第26話 娘達に尋問を受ける

 俺は以前帝都にいた時に住んでいた場所から3人の家へと連行され、ソファーに座る。そしてそんな俺を取り囲むように位置取る娘達。


「ちょっと近いんじゃないか?」


 娘達は体を密着させ、吐息がかかりそうな距離まで接近している。


「パパとは今まで離れて暮らしてましたからね。多少近いくらいの距離でいいんです」

「そ、そうなのか?」


 セレナの言っていることの意味がよくわからなかったが、有無を言わさない圧を感じたのでとりあえず従うことにする。


「それで⋯⋯帝都で暮らしていた時のことを聞きたいのか? おやっさんは料理ができ⋯⋯」

「パパ⋯⋯ボク達はコトさんのことが聞きたいな」

「コトのこと?」


 若い女の子にとっては中年のおっさんであるおやっさんのことは興味はないということか。


「どんな人ですか?」

「見た目は?」

「一緒にお風呂に入ったことはあるの?」


 娘達の質問で一部変なものがあるが順番に答えていく。


「う~ん、けっこう意地っ張りな性格だけどがんばり屋で正義感があって曲がったことが嫌いなタイプだな。今はどうかわからないけど可愛い子だったよ。俺も妹みたいに思ってて⋯⋯初めは懐いてくれなかったからお兄ちゃんって呼ばれた時は嬉しかったよ」

「お、お兄ちゃん⋯⋯だと⋯⋯」


 何故かミリアはお兄ちゃんという言葉に反応し、その場に崩れ落ちた。そして三姉妹で集まり何やら小声で話をしている。


「ま、まさかの妹属性がきた!? どうする? トアのアイデンティティと被ってるよ」

「えっ? トアって妹属性なの?」


 その言葉を聞いてセレナとミリアはトアをじーっと見つめる。


「トアちゃんは自覚がないのね」

「無自覚とは⋯⋯これはトアに小悪魔属性も追加した方がいいかも」


 3人で話してる内容が聞こえてるぞ。トアは元々三女だから妹属性で問題ないだろ。


「それとコトとお風呂に入ったことはあるぞ。妹だからな」


 兄妹でお風呂を入るのは普通だろ。しかしそう思っていたのは俺だけだった。


「ふ、不潔です!?」

「パパの浮気者ぉぉ!」

「トアも血が繋がってないのにお風呂を一緒に入るのは良くないと思う」


 何故かコトとお風呂を入ったことを娘達に非難されることになる。

 これは普通のことではないのか?


「まさか同じベットで寝たりしてないよね?」

「いや、寝たことはあるぞ。怖い夢を見たって言ってよく俺のベットに入ってきたな」


 そう考えると昔のコトは可愛かったな⋯⋯だが今は⋯⋯。


「パパ! 怖い夢を見たと言ってパパと一緒に寝るような人はきっと下心があるに決まってます」


 今のセレナの言葉に対して、ミリアはジト目でトアは笑顔でセレナに視線を向ける。


「それって⋯⋯セレナお姉ちゃんのこと?」

「ト、トアちゃんは何を言ってるのかな? 私はそんなことしないわ」

「セレナ姉が忘れているならボクが思い出させて上げる」


 そう言ってミリアは異空間から黒くて四角い物を取り出し魔力を込めると音声が聞こえてきた。


「パパ怖い夢を見たから一緒に寝ていい?」

「きゃあ!」


 ミリアの魔道具から発せられる音を聞いてセレナが普段出さないような声を上げる。


 そういえば以前似たようなやり取りを見たことがあるな。


「な、な、なんでぇ! それは消したって言ってたじゃない! まさか嘘をついたの!?」

「嘘はついてないよ。これはバックアップ用だから」

「それも消してぇ!?」


 セレナは叫びながらミリアの手にある魔道具へと手を伸ばす。


「あっ!」


 ミリアはセレナから逃れようと魔道具を隠そうとするが、セレナの身体能力の前では及ばず、魔道具は奪われてしまう。


「これは私が預からせてもらいます」


 セレナは魔道具を懐に入れると安堵のため息をつく⋯⋯が安心するのはまだ早かった。


「パパ怖い夢を見たから一緒に寝ていい?」

「なっ!」


 どこからか先程と同じセリフが聞こえてきてセレナから驚きの声が上がる。


「ふう⋯⋯万が一何かあった時用に取っておいて良かった」


 ミリアは再度異空間から音声を録音する魔道具を取り出し、してやったりの表情を浮かべる。


「ミリア!」


 どうやらミリアがセレナの言葉を保存した魔道具は2つだけじゃなかったようだ。


「それも貸しなさい!」


 そしてさっきと同じ様にミリアの手から魔道具を奪うが⋯⋯。


「別に持っていってもいいよ。まだ鑑賞用と保存用の魔道具が残っているから。だってこんなに可愛いセレナ姉を記録に残さないとかありえないでしょ」

「セレナお姉ちゃんとっても可愛いよ」

「恥ずかしいから消してぇぇ!」


 こうしてセレナの叫び声が部屋に木霊し、いつの間にかコトについての尋問は終わりを遂げるのであった。


 しかしコトはどこに行ったのだろう? 確か神聖教会の人が面倒を見てくれることになっていたはずだが⋯⋯少なくとも自宅が更地になっていたからあの場所にいないことは間違いない。

 それにおやっさんの刑期が終えるのは後1ヶ月だ。

 正直な話娘達が学校に通うことがなくても俺は帝都に来る予定だった。

 ⋯⋯。


 その真意を教えてもらうぞ⋯⋯。


 俺はコトのこと、おやっさんのことを考えながらベットに横になる。


 だがその前に明日はセレナが通う騎士養成学校に行く予定で娘達がどんな教育を受けているのか楽しみだ。


 その日俺は昔のことを思い出したせいか久しぶりにおやっさんとコトと暮らしていた頃の夢を見るのであった。

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