カカポ

唯六兎

「唯一の人類」になってしまった青年と、宇宙人の話…

  カカポ

                   

 建物の屋上からは空に散る星がよく見えた。そして時折、月面生物の飛行船が群れを成して流れていった。私は読んでいた本を閉じてから足で焚火を崩し、仰向けに寝ころんだ。流れる光がゆっくりと、視界を横断していく。

ふと視界の隅で何かが動いたのを感じ、上体をもたげて見ると、小さな蛾が一匹、チロチロと飛んでいた。光をなくし行き場を失った蛾は、私の周りを二、三度舞い、闇夜に消えた。

夜が更けて空が少しずつ明らみ始めた頃、灰色の雲から生暖かい雨が降ってきた。それと同じくして、ぼんやりと辺りの様子が見えるようになる。

私はコートを羽織った。トランクを開け、錆びた単眼鏡を手に取る。それを右目にあてがい、眼前に広がる建物群のその先を望むと、コンクリートの高い壁に囲まれた基地が見えた。天を衝く壁にごてごてと備え付けられた銃火器は、月面生物の飛行船に向けて弾を撃っていた。一機二機と飛行船は落ちていくが、その都度建物群から飛行船が現れる。もはや、いくら撃っても際限はなさそうだった。

やがて、所々で銃火器が煙を吹き始めた。動きの良かった機関銃が動きを止めた時、二十機あまりの飛行船が一斉に飛び上がった。それと同時に壁の下部でも爆発が起きている。どうやら地上にも月面生物はいるらしい。

飛び上がった飛行船は、壁を穴だらけにした。


しばらく爆発は続いた。そして次々と煙が基地を覆い隠していく。ほどなくすると、強い風が一つまみ程の砂をさらって、したたかに顔を打った。口に入ったものをぺっぺと吐き出しながら、単眼鏡をトランクにしまおうとした、その時である。

「ドウモ オハヨー オニーサン」

と、背後で声がした。懐からすかさずペーパーナイフを取り出し、振り返る。そこには着物を着た月面生物がいた。体は半透明のジェル組織でできており、袖と袴には粘液が染みていた。そこから幾本もの触手が現れて、ウネウネしている。まさに宇宙人の典型的な形をしている。

 「ココハ ナガメガヨイノデ キチャイマシタ」

どうやら会話ができるらしく、少し不器用な日本語で話しかけてくる。私が思い描いていた侵略者の性質とは相反しているが、油断は禁物だ。そんな風に身構えたとでも思われたのか、月面生物は平坦な口調で、

「ゴユルリト ゴユルリトネ」

と言った。昨今の宇宙人は変な言葉を使うようになったものだ。

「ボクノナハ キモノ。カカポノナカデ イチバンエライノ。」

どうやら彼はキモノという名前であるらしい。そして、月面生物は自らの種族を「カカポ」と呼称しているらしい。更に驚くべきことに、彼はその中で一番偉いという。とんでもない宇宙人と出会ってしまったかもしれない。

「オニーサンノ ナハ?」

足を肩幅ほど開き、胸を張り、大きく息を吸ってから答えた。

「アカホシ・・・」

「アカホシ アカホシ・・・」

キモノは私の名を何度も読み返しながら、辺りをうろうろし始めた。気に障ることでもしただろうかと考えながら身を硬めていると、キモノはぐっと距離を縮めてきた。圧力と恐怖の中にかすかな紅茶の香りがする。

「モシカシテアナタハ コノクニノ ヒトサン デスカ?」

ここはひとつ、真面目に答えることにした。

「そうだ。この国のヒトだ」

「ヤハリ! ヒトサンダッタノカ!」

キモノは嬉しそうに跳ね回った。ヒトと初めて出会ったかのような反応だった。更に距離を近づけてくると、顔にくっついた小さな目で私の全身をじろじろと見た。それから触手で髪の毛をワシワシとされる。気味が悪かったが、その意外なほどの力の強さにすっかり抵抗する気を失ってしまった。

