第57話 物語の嫌な予感は必ず当たるもの
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だがクルガの右手から放たれた光の奔流が12匹の死霊達を飲み込み消滅させる⋯⋯ことはなかった。2匹のウィルオウィスプを消し去っただけで残りの死霊達は平然としている。
これは体内の魔力を集中することが出来ていない⋯⋯見かけ倒しの魔法だな。
「さあ! 先陣は切った! 生徒の諸君私の攻撃に続け!」
クルガの号令によりまずは3年生が魔法を詠唱し解き放つ。
俺はその様子を少し離れた位置にある4~5メートルの高台からを見学している。
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学生達が放つ光の十字架が、輝く光球が死霊系モンスター達を倒していく。
だいたい2~3発くらいで1匹のモンスターを倒せている。もう少し体内の魔力を集めることはできないのか? だが見本を見せたクルガが出来ていないことを教わっている生徒が出来るわけがない。
「ちなみにトアは何をやっているんだ?」
俺は
3年生達は死霊系モンスターと戦っているのに何故かトアは参加していなかった。
「う~ん⋯⋯トアは理事長先生から演習に参加しないように言われているの」
「それはどういうことだ?」
演習に参加するな? 生徒が演習に出てはいけないとはおかしな話だ。
「トアが参加すると他の人の練習にならないみたい」
「確かにトアならあそこにいる死霊達を一瞬で消滅させることができるけど⋯⋯」
演習に参加出来ないならトアは学校に来る意味がないのでは? 俺は神聖教会養成学校の教育に疑問を感じる。
「あっ! でもその分理事長先生がいる時は直接指導してくれたり、トアの知らないことをいっぱい教えてもらってるよ。それに友達と会えるからトアは学校が大好き」
「そうか⋯⋯それなら良かった」
トアは俺が不安に思っていたことを感じてか説明をしてくれた。
「では次は2年生前へ! 貴様らは初めての実戦だ! 気を抜くんじゃないぞ!」
どうやら俺がトアと話している間に3年生は無事に12匹の死霊モンスターを倒したようだ。
そして次はコトの教え子達の番だ。クルガが死霊の笛を吹くと先程と同じ様にゴースト、スケルトン、ウィルオウィスプが寄ってくるが数が違う⋯⋯少なくともさっきの倍以上はいるぞ。
「くっくっく⋯⋯お前ら担当の講師が無能だと大変だなあ。無様に慌てふためくがいい」
まさか⋯⋯クルガは2年生がコトの教え子だからと嫌がらせをするつもりなのか?
2年生達はこの状況でパニックになっていないか心配だ。俺は万が一の時を考えて戦闘態勢を取る。
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だが2年生は先程の3年生と同じ魔法を繰り出し、次々と死霊モンスターを倒していく。
ん? これは⋯⋯。
「2年生の方が3年生より魔法を上手に使えてるね」
「トアも気づいたか⋯⋯3年生が2~3発の魔法で倒していたのに対して2年生は1~2発の魔法で倒しているな」
これは2年生の方が体内の魔力をしっかりと集めて放出しているからだ。
「バ、バカな! なぜこんなに早く倒せるのだ」
2年生は先程より死霊モンスターの数が多いにもかかわらず、3年生より短い時間で倒してしまった。
「みんなお疲れ様」
コトが2年生に労いの言葉をかけるが、当の本人達は何故か呆然としている。
「私達⋯⋯何で3年生より早く死霊モンスターを倒せたの⋯⋯」
「コト先生が俺達の担当だからちゃんとした指導を受けれていないはずじゃ⋯⋯」
Sクラスの2年生はコトの教え方に疑問を持っていたのか? コトが理事長のコネで入ったという噂を聞いてそう思い込んでいたのかもしれないな。
