第88話 救出
セレナside
突然身の毛がよだつ殺気を感じて私の足はガクガクと震え、歩くことさえ出来なかった。
そしてそれは誘拐された女性3人も同じで地面に座り込んでしまう。
「な、何⋯⋯何なのこれは⋯⋯」
今までこのような強烈な殺気を感じたことがない。けど私はこの気配を知ってる⋯⋯今まで1度も殺気を放っている所を見たことありませんでしたけどこれはパパに間違いないです。
どうしたの? パパに何があったの?
私はパパの元へ向かうため震える足を前に進めると誘拐犯の叫び声が聞こえてきた。
「ひぃぃぃっ!」
そしてパパの誘拐犯を問い詰める声で、今回若い女性を拐った事件は奴隷商人が関わっていること、昨日ノボチ村でパパが倒した盗賊はこの誘拐犯の仲間であること、拐われた3人が帝都に送られていること、少女が1人殺されていることでパパが怒っているということがわかった。
パパ! パパ!
パパは優しいから命を奪われてしまった少女を私と重ね合わせて怒っているんだ。
だから私はここにいる⋯⋯大丈夫ですよと言って抱きしめてあげたい。
私は一刻も早くパパの元へと行きたかったけど恐怖で一歩一歩しか進めず、終いには声を出すこともできなかった。
そしてようやく部屋の扉の前にたどり着こうとしたその時、突如今まで座り込んでいたシルルさんが立ち上がり小走りで私を追い抜き部屋の外へと出てしまった。
えっ? 嘘? 私なんてまだ満足に歩くことも出来ないのに⋯⋯。
何でシルルさんは走ることが出来るの?
けれど私が驚いたのはそれだけではありませんでした。
シルルさんは部屋を出るとそのまま小走りでパパの元へと一直線に走り⋯⋯そしてパパの胸に飛び込んでいった。
ユクトside
セレナ達がいるであろう部屋の扉が開くと突然銀髪の少女が俺の胸に飛び込んできたので俺は驚きの表情を浮かべる。
えっ? どういうことだ?
もしかしたら誘拐された恐怖で助けにきた俺を見て思わず抱きついてしまったということか。
それなら俺がやることは1つ⋯⋯彼女を安心させてあげないと。
「もう大丈夫だ⋯⋯怖かっただろう?」
銀髪の少女は俺の言葉を聞いてさらに強く抱きしめてきた。
そして⋯⋯。
「や⋯⋯あえ⋯⋯」
ん? 少女は小さな声で何か言葉を口にしたけどこれって⋯⋯。
とりあえざ俺は少女を安心させるため抱きしめながら肩をトントンと軽く叩いていると突如大きな声が聞こえてきた。
「ど、どういうことですか!」
セレナが声を上げながら重い足取りでこちらに向かってくる。
良かった⋯⋯セレナは無事だったか。
「シルルさんなぜ⋯⋯」
(無表情だったシルルさんが僅かながら笑顔を見せています。し、しかもパパの胸に飛び込むなんてどういうことですかぁぁぁっ! ここは足が動かないなんて言っている時ではありません! 私の足よ動いてください!)