「ジャア コノフクノコトモ シッテイルノデスネ! フクガ カカポノ ナマエヲ キメルノデス」

「つまり、着物を着ているからキモノなのか」

「ソノトーリデス」

「少し安直すぎやしないか」

「ソンナコト ナイデスヨ。フクガ カカポノ イノチデスカラ」

そうだ。彼らの体は半透明だから、内臓が見えてしまうのだ。だとすれば服の意味するところも人のそれとは違ってくるだろう。命そのものと言っても過言ではない。名前になってしかるべきかもしれない。

「ソレジャ レンコーシマスヨ ツイテキテネ」

彼は階段の方へ向かっていく。私はおとなしく彼についていくことにした。

 気付けば雨は止んでいた。思ったよりも短い雨だったが、舗装の剥がれた道路には水たまりができている。私は水溜まりに足を突っ込みながら歩いた。キモノは水溜まりを避け、CGじみた動きで歩いていた。

 人気のない住宅街を進み、トタン張りの家屋に入る。そこの窓から飛び降りると、小学校の裏門へと入っていった。校庭に出ると、そこには大きなカカポの母船があった。そこから梯子がおりており、キモノに誘われるままに私は母船へと入っていった。

 入るとすぐに大小様々なカカポに囲まれた。なんだかレモンのような香りがする。各々が千差万別な衣服を身に着けており、全国服の博覧会的様相を呈していた。カカポたちは口々に何かを叫んでいるのだが、どうやら私の知っている言語ではないようだ。少し不安になり、キモノの後ろに隠れた。

「ダイジョーブデスヨ。ミンナ ヒトサンヲ カンゲーシテマスカラ」

キモノは手を振り、よくわからないことを二言三言いった。するとカカポたちは歓声と触手を上げた。キモノは私の手を取り、引っ張る。私とキモノはカカポの波をかき分けながら、粘液にまみれながら、小さな個室に入った。

 キモノは私に椅子を勧めてくれた。キモノも座り、私は彼と向かい合うようにして座る。するとキモノは先ほどの行いを釈明し始めた。

「ヒトサン ゴメンナサイ。 チキュウノモノヲ コワシテシマイマシタ・・・。デモ ボクタチハ ワルイイキモノジャ ナイノデス ワカッテクダサイ」

相変わらず平坦な口調だったが、それを決めるのは私である。そう言うとキモノは頭を垂れぷくぷく言い始めた。

「ソウデスネ。 デモ ボクラカラサキニ コーゲキシタンジャ ナイノデス。 サキニ アノデカイノガ コーゲキシテキタノデス。 ダカラコワシチャッタ シカタナイネ」

その開き直りっぷりについ笑ってしまった。キモノは不思議そうにこちらを見る。さながらしなびた漬物だった。

「あれは先の大戦の遺物だ。壊してくれた方が助かる」

そう言うとキモノは安心したようで、触手をうねうねさせた。

「コーゲキサレタラ アブナイカラ コワスノデス。ソレガ ボクラノイキカタナノ」

心なしか声音を高めに、そう言った。


 さて、私はいろいろと尋ねてみることにした。

「質問なんだが、なぜカカポは地球に来たんだ」

「ソウデスネ。 マズ ボクラノ デドコロカラ ハナシテイイデスカ?」

「構わない。話してくれ」

そう言うとキモノはおもむろに立ち上がり、棚から本を一冊引っ張ってきた。

背表紙には見たこともない文字が書かれている。その一ページ目を私に見せながらキモノは話し始めた。

「ボクラハ ニュージーセイトイウホシカラ キマシタ。 タノシククラシテイマシタガ アルトキ ヘンナノガ ソラカラキテ タクサン コワシテイキマシタ」

「侵略されたのか?」

「ソウデス。 ナノデ ボクラハ ソラヲトンデ ニゲタノデス。 コレガソノトキノ ヒコウセンノ シャシンデス」

キモノはそう言って本を触手で指した。その写真には長方形の箱のようなものが写っている。見るからに突貫作業で作られたもので、補修工事の跡が各所に見られた。どうやらその当時は苦労していたらしい。

