④結成ギャル探偵団

「――もーう。わたしが神崎さんに万引きの罪押しつけた犯人だなんて、言いがかりもいいところだよ!」


 両脇に手を当て、ぷりぷりと怒りを露わにした柏木さんが口を尖らせた。


「にはは、つい魔が差したというか……ねぇ」

「うんうん。ちょっと面白いくらいに条件が揃ってたもんだからついノリで……なっ」

「そうそう。わたしらかて、言うて本気で委員長が犯人だなんて思ってないし。堪忍してや」


 教室の奥で柏木さんの前に正座させられた星野さん、根屋さん、木村さんの三人が罰の悪そうに目線を泳がせて額に汗を浮かべた。


「ノリで冤罪押しつけられるとか冗談でもたまったもんじゃないよ。それも友達が冤罪で困ってる時にやるとか尚更品性を疑う」

「「「それは……ごもっともですはい」」」


 柏木さんの棘のある指摘に三人が言い訳のしようがないとばかりにしゅんとうな垂れる。


「あはは。まぁ冷静に考えて例え柏木さんの容姿が犯人像に該当していて、クラスメイトという接点から神崎さんが愛用している香水の銘柄を把握していたとしても、柏木さんには一番重要な動機の部分が抜けているわけですからね。だから絶対犯人になることはないと言いますか」


 僕は少しでも場の空気を軽くしようと口を開いたのだけど、


「そ、それは……あれだよねあれ。ねぇシホ」

「ま、まぁなぁ……ないとはいいきれないよなぁ。なぁサユリ」

「せやなぁ。その、痴情のもつれ的な……」



 何故か三人はまるで心辺りがあるとばかりに言葉を濁して


「へ? 痴情のもつれ? それは一体どういう……?」


 わけがわからないと小首を傾げ柏木さんを見やる。

 すると柏木さんは何故か戸惑い始めて、


「ふぇっ!? それはその……も、黙秘権を使用します」


 顔を赤くしてそう叫んだ。

 ええっなんですか、そのいかにも心辺りがあるみたいなリアクションは!?


「と、とにかく。今聞いた話によると、山代君達は神崎さんの冤罪を晴らすために真犯人を捜そうとしているんだよね。だったらわたしにも協力させてよ。クラス委員長としてクラスメイトのピンチは見過ごせないから」


 力になるよと拳を握ってやる気の程を露わにする柏木さん。

 彼女が何故突然拘束されたのかを説明する中で、僕達が神崎さんのために動こうとしていることは既に打ち明けてあった。


「ありがとうございます。とっても心強いです」

「ようし。こはるんも仲間に加わったってことで、これは少年探偵団ならぬ、ギャル探偵団の発足だね。真実はいつも一つ!」


 星野さんが楽しそうに明後日の方向に指をびしっと伸ばす。

 あの僕はギャルじゃないのですが……。


「そういえば、別に今更身の潔白を証明するってわけでもないけど、さっきわたしが犯人である可能性の一つに、クラスメイトという接点から神崎さんが普段愛用している香水が盗品と同じなのを知っていてもおかしくない――ってのが理由にあったみたいだけど。わたしはそれ、犯人を特定する理由にはなってないと思うんだよね。寧ろその逆で、クラスメイトである以上、今回の事件の犯人からは一番ほど遠い位置にいると思う」

「へっ、それはどういう……?」


 柏木さんの指摘が理解できずに僕が疑問符を浮かべていると、不意に木村さんが「あっ」と声をあげて。


「そっかぁ。犯人は誰にも気付かれずに盗んだ物をこっそりとレイコの鞄に入れる必要がある。けど、基本的に教室には誰かしらがいるだろうし、教室から全員がいなくなるタイミングってなると、移動教室とか体育みたいな時しかない。となると、必然的にわたしらクラスメイトには犯行が不可能ってわけやな。万が一不審な行動を取った人物がおれば、一発でわかるやろうし」

「なるほど。犯人がいつ神崎さんの鞄に香水を入れたのか。言われて見れば真っ先にそこに着目すべきでしたね」

「昨日うちら全員が教室からいなくなるタイミングがあったとすれば、四限目の体育の時間だよね。犯行は四限目の前後に行われたってことなのかなぁ」


 星野さんの言う通り、昨日犯人が誰の目にもつくことなく神崎さんの鞄に香水を忍ばせるタイミングがあったとすれば、僕ら全員が教室からいなくなる四時間目の体育のタイミングだけだ。そして僕の記憶する限りじゃ、昨日の体育は全員が出席していたし、特に不審に思うようなことは見られなかった。となると、柏木さんの言う通り、クラスメイトは犯人の中から除外していいのかもしれない。


「でもさぁ。そうなったらそうなったで、ますます犯人の検討がつかなくなるよなぁ。この学校での私らの交友関係つったら広くて浅いし、いつもの面子以外でつるんでることって早々ないから、クラスメイト以外でレイコの香水知ってそうなやつとか、それこそ姉の生徒会長様ぐらいとかしかいないんじゃないか。ま、レイコはあの性格だから、些細なやり取り程度でも本人の知らないところで恨みはかってそうではあるけど」


 根屋さんがやれやれと苦笑いする。


「それでも不幸中の幸いと言いますか、監視カメラのおかげで万引き犯が色黒の女性徒であったことだけは間違いないんです。まずはこの学校でその条件に該当する生徒がどれだけいるのか探していきましょう。範囲を絞るだけでも見えてくるものがきっとあるはずです」


 僕がそう言うと、みんな賛同するようにこくりと頷いてくれた。

 方針が決まったところで丁度昼休みの終了を告げるチャイムがなり、僕達はいったん授業に集中する。


 そうして僕達は五限目の休み時間や放課後を利用し、ひとまずは在校生の中で色黒の女性徒がどれだけいるのか確認しようと動いたのだけど――


 ここで一つ、衝撃の事実が発覚する。


 なんとこの桜星高校には、神崎さんと柏木さんを除くと、特筆して黒ギャルとして呼べるような女性徒が存在しなかったのだ。

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