俺の名前は他山小石、探偵さ
他山小石
お人好しのおっさん
俺の名前は他山小石(たやまこいし)、探偵さ。
というのは完全にウソだ。
人生のほとんどを親の介護に使ったおっさんだ。福祉大も親のために行ったので母親の介護に費やした時間はトータル20年。
おそらくお人好しというやつだ。
お人好しというのは自分では気づかない。他人に指摘されて「自分お人好しなんだ」と気づく。
スーパーで買い物する時、売れ残ったら店にダメージがあるかも? と賞味期限が残り少ないものから買ってみたり。
困ってそうな人がいたらとりあえず声をかけてみたりする。
自転車のチェーンが外れたり、車輪に紐が挟まって困ってるじいちゃんばあちゃんによく声をかける。駐車場に放置されたスーパーのカートを戻したり、足の悪そうな高齢者に声かけして代わりに戻したり。
あとから友人達に「お人好し」と指摘されてやっと気づく。
これらは見返りを求めていない。
気づいたら体が動いている。善意の押し付けになってはいけないので、できるだけ相手に確認をとってから手助けすることにしている。
こんな奴なのでいろんな人からナメられて、利用されて、依存されて同性がストーカーになったこともある。ちなみにイケメンではない。
ここでは俺が体験したケースをいくつか紹介したい。
20代の頃、スーパーで小さい女の子に怒鳴ってるじいさん。
小さい女の子とじいさんがぶつかった。じいさんのポケットから財布が落ちた。それに対してじいさんは「拾え」女の子は拾った。この時点で泣いている。
ついには「土下座しろ」などと怒鳴っている。
小さい女の子相手に何やってんだ。
一部始終を見ていた俺はじいさんの手をつかみ「何やっとんじゃ」と怒鳴ってしまった。「財布落とされたんじゃ」と怒鳴るじいさん。
「最初から見とったわ! そこまでせんでええやろ」
女の子が気になって振り向いてみたが、既に逃げていた。よかった。
ただ一つ後悔があった。
小さい女の子の前で大の大人が大声で怒鳴り合う。
助けるために間に入ったが、女の子には怖い思いをさせてしまった。
じいさんはそのまま近くの軽トラに乗り込んで俺の横を猛スピードで駆け抜けていった。スーパーの駐車場内だ。腕を伸ばせば触れそうな距離を猛スピードで駆け抜けて行った。危ない。
年をとってもああはなりたくない。
2021年になってからも色々とあった。
スーパーの袋詰め台に荷物が置いてあった。周りには他のお客さんはいなかった。状況から考えて忘れ物かもしれない。近くの店員さんに報告した。
その時遠くの棚の向こうからおじいさんが現れた。
「ワイのや」
「よかったです」
「なんやこのアホが」
「……」
善意も悪意も受け取る側がどう思うか、受け手に委ねられる。こちらが善意で行動しても悪意で帰ってくることはある。
夜、バイクで走っているときのこと。
人通りの少ない細い山道で転倒してた二輪乗りを見つけた。
発泡スチロールの箱と魚が散らばってる。立てているが11月末、夜は冷え込んでいる。
ケガはないだろうか?
「大丈夫すか」と声をかけたが返事はない。
「何か手伝えることありますか」
こちらを振り向いた、ジェットヘルメットの中年男性。
「あぁ!? ないない!!」
手を払われ不機嫌そうに睨まれた。しっしって感じ。
「そうですか、すみません」
謝る必要もないのに。俺は去ることにした。
こんな経験をしてもお人好しを続けるのか? と言われたらたぶん続けてしまうのだ。
俺のペンネーム他山小石。
これはことわざから拝借している。
他山の石(たざんのいし)。
他の山で採れた石でも何かの役に立つ。
しょうもない小石のような俺も何かの役に立ちたい。
今は介護経験を発信している。在宅認知症介護11年。誰かの役に立ててもらいたい。そう思って活動し始めた。
俺は俺のような嫌な思いをする人を一人でも減らしたい。
おっと、事件は俺を待ってはくれないようだ。では、またあおう。次は劇場版で。
俺の名前は他山小石、探偵さ 他山小石 @tayamasan-desu
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