「タイヘン デシタ。 モットフネ ツクットケバ ヨカッタ・・・」

私はふと気になったので、尋ねた。

「これは何年前の話しだ」

「ワカリマセン。 デモ タイカン ナナヒャクネンクライ マエカナ?」

やはりヒトとは寿命が違うようだ。それにしても七百年とは恐れ入った。私よりも数世紀先を生きている。


 その時、部屋の扉がノックされ開いた。入ってきたのは体に包帯を絡みつけたカカポである。キモノよりも小柄に見えるそのカカポは手にお盆を持ち、我々の横まで来た。器用に触手を使い、お盆の上にある湯飲みを傍の机に置くと、一礼してさっさと出でいった。

「ソウデス オモイダシマシタ! アノトキノボクラガ ホシカラデラレタノハ サッキノ ミイラクンノ オカゲデシタ!」

どうやら先ほどのカカポはミイラという名前らしい。もみくちゃになっていたがあれでも一応服であるようだ。

「カレハ タグイマレナ シキシャ デシタ。 アノホシカラ デルトキ ボクラハヘンナノニ オワレマシタ。 ソノトキカレガ ゼンブノフネニ シジヲ ダシタノデス! アレハミゴトナ モノデシタ・・・。 コワレタトコロモナク ゼンブハカレノ オカゲデス!」

本の写真には一体のカカポが写っている。これが先ほどの彼なのだろうか。いずれにしても、彼の存在がなければ今もない訳だ。そう考えると「めぐりあわせ」という単語が頭に浮かぶ。

 キモノは話を続ける。

「ボクラハ ヘンナノカラニゲテ アンシンノホシニ オリマシタ」

その星の写真を見た。あるのは肌色の地面と、そこに刺さった大きな岩石だけだった。

「ミテノトーリ ソノホシニハ ナニモナカッタノデス。 イヤ チョットハ アリマシタ。 デモ ソレダケジャ ナンニモデキナカッタ・・・。 ナノデ ベツノホシニ イキマシタ」

キモノは次のページをめくった。そこにはたくさんの写真が貼られている。

「コレガ ツギノホシノ シャシンデス。 トテモアツクテ カイガラガ イッパイアリマシタ。 ホントニ カイガラシカナカッタ・・・。 ナノデ マタ チガウホシニ イキマシタ・・・」

カカポたちは資源の枯渇を目前に、様々な星への渡航を試みた。しかし、運悪くというべきか、十分な資源を確保できるような星に巡り合うことはできなかった。彼らはついに船の動力源をも使い切ってしまったのだ。行く当てもなく、惰性で宇宙を漂うしかないという状況から来るストレスに、カカポたちは個体数を減らし、悠久の時の中で全滅するかに思われた。そんなある日のことである。経年劣化で軋む船の音を聞きながらコックピットに座っていたキモノは、前方から何かが来るのを見つけたという。

「ヨクミルト ソレハボクラトオナジ ヒコウセンデシタ。 デモ モットカッコヨカッタ・・・。 ソウ アレガ ヒトサントノ ハジメテノデアイデシタ!」

飲んでいたお茶が気管に入ってむせた。今何と言っただろう。

「ちょっと待ってくれ。今、人と出会ったと言ったか?」

「ソウデス。 アノヒトタチガ ジブンノコトヲ ヒト トイッテイマシタシ オニーサンノヨーナ カタチデシタカラ マチガイアリマセン」

私には心当たりがあった。まさか、と思い尋ねる。

「船員の名前は聞いたのか」

「エエ モチロン。 タシカ ニホンジント イッテイマシタ。 オニーサンノ ナカマダネ」

キモノは本の中頃を開いた。そこには確かに人の姿が写った写真が何枚も貼られており、その傍には記念に書いてもらいでもしたのか、漢字で名前が書かれていた。

「・・・あった」

目当ての名前が目に留まる。「赤星努」と、他の人の二倍ものスペースを使い、そこに縮れた字で書きつけられていた。

「アレ? アカホシ アカホシ・・・」


 その時、今度はノックなしで部屋の扉が開いた。入ってきたカカポは未知の言語で何かをしゃべっていたが、私を見つけるなりそそくさと駆け寄ってきた。そして私の髪の毛をワシワシとしてから、触手をうねうねさせた。

