カミングアウト
ある日、私は塾の外で先生を待ち伏せした。受験のことを伝えるために。
先生が階段から降りてきても、すぐには声を掛けられなかった。待ち伏せしたことがバレたらどうしようと不安だった。
しばらく、塾の前でスマホをいじっていたのだが、もう声を掛けられない、諦めようと思って歩き出したとき、先生から声を掛けてくれた。流れで、途中まで一緒に帰ることになった。
歩きながら雑談をしていた。
ふと、少々沈黙の時があった。
私は受験の話を切り出した。
中高一貫校に通う生徒が家庭の事情や成績不振以外で受験をするというのは異例中の異例。私の受験の話を聞いて、敬遠されても仕方がない。その覚悟は出来ていた。
「私、高校受験しようと思っているんです。」
先生は、驚いていたと思う。
でも、凄く冷静に「それはどうして?」と聞いてくれた。
私は、行きたい学校と今いる学校を退学したい理由を凄くアバウトに説明した。
丁寧に説明していたら、私が荒れてしまうと思って怖かった。
私が行きたいのは、普通科。=専門的なことを学びたいわけではない。
学校で何かあったということを悟ったらしい先生が、「辛くない?それだけ気になる。」と聞いてきた。
私は辛いのか、辛くないのかよく分からなかった。
私が黙っていると、先生が「辛いときもある?」と聞いてきて、私は頷いてしまった。分からない、って答えて理解して貰えるとは到底思えなかった。
「ずっと頑張ってたんだね。」
「私には、何でも吐き出してくれて良い。自由に使ってくれて構わないから。」
「話してくれてありがとう」
私が、ずっとうつむいて黙っている間にも先生はいたわりの言葉を掛け続けてくれていた。
感謝したいのは、私の方。
だけど、「いえ」としか返せなかった。
拒絶せず、すんなり大きな心で受け入れてくださってありがとうございました。
ずっと言いたかった言葉だ。
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