にいられるのが、嬉しいようですね!」

「……そ、そうなの?寝顔を見られてるって、恥ずかしいわね」

「はい、それはそれは。ニンマリされてました。愛されてるってことですね!」



 満面の笑みを私に向けてくるニーアだが、そんなふうに言われても、未だ、グズグズしている私はなんだろうか。貴族令嬢として、教養もあるのだ。この先もわかってはいても、心身ともに追いついていなかった。



 寝室から出て席につく。セプトは、すでに席に座り、先に飲み物を頼んでいた。


 私も同じものでといえば、ニーアが用意してくれた。



「それで、聖女さん」

「なんでふか……?」



 手元にあったパンの匂いを嗅いでいたら!話しかけられた。



「なんだ?そのおもしろいの」

「うるさいですよ!それで、聖女さんは今後、何をしたらいいのです?」

「まずは、ドレスを作る。あと、聖女が使えたとされる魔法があるんだが……それが、使えるかどうかの確認。残りは、宝飾品への魔力供給だな。準備があるから、しばらく、こっちで、生活してくれ」

「えっ、帰れないんですか?」

「そんなに、鳥籠へ帰りたいのか?」

「えぇ、まぁ……鳥籠は楽ですから……」



 そっか、帰れないのかと呟いていると、苦笑いされた。



「鳥籠でなくとも、もうビアンカの家でもある。自由にしてくれて構わないけど?」

「ここは、人の目がありすぎます!」

「それなら、寝室にこもっていればいいだろ?」

「それもそうですが……」

「まぁ、言いたいことはわかるが、これからはこういう生活になるんだ。慣れてくれ」



 お願いされれば仕方がない。ここ数ヶ月、自由にしすぎて、城での生活が窮屈に感じてしまっていたのだ。

 早々にこちらの生活に慣れないといけないなと反省をする。



「ドレスは仕立て屋が来てからになりますから、私の目下の仕事は、宝飾品への魔力供給ですね」

「もう、いいのか?」

「えぇ、おかげさまで、満タンです!なので、今日から始めたいと思うのですが、いいですか?」

「あぁ、ビアンカの体調さえ整えば、構わない。ドレスは、近いうちに仕立て屋が来ると言っていたから、その時間帯だけあけておいてくれたらいい。何かしたいことはあるか?」

「お忍び……」

「あぁ、忘れていた。それは来週あたりで時間を取るつもりだ。それで、構わないか?」

「もちろん!楽しみにしていますね!」



 朝食を食べ終われば、セプトは政務に戻っていく。私はカインを待ち、宝物庫へと出かける。

 宝物庫への道すがら、思い出したことがあり、カインに尋ねた。



「何でしょうか?」

「聖女の使える魔法って、どんなものか知っている?」

「いえ、全く。それが、どうかしたのですか?」

「セプトが、その魔法が使えるか確認をしてくれと言ってたんだけど……図書室へ行けば調べられるかしら?」

「あるいは、教会ですかね?」

「教会?」

「えぇ、この国の宗教に聖女教というものがあります。弱い立場の人を助けーって話ですが……」

「今は違うのね?人助けには、それなりのお金も必要になってくるものね……それで、その、聖女教に行けば、わかるかしら?」

「……おそらくは。ただ、魔法が使えなくなってから、何百年も経つので……明確なものがあるかどうかは、怪しいですね?」

「そんなことないでしょ?後世に書物を残すのは、重要な役割よ!」



 確かに……とカインはいう。

 ただ、聖女としてお披露目をするなら、もしかすると邪魔が入るかもしれないというカインに、首をひねる。

 どうして、教会が、そんなことをするのか……いわゆる闇のお金がそうさせているようであった。

 何はともあれ、今度のお忍びのときに寄ることになるだろうと、ぼんやり考えていた。

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