第110話 ユクト先生の授業は気が抜けない
「パパ~」
ミリアがいつものように駆け寄って来て俺に抱きつこうとしていたので両肩を掴み静止させる。
「えっ? 何で?」
「ここでは俺は先生だ。いくら娘だからといって特別扱いするつもりはない」
正式に指導する立場になったからけじめはつけないといけない。ミリアを贔屓にしてクラスメート達と上手くいかなくなるのも嫌だからな。
「パパが先生⋯⋯それもいいかも。教師と生徒の禁断の関係⋯⋯だけどそのことがスパイスになって二人の愛はより大きな炎へと燃え上がり⋯⋯エヘ、エヘヘ⋯⋯」
ミリアが恍惚な表情を浮かべながら何かを呟いており、怪しい感じがするな。
「ユクト先生、私に繋がる魔法をかけてもらえませんか?」
「あっ! ずるい! 先生、先に私からお願いします。でも恥ずかしいからあっちの空き教室で⋯⋯」
「わたくしは子爵家のナルディアと申します。よろしければ先生を我が家の専属魔法使いとして雇いたいのですが。その際はもちろんわたくししかその⋯⋯1つになることは許しませんことよ!」
そして女子生徒を中心に
「こら! パパに変なことを迫らないの!」
正気を取り戻したミリアが生徒達から俺を護るように立ち塞がっている。
「ミリア、変なことってどういうことだ? みんな
「う~ん⋯⋯どこでどう変わったのかわからないけどみんな
「エッチ⋯⋯だと⋯⋯」
そんなことをするわけがない! どうしてそんな話になっているんだ。
ん? ということは魔法養成学校では俺がFクラスの子達全員に如何わしいことをしたということになっているのか!
そして迫ってくる集団によくよく目を向けて見ると何故かそれは女子生徒だけではなく男子生徒も数人いて、皆顔を真っ赤にしていた。
「ミ、ミリア⋯⋯あの男の子達は⋯⋯」
「あの人達は女の子より男の子が好きみたい。パパは美形だから狙われているんじゃないかな。けど大丈夫⋯⋯パパはボクが護るから安心して」
ミリアの腕は信用しているがスラムでもないのに男に狙われるなんて恐怖でしかないのだが。
どうやらこれは授業を始める前に
「みんな聞いてほしい――」
そして俺は講師をする初日にもかかわらず、
「そうだったんだ」
「そうだよね。学校でそんな変なことをするわけないよね」
「ふ、ふん! わたくしは勿論最初からわかっていましたよ」
そして女子生徒から
「ちっ! せっかく合法的にユクト先生と繋がれると思ったのに」
「こうなったら次の手段を考えるしかないな」
しかし一部の男子生徒からは不穏な言葉が聞こえてくるのであった。
別に人の迷惑にならなければどんな考えを持っていても良いと思うが、頼むから俺を巻き込むのは止めてほしい。
だが今回の件でSクラスには要注意人物達がいることがわかったからよしとしておこう。
後は用心しつつその子達を平等に扱って授業をすればいいだけだ。
「そういえばミリアさんも
そして一人の男子生徒がミリアに向かって問いかけるとミリアは瞬く間に男子生徒達に囲まれることとなる。
「おまえきたねえぞ! 俺もミリアちゃんに手取り足取り教えてもらおうと思ってたいたのに」
「いや、こいつらより俺と繋がろうぜ」
「ミリアさんが誰が好きかわかるチャンスだ。まずは僕からお願いします」
どうやらこのクラスの男子生徒達はミリアを意中の相手と思っている奴らが多いようだ。
ミリアは性格は少し破天荒な所はあるが容姿は優れているから男子生徒達の気持ちもわからないでもない。だが父親の前で娘を口説こうとするなんて良い度胸だな。
さてどうしたものか⋯⋯このまま注意するだけでは一時的に言うことを聞くかもしれないが根本的な解決にはならないかもしれない。それなら⋯⋯。
俺はこれからの授業が円滑に進むように右手に魔力を込める。
「う~ん⋯⋯残念ながらボクは
「そんなことないだろ? 大魔導師のミリアが出来ない魔法があるなんて」
「そうだよ。俺達は魔法のレベルをアップさせたいだけで別にやましい気持ちで言っているわけじゃないから」
どうやらさっきミリアの好きな人がわかると言っていたことを忘れているようだな。
それに男子生徒達はミリアに夢中になっていることで俺が魔力を込めていることに全く気づいていない。
「ちょ、ちょっとあんた達やめた方がいいよ」
「そ、そうだよ、今は授業中だよ」
しかし女子生徒達は俺が何をしているか気づいているようで慌てて男子生徒達の愚行を止めようと声をかけるが⋯⋯。
「いや、せっかくミリアさんと仲良くなれそうなのに」
「ミリアちゃんと繋がれるかもしれないんだ。チャンスは最大限に生かさないと」
だが男子生徒達は女子生徒達の言葉に一切耳を貸さない。
「あ~あ、私もう知らない」
そう言って女子生徒達は静かに俺の背後へと避難する。
授業中に勝手な行動をし、あまつさえミリアに言い寄るとは⋯⋯。
俺は全てを凍らせる魔法を発動するため詠唱に入る。
「女神アルテナよ⋯⋯我が眼前にある世界を凍てつかせ⋯⋯全ての生命が死する永久凍土を顕現せよ⋯⋯
そして力強い言葉と共に右手に集束させた魔力を解放すると絶対零度の冷気が一瞬で森を氷の世界へと塗り変えていく。
「「「ヒィィィッ!」」」
男子生徒達は予想だにしない光景に恐れをなし、腰を抜かして地面に座り込む。
「こ、これって森が全部凍っているんじゃない!」
「見渡す限り氷しかないよ!」
「さっすがパパだね! いつみてもパパの魔法は惚れ惚れしちゃうよ」
俺の魔法を見て生徒達は驚き、恐れている中、ミリアだけは喜んでいた。
「あっ! ちなみにボクは本当に
「「「は、はい」」」
ミリアの言葉にこの場にいる誰もが頷き、そしてこの後のユクトの授業は生徒達が一語一句聞き逃さぬよう真面目に取り組んでいたためスムーズに進むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます