第82話 ブルーファウンテンへ

 ユクトside


 俺は盗賊を倒した後、北の森で湧き水の量が適切に出ているか確認しに行ったが特に問題は見られなかったため、村へと戻る。

 そしてセレナとパルズと旅立つ準備し、村の北東へと移動すると村人達も見送りに来てくれた。


「ユクト殿、セレナ殿、パルズ殿⋯⋯本当にありがとうございました。あなた方はこのノボチ村の恩人です」


 村長が俺達に頭を下げると村人達もそれに習って頭を下げてくる。


「パルズ兄ちゃん本当にありがとう⋯⋯でももうちょっと村にいてほしかったなあ」

「悪いなトム⋯⋯旅の予定が狂っちまってるからな」


 パルズの言うとおり既に予定とは1日のずれがあるため俺は今日中に出発することを決断した。

 今の時刻は昼過ぎ⋯⋯何も問題がなければ夕方頃にはブルーファウンテンに到着するはずだ。


「村長⋯⋯盗賊達のことをよろしくお願いします」

「ええ⋯⋯お任せ下さい。間もなく憲兵の方達が引き取りに来ますので」


 そう⋯⋯俺は盗賊達の命を奪っていなかった。

 あの時盗賊達がパルズを殺そうとしたため殺意は芽生えたが、子供達の前ということもあり盗賊の頭は手加減して殴り、手下達に向けた雷弾魔法ライトニングボールは身体が麻痺する程度に威力を抑えていた。


「では、私達はこれで⋯⋯」

「失礼します」

「じゃあな⋯⋯元気でやれよ」


 そして俺達は村人達に背を向け歩き始める⋯⋯だがその時。


「待ってくだされ!」


 突然村長に呼び止められ、俺達は足を止める。


「どうしました?」

「これを⋯⋯これをお持ち下され。村を救って頂いたお礼です」


 そう言って村長は背後から大きな篭を差し出してきた。

 中に何か入っているようだが⋯⋯。


「そ、村長! これはアマイモじゃないですか! これを渡したら次の収穫が⋯⋯」


 村長の行動に対して村人達が驚きの表情を浮かべ問い詰めている。

 これはまさか⋯⋯種芋用のアマイモなのかもしれない。

 もし俺達がこのアマイモを持っていってしまったら今後ノボチ村で育てていく分は失くなってしまうのではないか?


「わしらを盗賊から護って下さり、そして湧き水まで蘇らせて頂いたんじゃ。恩を返すのは当然じゃろ?」


 村長の言葉を聞き村人達は納得したのか何も言えずにいる。


「ユクト殿達にはどうしても我が村自慢のアマイモを食べて頂きたかった。わしらのことは気にせんでくれ、命さえあれば何だってできる。アマイモを作るだけしか能がないわしらをすごいと言ってくれる方もおるからこれからどんな状況でもがんばることができるんじゃ」

「村長⋯⋯」


 この時の俺は村の人達を凄いと言ったのが誰かわからなかったが、後日セレナからそれはパルズだと聞いた。


「いえ、やはりこれは⋯⋯」


 もらうことはできない⋯⋯だがそう言葉を発する前にパルズが前に出て村長から種芋が入った篭を受け取ってしまう。


「わかった⋯⋯ありがたく頂いとくぜ⋯⋯なんだ、これっぽっちかよ!」

「パルズさん!」


 パルズがアマイモを受け取ったことでセレナから非難の声が上がる。

 正直な話、今のパルズが種芋用のアマイモを受け取るとは思えない。何か考えがあるのだろうと俺は静観することにした。


「俺達は盗賊を退治し、湧き水を復活させたんだぞ? この程度の報酬で納得できるかよ」


 そしてパルズはアマイモが入った篭を村長に返す。


「ま、またこの村に来てやるからその時はこの何倍もあるアマイモを食べさせてくれよ⋯⋯それで手を打ってやる」


 この時のパルズは明後日の方を向き、どこか恥ずかしそうに言葉を発していた。


「わかりました⋯⋯次に皆様が来られる時は今以上に旨いアマイモを準備することを約束致しましょう。パルズ殿⋯⋯ありがとう⋯⋯本当にありがとうございます」


 村長や老人の方々はパルズを崇めるように涙を流し感謝している。

 そしてこの場の空気が少ししんみりとした中、俺達は改めてブルーファウンテンに出発しようとしたその時。


「パルズ兄ちゃんってやっぱりツンデレってやつなんだね」


 トムくんがその言葉を言うとしんみりとした空気はなくなり、辺りが一気に笑いに包まれた。


「ふふふ⋯⋯確かに言い得て妙ですね」

「今のパルズにピッタリな言葉だな」


 俺とセレナもパルズはツンデレという言葉に村人達と同様に笑いが止まらなかった。


 パルズは出会った頃は粗暴で自分勝手で人の話を聞かないような男だったが、今は口調こそ乱暴だが、相手のためを思い行動する立派な男になった。

 弟子の成長を見るというのも良いものだな。だが成長というものは自分1人だけでできるものではなく、それはこの旅で巡りあった出会いのお陰だ。初めはこの旅に連れてきて良かったのかと迷うこともあったが今ならそれが間違いではなかったとハッキリと言える。


 しかし俺の思いとは裏腹に当の本人はツンデレと指摘され、みんなに笑われ顔を真っ赤にして叫んでいた。


「お、俺はツンデレじゃねえぇぇ!」


 こうして俺達は笑顔の絶えない中、ノボチ村を出発し目的地であるブルーファウンテンへと足を向けるのであった。


 ノボチ村を出発した後、俺達は勾配のある坂を登りブルーファウンテンへと歩んでいる。しかし道こそあれど辺りの景色は森ばかりであったため魔物や盗賊に襲われないよう注意を払っていたがその心配もなく、夕陽が落ちる前になんとかブルーファウンテンに到着することができた。

 ブルーファウンテンは山の中の盆地にある村で、規模としてはノボチ村と同じような大きさであった。幸いなことに大きくはないが木造の宿屋があり、部屋を取ることが出来たので銀の竜についての調査は明日からにして今日はゆっくりと休むことを選択する。


「あ~マジで疲れた。まさか今日中にノボチ村を出発するとは思わなかったぜ」

「予定より遅れているからしかたないです。私達もいつまでも学校を休むわけにはいきませんから」


 パルズとセレナは宿屋のイスに腰を下ろし会話している。

 この旅をするようになってから二人はよく話しをするようになったな。初めの内はセレナがパルズの話に答えることなどほとんどなかった。同級生にセレナの友人が増えたことは喜ばしいことだ。


「明日は朝から銀の竜についての調査を始めるから今日はゆっくり休んでおくんだぞ」

「わかりました」


 俺の言葉にセレナからだけ返事が返ってくる。

 俺とセレナはそのことに違和感を覚えパルズに視線を向けると、パルズは何やら浮かない顔をしていた。


「あ、あのよう⋯⋯そのことで2人に話があるんだ」


 パルズに何かあったのだろうか? 旅をしてこんな表情をしたパルズは初めて見る。


 そしてパルズは俺とセレナに対してポツリポツリと語り始めるのであった。


―――――――――――――――

パルズが主役の話はここで終わりになります。応援して下さった方ありがとうございました。


【読者の皆様へお願い】


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