第34話 新しい両親とのお食事

「殿下、そろそろ……」



 晩餐の時間となり、アリエルが部屋に迎えにきた。

 疲れて眠ってしまっていたらしい私は、セプトに揺り起こされる。



「んん……」

「休めたか?」

「眠ってしまっていたのね」

「あぁ、大丈夫そうなら、晩餐に向かうが……いいか?」

「えぇ、大丈夫」



 寄りかかっていただけだと思っていたので体を起こすと、腰に手が回っていたことに気づいた。支えてくれていたのだろう。

 ありがとうと呟くとどういたしましてと返ってきた。


 まだ、頭が寝ているのか、オタオタしていると笑いながら立たせてくれる。



「では、いきますよ?聖女様!」

「もう、その聖女様ってやめてよ!」



 なるべくやめると言いつつ、あぁ、ないなと思った。

 腕を絡ませ、廊下に出ると、立派な淑女として、しっかり歩く。

 後ろには、一応の護衛としてカイン、アリエルとニーアの侍女が控えている。




「そういえば……」

「なんだ?」

「アリエルのこと」

「……アリエルのこと?」

「側に置き続ける?」



 その言葉に凍りついたのは、本人だけでなくセプトとカインもだった。



 チラッとアリエルを見てから、セプトに向け微笑んだ。



「本人たちが強張るのはわかるけど、カインも?」

「いえ、その……」



 事情を色々知っているであろうカインは、言葉を濁す。

 ニーアは、少し気の毒そうにはしていたが、口元の端が、微妙に上がっている。



「ビアンカ」

「ん?」

「後でゆっくり話し合おう」

「えぇ、いいわよ!アリエルの顔を見て思い出しただけだから。お陰ですっかり目が覚めたわ!」



 先ほどもあったが、この国の両陛下との晩餐。

 初めてのお呼ばれに少々緊張もしていた。なので、少しだけ、緊張もとれてニコニコとする。



「こちらになります」



 部屋に通されると、まだ、誰もいなかった。侍女やメイドが、食事の順番をしているところのようで、今日座る席へ案内された。

 セプトが椅子を引いてくれたので、驚き、ニーアと目配せする。

 本来、ニーアがするので、どうしたら?と戸惑っていた。



「ありがとうございます、殿下」

「いや、これぐらい」



 セプトも用意された席に座ると、飲み物はどうするかと聞いてきた。

 隣を見るとお酒を頼むらしい。私も同じものをというと、見たことがない金色の飲み物が出てきた。



「綺麗な色ですね!」

「あぁ、そうだろ?飲み口もサラリとして飲みやすいが、度数も……って、もう半分も飲んでる?」

「えっ?とっても飲みやすくて……」

「まぁ、いい。ほどほどにしておかないと、潰れてしまうぞ?」

「わかりました。失敗はできないものね!」



 あぁ……と嘆くセプトには知らん顔しておく。


 小声で聞こえてきたのは、もう、出来上がってないか?というのだった。



「大丈夫ですよ!ほらっ!」



 パチンと指を鳴らすとほろ酔いから、元のシャッキリした私に戻った。



「はっ?魔法で酔いを消した?」

「治癒魔法の一環です。酩酊は、体に異常をきたしている状態ですからね!」

「なるほど、じゃあ、酔うまで飲んでも……」

「殿下には、魔法はかけませんから、ご自分の面倒は、ご自分でどうぞ」



 そう言ったところに、両陛下が部屋へ入ってくる。

 サッと立ち上がり、軽く頭を下げた。

 この晩餐、皇室の一員ではないのは私だけ。セプトは座ったまま、両親を出迎えた。



「ビアンカよ、楽にしてくれ。遅れてすまなかった」



 私は面をあげ、ニコリと微笑む。

 陛下にかけるようにと言われたので、ニーアに手伝ってもらって席に着席する。



「先ほどぶりでよいかの?この国の皇帝で、セプトの父である。こちらが皇妃、隣が側妃だ」



 こういう公式なものに、側妃が追随するのは珍しい。そこには、触れずにいた。

 今度は、セプトが私を紹介してくれる。

 再度立ち上がり、自己紹介だ。と言っても、名前しか言えるものがなかった。



「両陛下、側妃様、今宵は、お招きいただき、誠にありがとう存じます。私、セプト殿下と本日、婚約させていただきました、ビアンカ・レートと申します。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」