そしてセレナは小走りで俺の方に向かってくる。
「セレナ⋯⋯変なことされてないか?」
「はい⋯⋯
セレナはチラリと銀髪の少女に視線を向ける。
この視線の意味は何だろうか? 銀髪の少女は誘拐された女の子達の1人で間違いないと思うが。
「ごめんなさい⋯⋯あなたもこの人の胸に飛び込みたかったのね」
「えっ? いえ⋯⋯私は⋯⋯。そ、それよりシルルさんは何故パパの胸に⋯⋯」
この銀髪の少女がシルルさんだったようだ。とりあえず村長の依頼は達成できたか⋯⋯。
「私は⋯⋯何となくフィーリングで?」
「な、何となく⋯⋯ですって!」
(それでパパに抱きつくなんて許されることじゃないです)
「さあ⋯⋯どうぞ」
「いえ⋯⋯どうぞと言われましても⋯⋯」
(今さらパパの胸に飛び込むなんて出来るわけがありません。しかもシルルさんは相変わらず無表情ですし⋯⋯やっぱり先程パパに抱きついていた時の笑顔は見間違いだったのかしら)
シルルさんとセレナが何か言い合っていたが俺はそんなことは関係なく無事だった娘が愛おしくて抱きしめる。
「セレナ」
「えっ? パパ⋯⋯」
俺が突然抱きしめたからかセレナは驚きの声を上げるが、すぐに俺の背中に手を回してくれた。
「無事で良かった⋯⋯安心したよ」
「大丈夫ですよ⋯⋯パパが見守ってくれていましたから」
セレナはそう言うが馬車の中や洞窟に入ってすぐの時は無事かどうか確認は出来なかったからな。
そして数秒経った後、セレナを抱きしめていた手を緩め離れようとしたが、逆に俺の背中に回されていた腕は力が入るのであった。
「セレナ?」
「パパ⋯⋯私はここにいる⋯⋯ここにいるから⋯⋯」
まいったな⋯⋯おそらくセレナは誘拐犯達と話していた内容を聞いて俺の心が高揚していると判断し、落ち着かせるために抱きしめてくれているのだろう。
「ああ⋯⋯セレナはここにいるな」
俺は一度深呼吸をしてセレナの温もりに集中する。
すると平静を取り戻すことが出来たので改めてセレナと向き合う。
「ありがとうセレナ⋯⋯冷静になることができたよ」
「それもどうかと思いますがパパのお役に立てたなら良かったです」
そう言ってセレナは俺から離れていく。
それもどうかと思うとはどういうことだ? だがセレナの言葉を考える暇もなく奥の部屋から三人の女性が出て来るのであった。
「私達助かったの?」
「こ、これは⋯⋯イヤァァァァッ!」
し、しまった!
助け出した女性達が地面に転がっている誘拐犯の死骸を見つけ悲鳴を上げてしまう。
「あなた方が拐われたと聞いて助けにきました⋯⋯さあ早く洞窟の外へ」
「は、はい⋯⋯」
この光景を若い女性に見せるのは酷なことなので俺は気絶した奴隷商人を担ぎ上げ急ぎここを離れるよう促すことにする。
そして俺達は洞窟の外へと向かうが、途中白いシーツを被せられた少女の横を通り過ぎ俺は苦悶の表情を浮かべてしまう。
「パパ? どうかしましたか?」
「いや、何でもない。早くここを出よう」
これ以上娘に心配をかける訳にはいかないため、俺は何事もなかったかのようにこの場所を立ち去ることにする。
そして⋯⋯。
「私達⋯⋯助かったのね」
拐われた女性達は夕暮れの紅い光を浴びて生きていると実感したのか初めて笑顔を見せてくれた。
だがその中でもシルルさんだけは変わらず無表情で助かったことを喜んでいるのかどうかわからない。
森の奥で1人で暮らしているからあまり人と関わるのが好きじゃないのかもしれないな。何か人間関係で嫌なことがなければあのような所で暮らすことはないと思う。
この後シルルさんはどうするのだろうか? やはり若い女性が1人で森の奥に住むのは危険だと思うが他人の俺がとやかく言う問題ではない⋯⋯だが初めてシルルさんを見た時から何か感じるものがある。それは抱きしめられた時
「シルルさん⋯⋯俺達ってどこかで会ったことありますか?」
俺は疑問に思っていることをシルルさんに問いかけてみる。
「それはもしやナンパというやつですか?」
「パパがナンパ!」
「セレナ、違うからな」
この娘は何を言ってるんだ。セレナにあらぬ疑いをかけられる所だったじゃないか。
「私があなたに会うのは初めてです」
会うのは初めてと口にしたが、シルルさんの目が揺らいでいたことを俺は見逃さなかった。
これ以上は聞くなということなのか、それとも目が揺らいで見えたのは偶々なのかわからないがシルルさんは既に明後日の方を向いておりこれ以上俺と話す気はないようだ。
それならこれ以上問い詰めてもしかないか⋯⋯とりあえず今は誘拐された人達を安全な所へ連れていくことが優先しよう。
「暗くなる前にブルーファウンテンに行くぞ」
こうして俺達は拐われた女性達を助け出し、誘拐犯が使っていた馬車でブルーファウンテンへと向かうのであった。
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