「嘘⋯⋯何で2年生の方が私達より強いの⋯⋯」
「そ、そんなはずは⋯⋯俺達はクルガ先生に指導を受けて来たんだぞ」
3年生も2年生の実力を目の当たりにして驚愕している。これはどう見てもクルガより2年生を指導したコトの方が優れているのが明白だ。
「くっ! ふざけるな! 俺があのコネ講師に負ける⋯⋯だと⋯⋯」
クルガは目の前で起きた結果を見てワナワナと震えている。
「そんなはずはない! 俺は侯爵家の者だぞ! 指導力は関係なく3年の能力が劣っているだけだ!」
そして遂には3年生に責任を転化してきた。
やはり貴族にはろくな奴がいない。こんな奴がトアの担当の講師だと思うと虫酸が走る。
「いや、今のは偶然だ⋯⋯たまたま弱い死霊が寄ってきただけ⋯⋯次はもっと強い奴を呼び寄せるとしよう」
クルガは目が虚ろになりながらブツブツと喋りながら再び死霊の笛を吹き始める。
「ちょっとクルガ先生!」
コトが死霊の笛を吹いているクルガを止めようと近づくが、既に死霊が呼び寄せられてしまったのか東側より浮遊した黒い影接近してくる。
「あれは⋯⋯レイスか」
顔は骸骨で黒衣を纏い呪いの魔術を得意としていたはすだ。
「な、なんかやばそうなのが来たぞ」
「とりあえず攻撃しましょう」
2年生達は恐れながらも詠唱を始め一斉に
「やったか!」
いくら初級、中級魔法とはいえ2年生全員の魔法食らったんだ。普通のレイスなら倒すことができるだろう。
だがあのレイス⋯⋯俺が知っているものより黒衣の黒が濃い。それに持っている魔力の気配がとても俺の知っているレイスとは思えない。
「まさか奴は⋯⋯ハイレイスだ」
そして砂埃が晴れた後レイスと思われた死霊は先程とは変わらぬ姿で存在していた。
レイスは魔法使いが亡くなりアンデット化した成れの果て⋯⋯ハイレイスはレイスの上位種で高位の魔法使いがアンデット化した死霊だ。その魔力はレイスの数倍と言われている。
「お、おい⋯⋯攻撃が効いてねえぞ」
「全員で攻撃して無傷なんて⋯⋯」
「こんなの無理だよ⋯⋯逃げましょう」
しかし2年生達が逃げる前にハイレイスは魔法を解き放つ。
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ハイレイスの右手からいくつもの骸骨の頭⋯⋯ドクロが2年生達に向かっていく。
俺も初めて見るがあの魔法を食らうとランダムで身体の一部が動かなくなる呪いを受けてしまう。それでもし心臓や脳が止まってしまったら⋯⋯命を落とすことは間違いないだろう。
「や、やばい!」
「魔法が間に合わない!」
2年生はさっきの攻撃魔法でハイレイスを倒せると思っていたのか、誰も防御魔法の準備をしていなかった⋯⋯ただ1人を除いて。
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突然現れた青白く輝く壁が、ハイレイスの放った魔法から2年生を護る。
「あっ⋯⋯た、助かったのか」
「この魔法は⋯⋯」
「コ、コト先生⋯⋯」
そう⋯⋯2年生がハイレイスに一斉攻撃した時、
「みんな大丈夫! ここは私に任せて逃げるのよ!」
「「「は、はい!」」」
もちろん魔法を詠唱していた人物の1人はコト⋯⋯2年生に被害が出ないように防御魔法を唱えていた。
「お、俺達コト先生に酷いことを言っていたのに⋯⋯」
「コト先生ありがとうございます」
2年生達はコトに礼を言ってそのまま東門の方まで後退する。
「ふっはっはっは! やはり学生達には荷が重いようだな! 私の魔法は完成した⋯⋯高貴な者の力を見るがいい!
そしてもう一人詠唱を始めていたクルガが魔法を解き放つと上空から聖なる光線がハイレイスに降り注ぐのであった。
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