ドライブ

晴れ時々雨

🚗

「乗せていただけますか」

若く人当たりの良さそうな顔が却って胡散臭い男だった。男の言葉に答えずに黙ると勝手に乗り込んできた。

めんどくさい。そう思うのに関わったのは、海沿いの国道を一晩中歩く困難を知っているからだけではない。

海浜公園に停車すると、男は打って変わって卑屈な表情を浮かべた。それは、今までどんな下品なことも女にさせてきたような残忍な笑顔だった。

おあつらえ向きだわ。

一人になりたくて来た道なのに、まだ誰かと関わろうとする私にはぴったりの相手だろう。

男は慣れた手つきでこちらのシートを倒し私に覆い被さる。臭い。知らない匂いで息が詰まる。植物系の香料と潮の入り混じった匂い。香料の底に潜んだ甘い香りと皮脂の匂い。シャツからは紙のような匂いがした。

「嫌がらないんだな」

含み笑い混じりに呟く男を唇で遮る。渇いて塩気の効いた硬い唇。ふいに唾が湧いて、男の口を舐めまわした。

「なんだ、今おばさんたちの間でこんなことすんの流行ってんの?」

私は男にされる前に足を開く。これ以上こんな男の戯言を聞くつもりはない。そのために声を掛けたのなら四の五の言うんじゃないわよ。

男はあられもなく勃起したペニスをズボンから引っぱり出し、少し支えて私へ目がける。潤いの足りない皮膚が思い切り引っぱられ激痛に顔を歪めたと思うといきなり始まった抽挿に反応した体が分泌物を出し始める。

防衛反応。

吹き出しそうだった。今さら何を守るというの。気持ちなんてとっくに吹きっさらしで瘡蓋も追いつかないくらいなのに、体はまだ必死になって負傷から組織を守ろうとする。

痛いよ。

男の動きに合わせ漏らす呻きが震える。痛いよ。もっと。痛いよ。もっと。もっと。

私の声つきが変わると、男は私の片足を高く持ち上げさらに深く鉄杭を突き立てる。私は腰を奥へずらし最深部へ男を許す。男も声を上げる。下着の中の乳首が下半身の刺激を共有したように凝る。まるで私みたい。自分の体の一部はやはり私の意志を持つのだ。

激しい揺動をいくらか続けたあと急に動きを止め、男は私から身を抜いた。

「ティッシュくれ、どこ?」

ダッシュボードに手を伸ばすがそこにはなかった。

「知らない」

ヒッチハイカー宜しく沿岸道路を徒歩で来た私は、この男の前に知り合った男の車を奪った。

「じゃあ口でしてよ」

私は身を乗り出し助手のドアを開け渾身の力でペニスを殴り男を車外へ蹴り出してからエンジンをかけた。

男の怒声が聞こえる。

そうよ、今おばさんにこういうのが流行ってんのよ。

この車、アクセルが軽い。行けってことだね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドライブ 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る