第51話 クラス対抗戦その後(1)

 ビジョンの画面でSクラスが敗北した様子を見ていたビルドはワナワナと震えている。


「ふざけるな! 何かの間違いだ! Sクラスが底辺共に負けるはずがない!」


 やれやれ⋯⋯予想どおりというかビルドはSクラスの敗北に対して憤慨しているようだ。


「あなたがどう思おうが勝手ですが負けは負けなので魔法養成学校の退職とFクラスの子達の謝罪だけはして下さいね」

「はあ? 君は何を言ってるんだ? 神聖なる学生達の試合に賭け事など私がするわけないだろう」


 やはりビルドはそうきたか⋯⋯賭け事態をなかったことにするとか見苦しいにもほどがある。


「いえ⋯⋯私もあなたが負けたら退職をする話とFクラスの方々に謝罪する話を聞いてますよ」


 そう⋯⋯俺はラニが横にいる時にわざと賭けの話をした。ビルドが負けたときに必ず言い逃れをしてくると思っていたからだ。


「き、貴様! 伯爵家の私が嘘を言っているというのか!」

「私はハッキリとこの耳で聞きました⋯⋯嘘など言っていません。それに負けたらユクト様に土下座させるとも言っていましたよね?」


 ラニは自分で見聞きした情報をそのまま話している。これがもし平民だったらビルドの伯爵という言葉に恐れをなして何も言えなくなるがラニは皇女様だから関係ない。


「無礼な! この男共々不敬罪で手討ちにしてくれる!」


 無礼なのはどっちだと言いたいがビルドは魔法を唱えるため魔力を集中して詠唱を始めていた。


「赤い目と黒き身体を持つ獣よ⋯⋯その身に宿す悪魔の力を持って我に仇なすもの地獄の業火で焼きつくすがよい⋯⋯ヘルハウンド!」


 ビルドは火の上級魔法を唱えた。本人にはそのような魔法が使える魔力はなさそうだが、全ての手の指につけているリングの魔道具が魔力を高めているのかもしれない。


 そしてビルドが召喚した黒き獣⋯⋯ヘルハウンドが口を開き灼熱の炎を繰り出してくる。


「死ね! 死ね! そうすれば賭け事など無効だ! 誰が底辺共に謝罪などするか!」


 やはり賭けのことを覚えているじゃないか。

 それにしてもビルドは俺だけではなくラニまで殺す気か! 許せないな。

 だが命を狙われた等の本人であるラニはビルドの魔法を防ぐ気もかわす気もなさそうだ。

 これは護衛としての俺を信頼してくれているということか。ならばその期待に応えなくてはならない。傷の1つも負わせてなるものか。


「地位も力も貴様より私の方が優れている! 私は何をしても許されるのだあ!」


 突然魔法を放つなど正気の沙汰ではない。ビルドはここで仕留めておいた方が世のためになる。

 借りにも上級魔法の召喚獣が攻撃をしてきているから、俺はラニを護るためそれ以上の魔法使うしかないな⋯⋯だが既にヘルハウンドの炎が向かってきているため詠唱をしている時間はない。


 俺は右手をビルドに向け、魔法を唱えるために魔力を込め、全てを凍てつかせる氷の魔法を解き放つ。


氷の国ニブルヘイム


 俺の右手から液体窒素の白き霧が生み出され、辺りを一瞬にして氷の世界へと塗り替える。

 ヘルハウンドと灼熱の炎は氷の国ニブルヘイムによって凍りついて消え去り、ビルドは顔より下の部分が凍結し身動きが取れないでいた。


「い、今のは極大魔法! しかも無詠唱⋯⋯だと⋯⋯」


 ビルドは俺の魔法に対して驚きの声を上げている。

 だが俺はそんなことよりまずはラニが無事であることを確認し、そして次に教師達に被害がないことを確かめる。


「さ、寒い! くそっ! 早くここから出せ! 私を誰だと思っている!」


 ビルドはこの状況でもまだ自分が優位だと思っているのか? おめでたいにもほどがある。


「ユクト! これはいったいどういうこと!」


 血相を変えたリリーが焦った様子でこちらに向かってくる。


「ビルドが俺達を殺そうと魔法を放ってきたらからやり返しただけだ」

「な、何てことをしてくれたのよ!」


 リリーは俺の言葉を聞いて激怒しておりビルドをにらみつける。


「違う! この平民共が私を侮辱してきたので罰を与えようと思っただけた」

「罰? この方は⋯⋯」


 リリーの言葉をラニが遮り前に出る。


「あなたはユクト様との約束を守る気はないのですか?」

「約束などしとらん! 仮に約束をしたとしても守るどおりはない! 貴様ら平民は貴族の言うことを聞いていればいいんだ!」


 やはり貴族はろくな奴がいないな。

 ラニも俺と同じ気持ちだったのか頭にかぶっていた外套を取り、ビルドの前に姿を晒す。


「何だ? 今頃顔を見せても遅いぞ。だがそれにしても⋯⋯中々の見た目ではないか。お前が私のものになるなら今回の無礼な振る舞いは許してやろう」

「無礼なのはあなたよ! このお方をどなただと思っているの!」

「このような小娘知りませんな」


 リリーは頭に血が登り過ぎたのか顔を真っ赤にしてビルドを怒鳴りつけている。


「このお方はラフィーニ皇女様よ!」

「バカを言うな⋯⋯このような所にラフィーニ様がいらっしゃるわけ⋯⋯」


 しかしビルドはリリーや周囲にいる教師陣の神妙な顔つきを見て表情が変わる。


「ま、まさか⋯⋯ほ、本物⋯⋯」


 ビルドの問いにその場にいる全員が頷く。


「ひ、ひぃ! お許しを! し、知らなかったのです!」


 ビルドは今にも土下座をしそうな勢いだが身体が凍りついているためそのような行動はできない。


「え~と⋯⋯先程のあなたの言葉を借りるのであればあなたのような貴族は皇族の言うことを聞いていればいい⋯⋯ですかね」

「そ、それは⋯⋯」

「私はあなたのように権力を使って相手を追い込むような方は嫌いです。けれど皇族の侮辱、皇族殺害そして何よりユクト様との約束を破ろうとしたことは許しがたいことです!」


 えっ? 自分が殺されそうになったことより俺との約束を破ろうとしたことの方が罪が重いのか!?


「リリー理事長⋯⋯この方を連れていってください」

「は、はっ! 承知しました。ユクト⋯⋯」


 俺はリリーに指示され、ビルドの凍りの拘束を解いた。

 そしてビルドは教師陣に連れられ、この場から立ち去っていく。


「待ってくれ!」


 だが俺は連れ去られるビルドを止めるため教師達に声をかける。


「ユクトどうしたの? この男は今すぐ斬られても文句を言えない立場なのよ」


 そうだな。もし護衛のレイラさんがいたらそのような結末が待っていただろう。


「ま、まさか⋯⋯私を助けようと⋯⋯」

「いや、それはない。牢獄に行く前に約束どおりFクラスの子達に謝罪してもらおうと思ってな」

「そうですね。約束は守らないといけません。リリー理事長⋯⋯」

「はっ! Fクラスの子達が来るまでこの男はこの場に待機させます」

「そ、そんなあ⋯⋯」


 ラニの命令もあり、ビルドは絶望に打ちひしがれながら膝を地面につき、Fクラスが到着するのを待つのであった。

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