ざまあされるキャラに転生してしまった件、破滅したくないので全力で勇者を援護します

水島紗鳥@2作品商業化決定

ざまあされるキャラに転生してしまった件、死にたくないので全力で勇者を援護します

 居眠り運転のトラックに轢かれて死んだ俺は神の力によって大好きだったゲームの世界に転生したわけだが、鏡に映った自分の姿を見て完全に困惑していた。


「えっ、待って。パーティーから主人公を追放して落ちぶれた挙句、処刑されるキャラクターに転生してしまったんだけど!?」


 そう、俺が転生したのは主人公である勇者ヒイロでは無く、ヒイロを追放して破滅してしまうパーティーに所属する付与術師のオリバーだったのだ。


「まずい、このままだと国家反逆罪で死刑になる未来が待ってるから早くなんとかしないと……」


 デーモンクエストというRPGゲームに登場する付与術師オリバーのパーティーは、勇者ヒイロをパーティーから追放した事で世間からの信用が無くなり、その後悪魔に魂を売って主人公の敵になってしまい、最終的には国家反逆罪で死刑になる悲惨な未来が待ち受けている。

 ちなみに勇者ヒイロが追放されてしまう理由は成長レベルアップが異様に遅く、ステータスが低かったため他のパーティーメンバーの足を引っ張ってしまい、更にはチュートリアル最終日に起こるとある出来事によって偽勇者だと判断されたためだ。

 ゲームのチュートリアルの最後で勇者ヒイロはパーティーから追放されそこから彼の冒険が始まるわけだが、確かにレベルアップが異様に遅く仲間ができる前の序盤はかなり苦戦していた記憶がある。

 だが最終的には最終ボスであるグレートデーモンキングとソロで互角に渡り合えるチートキャラクターに成長するため、作中では最強のキャラクターと言える。


「と、とりあえず、今の装備を見た感じだとまだチュートリアル前だよな? ならまだ頑張れば巻き返せるはず」


 俺は自分オリバーの身につけている装備がチュートリアル開始前に彼が装備していた物だった事を思い出してそう判断した。

 確か勇者ヒイロの追放は彼が住んでいる村から冒険に出て1週間後経ったタイミングで行われるはずだ。

 絶対に破滅して処刑される未来を回避したい俺は全力で勇者を援護し、パーティーからの追放を阻止すると決めた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 神からのお告げにより王国からヒイロが魔王を倒す勇者と認定され、ゲームのチュートリアル部分が開始されたわけだが予想していた通り早速問題が起こっていた。


「なあ、ヒイロって本当に伝説の勇者なのか? それにしては弱すぎる気がするんだが」


「そうよね、御伽噺に出てきた勇者様ならスライムに苦戦なんてしないと思うの」


 王国によって結成された勇者パーティーのメンバーである魔剣士のロンダークと賢者のイレイナが冒険開始2日目から勇者ヒイロを陰で疑い始めてしまったのだ。

 まあ、最弱モンスターであるスライムすら付与術師の支援魔法無しではまともに倒せないのだから疑いたくなる気持ちも分からなくは無いのだが、この流れになるのは俺としては非常にまずい。


「まあまあちょっと待てよ、ヒイロって元々ただの村人だったって話だろ? なら俺達みたいに戦闘になれてないのは仕方が無いと思うけどな」


 俺がそうヒイロを擁護するとロンダークとイレイナは”それはそうかもしれないけど”と少し気持ちが揺らぎ始める。

 そんな中黙っていた回復術師のセレナがゆっくりと口を開く。


「そうだよ、オリバー君の言う通りまだ戦闘に慣れていないんだからいきなり私達みたいに戦うのは無理に決まってるよ。もう少し気長に待とうよ」


 セレナもヒイロを擁護する意見を発言した事でなんとかこの場はとりあえず収まった。

 本来はオリバーもセレナも擁護せず、ヒイロに対して不信感を持つ場面だったが、俺は勿論セレナに関しても事前に懐柔していたため俺の味方をしてくれたのだ。

 懐柔はセレナのオリバーに対する恋愛感情を利用するという卑劣な方法を取る羽目になってしまったが、生き残るために手段は選べない。

 それからしばらくは俺はパーティーを裏から操って無駄に回り道をしながらヒイロのレベル上げを行なっていく。

 本来はチュートリアル中にはいけないエリアまで行って高経験値のモンスターをひたすら倒させる。

 そのおかげか5日目になる頃にはチュートリアル中に出現するモンスターに遅れは取らないレベルにヒイロは強くなっていた。


「ゲームのチュートリアル中、ヒイロはこの辺の雑魚モンスターにすら全然勝てなかったはずだし、だいぶ強くなったからとりあえずは一旦は大丈夫か。ただ問題は明後日なんだよな……」