「イイトコロニ キタネ。 カノジョハ ガクラン。 イロイロ オボエルノガ トクイナノデス」

「どうもおはようございます、ヒトさん」

「わあ!」

あまりに流暢な日本語を話すもので、私は思わず声を上げてしまった。キモノとガクランが顔を合わせニコニコしている。ガクランは胸に「ガクラン」と書かれた学ランを着ていた。律儀にすべてのボタンを留めており、背は先ほどの彼と同じくらいであった。

「ガクランガ ガンバッテ ニホンゴヲ オボエテクレタノデス。 ソシテ ボクラトヒトノ ツウヤクヲ カッテデテ クレマシタ」

「新しいことを知るのは面白かったです。いろいろな文化や考え方があるんだなって思いましたね。この服のこともその時に教わったのですよ」

「ということは、それまでは別の名前だったのか」

「いいや、名前はなかったのです。名前を付けた方が何かと便利になりましたよね、キモノさん」

「・・・ウン ソウダネ」

キモノはさっきからずっともじもじしている。

「あ、そうだった、キモノさん。服の図鑑借りていいですか?そろそろ赤ん坊の名前を決めないと」

「イイヨ タシカコノヘンニ アッタト オモウ・・・」

キモノは棚から厚い本を三冊ほど引っ張った。表紙と背表紙には日本語で『世界の服』と書いてある。ガクランはその三冊を受け取り両触手で抱えた。

「ありがとうございます。ではごゆっくり」

学ランは我々に一礼をし、部屋から出ていった。

キモノを見ると視線を扉に向けたまま惚けていた。瞼がとろけており、今にも落ちそうだ。

「なるほどな」

「ナ・・・ナンデスカ」

「いや、なんにも。それよりカカポっていう種族名もそのヒトが付けたのか」

「ハイ ソウデス。 トベナイトリガ トンダノネ トカナントカイッテ」

「訳わからんな」

「マッタクデス」

二人してハハハと笑った。


 さて、話題は戻って赤星努についてである。先程まで何か考えていたキモノが思い出した様子で口を開いた。

「アナタハ モシカシテ アカホシ ツトムノ シソン デスカ?」

「んー・・・。子孫というか、作られたというか・・・」

 赤星努は私を作った研究者である。本来生まれるはずのなかった私が知性を持ってここにいるのは、ひとえに彼の技術のなせる芸当である。ただ、三百年前に私を残し、彼は消えた。宇宙に行くとは聞いていたのだが・・・。しかしそれが今、長き時を超え空間を超え、痕跡ではあるがここにいるのだ。

「ツクラレタ・・・マサカ! ジャア アナタガ アカホシ ホマレ サン デスカ!」

私ははっとした。約三百年もの間呼ばれずにいたせいで、忘れてしまっていた名前を思い出したのだ。私は赤星誉であった。

「あの研究者がその名を?」

「エエ アカホシ ツトムハ アナタノコトヲ ホマレホマレッテ ズット ジマンシテマシタヨ。 ゴジュウネンカンイッッショニイテ アノヒトノ ホマレハ スッカリ ユーメーニ ナッテマシタ」

「五十年も一緒にいたのか・・・」

「エエ トテモタノシイ ジカンデシタ・・・。 オソワッタコトモ オオカッタデス。 サッキガクランガ イッタトーリ ナマエモツケテクレマシタシ シゲンノアル ホシノサガシカタモ フネノカタチヲ カエルホーホーモ オソワリマシタ」

