第22話 試してみた!
カインが、私の鳥籠にやってきた。
治験薬を渡して、3日のことだ。セプトもミントも治験薬を渡した日以降、忙しいのか鳥籠にはやってきていない。
前、見たときは、右側の腕のうち、肘から下がなかった。
今日は、肘より下がちゃんとあり、カイン本人も前より優しい顔をして微笑んでいる。
あまりにも晴れやかな顔に私も思わず微笑み返した。
「ビアンカ様、あの……」
「こんにちはから始めましょうか?」
「あっ、はい。こんにちは。先日ぶりにお目にかかります」
「えぇ、こんにちは! 傷の具合はどうかしら?」
右手を胸の前に持ってきて、ぎゅっと握り、感慨深そうに見つめている。
「その感じだと、調子良さそうね!」
「えぇ、調子がいいどころか、身も心も軽くなりました。夢途絶え諦めていた近衛に戻れることになったのですから!」
「そぅ、それなら、よかった。それで、今日は、どうしたの?」
「お礼をと思いまして」と出してきたのは、とても綺麗な宝石だ。ダイヤモンドだろう。ずっしり重量感もあるそのダイヤモンドを凝視してしまう。
「これは、私、受け取れないわ!」
「いえ、受け取ってください。ビアンカ様のお陰で、救われました。私だけでなく、セプトもミントも家族も。ずっと、みなが腫れ物に触るような扱いだったんですけど……ビアンカ様のお陰で、本当に元通りになって……」
その先は言葉にならなかった。カインは、ずっと、辛かったのだろう。周りが気を遣ってくれることにも、自分がこの先、王子であるセプトの役に立てないもどかしさもあったかもしれない。
目尻に光るものをそっと拭うと、微笑んだ。本当に嬉しいのだとわかる。
「わかった。いただくわ! じゃあ、その剣を代わりに少しだけ貸してくれるかしら?」
「剣をですか?」
「えぇ」
私は、カインから剣を借りると鞘から抜く。
よく使い込まれているのがわかる。この剣は、どういうものなのだろう。
じっと目を凝らすと、見えてくる。人を切った情景や魔獣と戦ったときの情景。目を逸らしたいようなものもあったが、ただ静かにじっと見つめる。
私には、極々稀に、持ち主の過去が見えることがあった。この剣の中心にある記憶が見えた。
主となるセプトを守りたい。苦しんでいる人を助けたい。
恐ろしい光景の後に温かなカインの気持ちが剣にも伝わってくる。
気持ちのいいほどのカインの気持ちに私は微笑んだ。
「ごめんなさい、立たせたままで。どうぞ、かけてちょうだい。少しだけ、時間が欲しいのだけど……今、大丈夫?」
「お構いなく。時間は、たっぷりありますから、大丈夫です。ビアンカ様の護衛になることが決まりましたので、その挨拶にもきたのです」
「私の? セプトでなくて?」
「えぇ、セプトの要望です。と、言っても、外に行くときだけなんですが……」
「私は、ここから出られないのに……」
「それは、どうかわかりませんよ?」
意味深なカインの言葉に首を傾げ、「まぁ、いいわ」と席に着くようにいい、ニーアにお茶の用意を頼んだ。
「何をなさるのですか?」
「んー実験……」
「えっ?」
「ごめん、ごめん。不安にさせたね……私は、あまり魔力量が多くないから試したことがなかったんだけど、セプトが大事に思っているカインのことだもの。剣にちょっとだけ……」
「ねっ!」っと笑うと、微妙な顔をされる。大事な剣なのだろう。私は剣に少しずつ魔力を流していく。
お兄様なら一瞬だけど……カインやカインが守りたい人のために力を出せますように……!
祈りを込めた。
「ビアンカ様っ! 剣が……剣が光って!」
「あっ、本当だ。成功したようね! お兄様なら、こともなくやってのけたのだけど、私は、やっぱり、難しいわ」
「これは、どういう?」
「カインやカインが守りたい人を守るための力を与えてくれるように祈りをこめたの。効果はわからない。切れ味がよくなるのか、耐久性がよくなったのか。でも、カインをこれからは剣が守ってくれるから、剣も道具と扱うだけでなく大事にしてあげて。祈りは絶対ではないから、過信はしないでね?」
「ありがとうございます!」
ほんのり光っていた剣は元に戻った。変哲な剣ではあったが、柄のところに宝飾品が1つ派手ではないがあった。
「この剣は、セプトの近衛になったときに下賜してくれたものです」
宝石を見ていたのを感じたのか、説明してくれる。
薄い緑色の宝石に私は触れると、そこにさっきの魔力が収まっていることを感じた。
ふっと、下賜されたときの情景に目を見張る。
「セプトって、カインのことを本当に大切にしているのね。この剣、カインために特別に作ってあるものなのね」
「そうだったのですか? これをいただいたとき、ミントもナイフをもらっていたと思いますが……そちらもなのでしょうか? 確か、同じ宝石がついていたかと」
「たぶん、そうね! 兄弟剣ってとこかしら? って、噂をすれば……ミント!」
「あぁ、ビアンカ様。カインも来ていたのか?」
「護衛になったから、挨拶をしに」
「そっか」
「ミントは?」
「この前の話を聞きたかったのと、植物を見に!」
視線を植物が置かれている出窓の方を見ると、少々呆れ顔のカイン。これがミントの普通なのだと、そのときわかった気がした。
「で、何かあったのです?」
「カインの剣に魔力を少々込めてみたの。ミントもセプトから下賜されたナイフを持っているって聞いたから、それ、貸してくれるかしら?」
「はぁ、遠慮しますよ?」となんだか嫌そうだ。無理に言えば、渋々でも出してくれたので手に取ってみると、こちらもかなり使い込まれているようだ。
それも大事にされているのがわかると、セプトの人選に私は頷いた。
「何をするのですか?」
「ん? 魔力を込めるの」
「えっ? それで、何があるのですか?」
「何があるかわからないけど、まぁ、悪い方にならないわ。お守りくらいに思っておいて」
じっと見つめると、今までの傷薬の研究や職場研究の情景が見えた。とても苦労しているのがわかる。
でも、カインを始め、たくさんの苦しんでいる人のために研究を続けてきているのがナイフから伝わっくる。
魔力を込めて行くと、先ほどのカインの剣のようにほんのり光ってきた。
ミントがこの国の人のためにいい研究ができるよう、セプトの手助けができるようにと祈りを込める。
光が収まったあと、宝石に触ると、先ほどのように込めた魔力を感じる。
「成功したわ!」
「失敗することも?」
「まぁ、ね? 私、あまり、魔力も多くないから……今まで、付与ってしたことがなかったの」
ギョッとしたミントに、「成功したからいいでしょ?」と微笑むと、サッとナイフを隠されてしまった。
そのあとは通常業務と言わんばかりに始まる植物たちへの猫撫で声や赤ちゃんをあやすような声でのおしゃべり。
最近では、聞き慣れたからいいものの、「久しぶりに聴きました……」と、幼馴染であるカインは若干引いたようにミントを見て、用意されたお茶に口をつけるのであった。
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