 チュートリアルの最終日である7日目、試練の洞穴というダンジョンの奥でボスモンスターと戦いヒイロが原因で敗北する事でパーティーから追放されるという流れになっている。

 このボス戦はいわゆる負けイベントであり、どう足掻いても負けるわけだが、ヒイロがボスモンスターである大精霊から勇者と認められないから事が追放の大きな要因と言えるだろう。

 と言うのも、チュートリアル最終日に戦うボスは勇者の実力を判断するために神から生み出された大精霊という設定であり、勇者の未熟さに激怒した大精霊にお前は真の勇者では無いと罵られてしまう。

 ここで問題になるのがの勇者では無いという言葉の部分で、大精霊は真の実力に目覚めていない未熟な勇者が挑んできた事に激怒している訳だが、パーティメンバー達はあろう事かヒイロを本当の勇者では無い偽物だと勘違いをしてしまうのだ。

 ただでさえステータスの低くヒイロが足ばかり引っ張っていたところに大精霊からの真の勇者では無い発言があれば勘違いしても仕方がない気がするが、本来のゲーム通りの展開になってしまえば俺達は破滅一直線の未来しかない。

 俺の涙ぐましい努力のおかげでヒイロのレベルは本来よりもかなり上がっているが果たしてどこまで通用するのか。

 それから時間は一気に過ぎ去り問題のチュートリアル最終日になってしまった。


「なあ試練の洞穴に行くのはまだ先でも良く無いか?」


 何とかゲームと流れを変えたい俺はパーティーメンバーにそう提案したのだが、懐柔済みのセレナ以外は乗り気であり、結局試練の洞穴へ行く事になってしまう。

 本来のゲームではまだ早いと反対していたヒイロが乗り気なっていたのは完全に予想外だった。

 恐らくレベルが上がった事で本来のゲームよりも自信が付いてしまったのではないだろうか。

 迂闊にレベルを上げてしまった事を後悔しつつも、パーティーメンバー達と試練の洞穴を進んでいく。

 チュートリアル中の試練の洞穴は雑魚モンスターしか出現しないため特に苦労無く大精霊の待つ最奥地に辿り着く事ができた。


「よく来たな勇者一行よ。今こそ我にその実力を示せ!」


 その言葉を聞き終えた直後、大精霊との戦闘が開始される。

 ゲームでは勇者であるヒイロのHPが4分の1以下まで減少した場合、もしくは天文学的な低確率で大精霊を倒した場合、そのままイベントが進行して追放という流れになるが、果たしてこの世界ではどうなるのか。

 そんな事を考えながらヒイロに攻撃力上昇と防御力上昇の支援魔法をかける。

 本来であればヒイロに支援魔法をかけたところで大ダメージを食らって即戦闘終了となるが、無理やりレベル上げを行ったおかげで中々HPは4分の1以下にまでは下がらない。

 チュートリアルでヒイロのレベルは本来3までしか上がらないが頑張って15まであげたのだ、簡単に負けられては困る。

 またセレナに命令してヒイロを優先的に回復させている事も大きい。


「ロンダークそのまま敵を引きつけて、イレイナは弾幕を絶やさずに魔法を撃ち続けてくれ。ヒイロは隙を見てライジングスラッシュで攻撃だ」


「了解した」


「任せて」


「うん、分かった」


 パーティーの司令塔である付与術師の俺は後ろから指示しながら大精霊に状態異常魔法や攻撃力、防御低下などの弱体化魔法をかけていく。

 本来のゲームであれば主人公であるヒイロ以外は操作できず、NPCである他の4人が好き勝手に行動するため大精霊には絶対に勝ち目は無いが、この世界であれば自由に命令できるため勝機はそこにあると俺は考えている。

 それからしばらく戦闘を続けていると大精霊に異変が起こった。

 それまで激しい攻撃を容赦無く浴びせてきていた大精霊だったが、突然攻撃が止んだのだ。


「ヒイロ、汝を真の勇者だと認めよう。これからも修行に励んでくれ」


 そう言い残すと大精霊の体は徐々に薄れていき、俺達の目の前から完全に姿を消した。


「やったなヒイロ、お前は勇者として認められたみたいだぞ」


「良かった、これで王様にも良い報告ができるよ」


 他のパーティーメンバー達は口々に喜びの声を上げているが、多分一番喜んでいるのは俺に違いない。

 ゲームの知識から一応勝てる可能性のある敵という事は理解していたが、本当に現状のレベルで勝てるかどうか分からなかったからだ。

 何はともあれ、これでヒイロをパーティーから追放する理由は完全に無くなったと言える。


「……やったぞ、これで破滅せずに済みそうだ!」


 その後俺達は悪魔に魂を売ってヒイロの敵になる事もなく、最終的に国家反逆罪で死刑になる事も無く、勇者パーティーとして世界を支配しようとしていた悪魔を倒し英雄になるのだった。



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