第3話 王妃教育


 モナと結婚して、半年が過ぎた。王太子宮で過ごす愛のある生活は素晴らしいモノだと、幸せを噛み締めている毎日だ。


 順調な日々とはいえ、最近モナとの逢瀬の時間が減って来ているのが不満だな。モナが私を避けているのではない。王妃となる為の教育にモナの時間が取られているのだ。それに文句を言い教育の時間を減らすようモナの教育係に命じようとすると、母である王妃様からの指示ですので、とすげなく断られる。ならばと母に直接頼んでみたが、王妃となるには必要な事でこれ以上教育の時間を減らすのは不可能だと言われ、何ならモナを王太子宮ではなく王宮で預かってもいいぐらいだとまで言われてしまうと、すごすごと帰るしかない。母はやると言ったらやるだろう、これ以上逢瀬の時間が減るのは嫌だった。




 更に二か月が過ぎた。あれからますますモナとの逢瀬の時間が減っていた。まともに会えるのは夜だけで、少しの会話の後に疲れているモナはすぐに王太子の部屋の隣にある王太子妃の部屋に戻って寝てしまう。部屋は繋がっているのでベッドに潜り込み起こそうとした事もあるが、王太子妃付きの従者に怒られてしまった。彼女は私の乳母だった人なので私も頭が上がらず、私より朝早く起き出してまだ朝日も出ていない暗い内に王宮へと出掛けるモナの事を淡々と説明されると、何も言えなくなる。結果的に私は寂しく自室で一人寝だ。


 もうこれ以上は我慢出来んと母ではなく、父に訴えた。国王である父なら母に注意出来るし止めるように命じる事が出来るからな。さすがに母も父に逆らう事は出来ないだろう、これで安心だと思ったのだが。


「ならん。今の状態では王妃どころか王太子妃すら勤められぬ」


 王妃教育の邪魔をするな、と逆に私が注意され、モナを教育の為に王宮へ移す事も命じられてしまった。それだけでなく、夫なのにモナとの逢瀬も禁じられてしまったのだ。理解してくれない父に悔しさを覚えたが、国王である父に命じられれば逆らえないのは王太子である私も同じ。とぼとぼと王太子宮に戻り、私達を引き裂く不幸を嘆くしかなかった。


 翌日には王宮に移り住む事となったモナと会える最後の晩に、彼女は王妃教育さえ乗り切ればもっと一緒にいられるので、勉強頑張りますね、と落ち込む私に優しくほほ笑んでくれた。……のだが、私はこの時、妙な違和感を感じた。愛するモナは黒髪と琥珀色の瞳で、可愛らしい容姿なのに。何故か、全く似ても似つかないはずの元婚約者の笑みと似ている気がしたのだ。きっと気のせいだろう。私は違和感を振り払い、愛するモナをそっと抱きしめた。



 ある日、モナに会えない寂しさに溜まらず、側近に愚痴ってみた。何故、モナの教育に時間が使われているのか。


「ソロシアン侯爵令嬢が、王妃教育を完璧にこなしていたのもあるでしょう」


 むむ、だがメルシアが幼い頃から受けていたものだ、同じ貴族の令嬢だったのだからモナだって簡単に出来るはずだろう。一体、王妃教育とはどんなものなのか。そう言えば、具体的に聞いたことが無い事に気付き、側近に尋ねてみた。


「そうですね、王妃教育は最低でも十カ国の語学習得から始まり、我が国の歴史、地理、法律、政治政策、軍務、貴族名鑑の暗記とその歴史、外交における他国の歴史や政治政策の――――」


「そんなにあるのか?!」


「…本来ならば、ここまで行わないのですが。必要な事ですので」


 必要、必要とそればかりじゃないか。そんなのは私のように側近達に任せてしまえば良い。そうだ、モナにも専用の者を付ければ良いんじゃないだろうか。そうすればもっとモナとの時間が増やせるはずだ。いい案だと早速言えば、


「…殿下がそうおっしゃるから、王妃教育が必要なのですよ」


 そう言われるだけで何も変わらず終わった。何故だ。意味が分からなかった。



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