第49話 Fクラス対Sクラス(4)

 ミリアは自軍の陣地を出るとFクラスの元へと走り出す。

 ユクトのように気の力で相手の居場所を突き止めることは出来ないが、魔力を探ることによって大まかな位置ではあるが人間がどこにいるかがわかる。


「ちょっと離れているけど固まっていてくれるのは助かるよ。時間も後半分しかないしね」


 ミリアは森の西側にFクラスの魔力を見つけたためその場所へと向かう。

 そしてFクラスがいるであろう場所に到着すると⋯⋯。


火嵐魔法ファイヤーストーム


 カーズが放った炎の渦がミリアに襲いかかる。


「甘いよ。ボクにそんな攻撃は当たらない」


 ミリアは魔法が来ることがわかっていたのか軽々と炎の渦をかわすが、辺りの草木を燃え、ミリアは炎に閉じ込められる。


 これは先程4人のSクラスを倒した時の方法だ。


 そしてメルルさんの霧魔法が周囲に広がりミリアの視界を奪う。


「残念だけどこのくらいじゃあボクの足止めは出来ないよ。突風魔法ガスト


 ミリアを中心に突風が全方位に放たれると霧が一瞬でかき消される。

 そして先程のSクラスの子が使った魔法とは違いミリアの魔法は炎ごと吹き飛ばしていた。


「やはりミリアは化物だな! 炎ごと風魔法で消しやがった」


 ライルはミリアの前に姿を現し挑発行為を行う。


「ボクの前に出てくるなんて勝負を諦めたの?」

「さあな⋯⋯それはどうだろう」


 ミリアは右手をライルにかざし、魔法を放とうとしたその時。


「「「火炎弾魔法ファイヤーボール」」」


 ミリアの背後からカーズ、キース、ケインの3人が炎の弾を投げつけるとその弾は1つになり、通常の3倍の大きさになってミリアを襲う。


「だから魔力で居場所がわかっているから。氷の矢魔法フリーズアロー

 ミリアの手から1本の氷の矢が生まれるとその矢は3人が放った火炎弾魔法ファイヤーボールを軽々と突き破り消し去る。


「う、嘘だろ!」

「俺達3人の魔法が⋯⋯」

「氷の矢一本より弱い⋯⋯だと⋯⋯」


 3人はミリアとの魔力の差に呆然となり、戦意が喪失されている。


「それじゃあもう一本矢をプレゼントするよ。フリーズ⋯⋯」


 だがミリアの魔法が発動されることはなかった。なぜならネネが沼地魔法スウォムプでミリアの足を止めていたからだ。


「み、皆さん逃げて⋯⋯下さい⋯⋯」


 ネネは何とか声を出し、逃げるよう促すとカーズ達は我に返りこの場から離脱するよう動き出す。


「鬱陶しいなあ⋯⋯氷結大地魔法フローズングランド


 ミリアが魔法を唱えると周囲の大地が瞬く間に凍りつき、沼地を氷上のリンクへと作り替える。そしてもしネネが声をかけていなかったらカーズ達はこの凍りにからめとられて試合をリタイアしていただろう。

 しかしカーズ達のピンチは終わらない。まだミリアの攻撃範囲以内にいるため、この場から離脱しようとするがミリアの追撃の魔法の方が早そうだ。


「プランCだ!」


 ライルは3人を逃がすために指示を出すとスルド、トール、ノーマンの3人はミリアに向かって魔法を放った。


炎の矢魔法フレアアロー


火炎弾魔法ファイヤーボール


雷の矢魔法ライトニングアロー


 そのFクラスの魔法に対してミリアは氷の矢魔法フリーズアローで迎撃するが、時間差で攻撃が来るため防御に対応が追われ、カーズ達を逃がしてしまう。


「こんな時トアがいたら⋯⋯」


 ミリアは頭の中で妹であるトアのことを考えていた。もしこの場にトアがいればFクラスの攻撃を防ぐことを任せてミリアは攻撃に専念することができ、Fクラスは数秒で壊滅に追いやられたであろう。

 しかし今はトアはおろかSクラスの仲間もいない。ミリアは1人でこの試合を乗り切るしかないのだ。


 Fクラスの時間差魔法攻撃は止まない。


「バ、バカな! まさかこのまま負けるというのか!」


 ビルドはビジョンに映るミリアを見て焦り狼狽えている。

 このまま追い込めれば⋯⋯しかしミリアはこの程度で負けるはずがない。


 周囲の目には絶体絶命のピンチに見えるがミリアは一瞬の隙を待っていた。Fクラスは連携攻撃の訓練をしっかりとしているわけではないので必ず空白の時間ができるとミリアは踏んでおり、そして予想どうり一秒ほどだが魔法攻撃が来ない時間ができる。


「今だ! 突風魔法ガスト


 ミリアは手加減なしで風魔法を放つと魔法はおろかFクラスの子達まで吹き飛ばす。


「離れた位置にいる俺達まで⋯⋯」

「さ、さっきの魔法は本気じゃなかったのか⋯⋯」


 Fクラスの子達は炎を消し去った時のミリアの魔法は手加減されたものだと知り恐怖する。

 そして突風魔法ガストを食らって尻餅をついてしまったライルに向かってミリアは風の中級魔法を放つ。


爆風魔法ブラスト


 集束された風の塊が一直線にライルへと向かう。


「やべえ!」


 タイミング的には避けられない⋯⋯ミリアは1人倒したと思っていた。


「まだだ!」

「「「「爆風魔法ブラスト」」」」


 しかしライルを含めた4人が同じ中級魔法を放ち、ミリアの魔法の相殺に乗り出す。


「くっ! 何て威力だ!」


 ライル達4人は一瞬ミリア1人の魔法を防ぐことができたが徐々に押され爆風魔法ブラストが目前に迫ってくる。


「みんなも援護してくれ!」


 残りの男子4人も慌てて火と氷の魔法を放つがそれでもミリアの魔法は止まらない。

 このままではFクラスの男達がミリアの魔法でやられるのは必然だ。


「ネネちゃん!」


 メルルはこの窮地にネネの名前を呼ぶと2人も魔法を解き放つ。


霧魔法ミスト

沼地魔法スウォムプ


 ネネの魔法が凍りついた地面をまた沼地に変えるとミリアは足を取られ、Fクラスの男達を狙っていた爆風魔法ブラストの照準がずれる。

 そしてその隙をついてメルルの霧が辺りに広がり、Fクラスの存在を覆い隠す。


「2人ともサンキュー。とりあえず今は退くぞ」


 ライルはメルルとネネにお礼を言い、Fクラスのメンバーはこの場を立ち去るのであった。



突風魔法ガスト


 ミリアが霧を魔法で払うと既にそこには誰もいなかった。

 そしてFクラスのメンバーの魔力を探ると今度は散らばっていることがわかる。


「追いかけるのは面倒だけど固まっているのも厄介だからちょうどいいかな」


 さすがのミリアでも時間差の攻撃やネネの沼地の魔法は煩わしいと感じたようだ。

 それにしても先程の攻防⋯⋯勝つためならライル達を見殺しにしてミリアを直接攻撃した方が良かった。

 絶好のチャンスだったと言えるだろう。

 だけど俺は勝つことより仲間を護ることを優先したFクラスの子達の行動を褒めてやりたい。勝つためなら何を犠牲にしてもいい⋯⋯今からそんなことを考えていたら将来ろくな大人にならないだろう。


 そしてクラス対抗戦は終盤へと突入する。

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