 三人の年長者が頷いたり微笑んだりとしているのを見て、ホッとした。第一段階は、いいだろう。

 席に座ると、食事が運ばれてくる。


 仲が良さそうに見えるよう、なるべくセプトと話をしながら、美味しく料理をいただくふりをした。

 実際、料理なんて、緊張で味などわかったものじゃない。

 さらに、頭まで痛くなってきた始末だ。



「そういえば、ビアンカよ」

「なんでございますか?」

「後ろにいるカインの腕の件、見事であった!」

「ありがたきお言葉」

「その功績を持って、そちをこの国の聖女としたいがいかがかな?」



 陛下からの言葉に思わずセプトを見てしまった。きっと頷くのであろうことはわかっていたが、私より先に話してしまったことに驚いた。



「陛下」

「なんじゃ?」

「それは、とても素晴らしい考えです!カインのこと、他にも魔獣との戦いにて四肢がなくなったものや未だ傷が癒えないものを次々となおしました。第三王子の私の庇護下では、後ろ盾のないビアンカは立場的にも危ういでしょう。

 できることなら、大々的に聖女がこの国に舞い降りたということを発表し、国庇護下にしてまってはいかがでしょうか?多くの若者たちが、ビアンカのおかげで光を取り戻しました。

 国にとって、これ以上の幸せはありますか?」



 うーむと、考える陛下。王妃はおもしろそうねという顔をし、側妃はどうして?と困惑した顔をしている。

 まさかの展開に私もついて行けず、ちょっとっとセプトの服の裾を引っ張った。



「うむ、良かろう。そのように発表し、準備を行う。そなたらの婚約式の前に聖女の発表としよう」



 鶴の一声とはまさにそれで、周りが慌ただしくなる。

 ついて行けないわ!と匙を投げ、セプトに後で説明してよね!と睨むと、逆に微笑まれた。



「そういえば、あなたたち、お揃いのブレスレットをしているのね?」

「えぇ、王妃様。ビアンカとの婚約の記念にと購入したものです」

「そう、それはいいわ!」

「エメラルドには夫婦愛という意味があるらしく、今日、贈った宝飾品もエメラルドで揃えたことを考えても、よい品に巡り会えました」



 ほぅと、目を細める王妃。

 美人ではあるが、少々冷たいイメージがある。実の子に対しての態度ではないように感じてはいたが……ずっと黙っていた側妃が、口を開いた。



「私がいただいたものも、エメラルドでした。親子というのは、似るものなのでしょうか?」



 口を開いていいのか悩む、微妙なバランスを私が割って入るのは難しい。

 セプトが、母上と声をかけたおかげで、ギスギスし始めたこの場が、一旦落ち着く。



「ビアンカの瞳に合わせて贈ったものですから。それにこのブレスレットは、今日、たまたまです」

「そうですか。ビアンカ様との仲が良くて安心しました」

「おかげさまで、ビアンカが目覚めてからというもの、たくさん話をしましたから。友人たちもビアンカとの交流を楽しんでいますし……」

「セプトの友人とな?」

「はい、後ろに控えていますカインや研究所のミントですが」

「此度の傷を癒した件に関わっている者たちか」

「はい、陛下。二人とも優秀な人材です。あのとき、ご覧いただいたと思いますが、カインはおかげで復職をしております」



 後ろに立っているカインを陛下が見ていた。



「何度見ても不思議だなぁ。無くなったものが、生えてくるとは……」

「腕が生えたのですか?陛下」

「そうだ。ビアンカが作った傷薬でカインの利き手が元に戻った。治験のとき、見せてもらったが、まさに……奇跡!何度見ても不思議でたまらない!」



 王妃と側妃は、カインの腕を見ていた。治る前のカインを知らなかったため、陛下から言われても、ピンときていないようであった。



 その後は、当たり障りのない話をして、晩餐はお開きとなる。

 こんなに長く席を設けることはしないらいのだか、今日は、とても楽しかったと言葉を残し、両陛下は去っていった。

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