取り繕わないで
授業の日がやってきた。
私は、早めに来て自習をしていた。
しばらく、勉強していると授業よりも2時間早い時間に、私を授業ブースに呼び出した。
「早めに授業をするのかな?」と、あまり疑問に思わずに行ってみると、
「何か、抱え込んでない?」と聞かれた。
私は、何も答えられなかった。
「話せないようなら無理しないでいいけれども、私はちょっとやそっとのことじゃ驚かないから、話して欲しいな。」
と、既にリストカットのことを見抜いたような言葉で、私に話しかけてきた。
それでも私はだんまりを決め込んだ。
先生に迷惑をかけたくない。
先生に重荷を負わせたくない。
ショックを受けた顔を見たくない。
気を遣われたくない。
怒られたくない。
理由なんていくらでもあるが、言えない、言えない。先生、もう追求しないで。と心の中で叫んでいた。
「私は勉強を教えるのが仕事で、成績を上げるのが義務だけれども、それだけじゃなくて精神的な面も支えるのも大切な仕事だと思っているから。」
それでも先生は続ける。私を安心させるために。
私は話せなかった。
ほとんど過呼吸気味になっていた。バレてしまうのではないか、ととにかく怖がっていた。
「ごめんね、思い出させちゃった?話したくなったら、いつでも声をかけてね。」
そう、先生は言って私の左手を触った。
私は、反射的によけてしまった。
また謝られて、申し訳なかった。
自習室に戻ってしばらくすると、授業の時間になった。授業が始まると、先生は「さっきは呼び出したりしてごめんね。」と謝った。そして、「私は味方だよ。理解者でいたいとも思っている。全部で取り繕うのは疲れるだろうし、私の前では隠さなくていいよ。取り繕わないで。」そう言うと、もうこの話題には触れずに普通に授業してくれた。
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