どうやらカカポはあの研究者らを乗せた船と出会ってから、著しい技術の発展を遂げたらしい。彼らの技を得てして、カカポは自立できているのだ。

 となると、気になるのは彼らの消息である。五十年の共同生活の末に、別れたか、それとも・・・。

「ザンネンナガラ シンジャイマシタ」

「そりゃそうか」

ヒトとカカポじゃあ寿命が違いすぎる。一緒に住んでいてもその差が埋まらないのは自明のことだ。どうやらその事実を知ったカカポは、ショックからくるストレスで個体数を減らしたらしい。逆に言えばそれほどまでにカカポはヒトの事を大切に思っていた、ということだろう。

「デモ アカホシ ツトムハ ソノトキニ チキュウヲメザス トイウモクテキヲ クレマシタ」

「遺言でも残したのか」

「ソウデス タシカココニ・・・。 コノホンハ ココデオワリデス」

キモノは本の最終ページを開いた。そこには箇条書きであいつの字が書かれていた。

「アカホシ ツトムガ タテナクナッタトキ ドウヤラチキュウデ ナニカガアッタヨウダト イイマシタ。 ソコデカレハ イッタノデス。 チキュウノヨウスヲ ミテキテクレト。 ソシテ ホマレヲタスケテクレ ト。 ソレガ ボクラガチキュウニキタ リユーデス」

「そんな経緯があってのことだったのか。じゃあ月に一度基地を建てたのはなぜだ?」

「オツキサマニトマッタノハ マチノヨウスヲミル タメデシタ。アカホシ ツトムイッコーハ ヤサシカッタケド ホカノヒトハ ワカラナカッタカラ シタミデスネ」

「それで人がいなかったから降りてきたと。でも俺はどうなんだ。俺が危害を加える可能性もあったろうに」

「ホマレサンハ ダイジョーブデシタ。 ウゴキカタガアンチョク デシタ カラ」

「ばれてたわけか。恥ずかしいな」

「キニシナイデ クダサイ」

二人は長い間笑っていた。

 そのあともしばらく二人で談笑していた。また、私が暗記していたグリム童話を一話二話書き出して、寄贈したりした。そして最後に写真を撮った。キモノと私のツーショットである。上手に笑えたか不安だったが、現像された写真には思っていたよりもうまく笑う私が写っていた。せっかくここに残るのだから、いい顔ができて良かったと思う。

 「ソレジャ コノヘンデ ボクラハ カエリマスネ。 モトノホシヘ」

「元の星には敵がいるんじゃなかったのか。それでも行くのか」

「マア ナカマノシハ モウコリゴリデスカラ アクマデ ソッチホウメンヘ トイウハナシデスヨ」

「そうか。まあ、のんびり旅をするがいいさ」

「ソウシマスヨ ホマレサン」

個室を出た私はみんなに見送られながら母船を出た。ミイラとガクランは外まで見送りに来てくれた。

「そういえば、キモノさんから伝言です」

「なんと」

「『ツギアウトキハ モットタノシイ チキュウガイイデス』だそうです」

「無茶言うなって伝えてくれ」

「ええ、そう伝えておきます」

二人は一礼すると母船の中へ帰っていった。


いよいよエンジンが動き出し、風が強くなる。垂直方向に少しずつ上昇していき、一定の高さまで来ると前進し始めた。見る見るうちにスピードは上がっていく。背後からは無数の小型飛行船が母船に続いて飛び立ち、さながらカラスの群れのようだった。地を響かせる大船団は夕日の方角へと進む。ふと風にさらわれた砂が目に入る。少し目を背けて、夕日の方角を見上げたその時にはもう、彼らの姿はなかった。

 おそらくこれからもカカポたちは空を飛び続けるのだろう。彼らの母星、ニュージー星とやらに帰るその日まで飛び続けるのだろう。そして彼らにとっての道の駅として、地球があるのも面白い。私には時間が捨てるほどある。そして誇りがあった。地球で唯一の知的生命体としての誇りが。

 まぶしすぎる夕焼けに身を焦がしながら、私は瓦礫を除け始めた。今度は長居してもらおうと息巻きながら。

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カカポ 唯六兎 @rokuusagi

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