第25話 娘達の尾行

 セレナ、ミリア、トアside


 ユクトが帝都に引っ越してきた翌日


 3人は朝食を食べた後に出かけたユクトの跡をつけていた。


「2人ともやはりやめませんか? パパを尾行するなんて⋯⋯」


 セレナはどこか申し訳なさそうな表情で妹達を制止する。


「トアも良くないことだとわかっているよ⋯⋯でも⋯⋯」


 トアはセレナの説得には応じず、珍しく自分の意志を尊重している。


「ですがこのまま尾行を続けてもパパなら気配を感じて私達が跡をつけているのがわかるのでは?」

「ここには何十人、何百人っているんだよ。いくらパパが凄くてもその中から私達の気配を探すのは難しいでしょ」


 ミリアはそう言いつつも内心ではパパならボク達を見つけてくるかもと心が落ち着かなかった。


「セレナ姉もパパの知り合いが誰なのか気になるでしょ? リリー姉ならパパはリリー姉に会いに行くって言うと思うし⋯⋯もしかしたらパパの昔の恋人かも知れないよ」

「「こ、恋人!」」


 ミリアの恋人発言に思わずセレナとトアは声を上げてしまう。

 そしてしまったと思い3人は前方20メートル先を歩くユクトに視線を向けるが、変わらず目的の場所と思われる方向へ歩いていたので安堵する。


「だからセレナ姉も一緒に行こうよ⋯⋯っていない!」


 ミリアは先程まで隣を歩いていたセレナに目を向けるがそこには誰もいなかった。


「ミリアちゃん、トアちゃん何をしているの? 早く来ないとパパを見失うわよ」


 恋人という言葉を聞いて、セレナの尾行してはいけないという道徳心は一気に崩れ去る。


「う、うん。待ってセレナお姉ちゃん」

「ボク⋯⋯セレナ姉のそういうところ好きだなあ」


 こうしてユクトの跡を追うという3人の意見は一致し、引き続き尾行を開始するのであった。



 ユクトを尾行してから30分⋯⋯3人は帝都の東地区から北地区へと移動していた。


「ここって確かスラムがある所だよね⋯⋯学校の先生が言ってた」

「パパはこのままスラムに行くのかな? さすがにそこまでは行けないよ。ボク達は美少女だから狙われちゃうからね」

「安心しなさいミリア。どんな敵が来ても私が斬り捨ててあげますから」


 そう言ってセレナは腰に差している剣に手をかける。


 けれど自分達を護ってくれるのは嬉しいけどそんなことになってしまった ら死人が出てしまう。出来ればそのような事態にならないといいなと思うミリアとトアであった。


「あっ! 止まったよ」


 トアの声でセレナとミリアは前方に視線を向けると確かにユクトは足を止めていた。


 何もない場所で。


 ここはスラムではない。だが後数百メートル行けば治安が劇的に悪いスラムへと突入する。


「パパがスラムに行かなくて良かったね」

「ホントだよ。危うく大変な目に合う所だった」


 ミリアとトアは悪人がセレナの剣の錆びにならなくて安堵する。


「パパは何をしているのでしょうか?」


 ユクトは何も建物が建っていない1区画をじっと見ている。


「とりあえず様子を見よっか」


 ミリアの提案にセレナとトアは頷き、建物の陰からユクトを監視することにした。


 そしてこの場所に到着してから10分が経った。


「パパは何をしているんだろう?」


 トアが可愛らしく首を傾げ姉達に答えを聞いてみる。


「待ち合わせ⋯⋯ですかね?」

「けどわざわざスラムに近い所で人と会うかなあ? ボクは違うと思うな」

「ではパパはあの建物が何も建っていない場所に思い入れが⋯⋯」


 3人は何故ユクトが10分も何もない所にいるのか考えても答えがでなかった。


「私達⋯⋯パパのこと何も知らないですね」

「うん⋯⋯ボク達パパのこと冒険者をしていたことしか知らない。パパのお父さんとお母さんが誰かもわからない」


 自分達が父親のことを何もわからないことにショックを受け、3人共表情が暗い。そしてふとトアがユクトに視線を向けると⋯⋯。


「あっ! パパがいません」


 トアが突如声を上げミリアとセレナはユクトに視線を向けるが既にその場所には誰もいなかった。


「2、3秒しか目を離してないのに!? この一瞬でどこへ!?」


 3人は改めて周囲を探すがユクトを見つけることは出来ない。


「パパはどこにいったの?」

「呼んだか?」

「「「ひゃあっ!」」」


 トアの言葉に答えるかのようにユクトが背後から声をかけてきたため、3人は驚いて思わず声を上げてしまった。


 ユクトside


「パ、パパ!? いつ私達の後ろに!?」

「ボク達パパをずっと見てたのに!?」

「いや、家から着いてきてたから話しかけるか迷ったんだが、トアが俺の名前を呼んだから⋯⋯」


 初めは偶々同じ方向に来ているかと思ったが、ここに来たとき3人の足も止まったから跡を着けていることがわかった。


「初めならバレてたの!?」

「ああ」


 ミリアからも尾行しているとの言質があったので俺の予想は間違いないだろう。


「パパ⋯⋯ごめんなさい」


 トアは泣きそうな表情で頭を下げてくる。

 そんな顔をされると怒るに怒れないじゃないか。


「跡をつけて申し訳ありません」


 セレナは額が地面につきそうなくらい頭を下げている。

 正直な話セレナが尾行してくるとは思わなかった。何か特別な理由があるのか?


「ボクは止めたんだけど⋯⋯セレナ姉がパパが元カノに会いに行くんじゃないかって⋯⋯」

「それを言い出したのはミリアでしょうが!?」


 ミリアは申し訳ないと思ったのか涙を流して⋯⋯いる振りをしていた。

 セレナがミリアに弄られている様子は2年前と変わらないようで何だかそれが俺にとっては安心できる出来事だった。


「大丈夫⋯⋯別に怒ってないから。俺がここに来たのは⋯⋯昔住んでたからだ」

「パパがここに⋯⋯その時のことを聞かせてほしいです」


 セレナが姉妹を代表して真剣な表情で問いかけてくる。


「いいぞ⋯⋯そうだなあ、施設から拾われてここに住んでいたのは10歳の時だ」

「「「えっ?」」」

「幼い頃両親は亡くなってしまったんだ⋯⋯」


 3人は俺の話を聞いてショックを受けたのか先程までの笑顔は陰を日潜め、表情が暗くなる。


「ご、ごめんなさい興味本意で聞いてしまって⋯⋯」

「いいんだ。いつかは話さないといけないと思っていたからな」


 今の娘達なら俺の話を聞いても受け止められるはずだ


「それで⋯⋯おやっさんに拾われて4年間ここで暮らしていた」

「お、おやっさんという方がパパを育てて下さったんですね」

「けどおやっさんだとボク達は何か言いづらいな」

「本当のお名前は何て言うの?」


 どうも女の子にはおやっさんという言葉は公衆の面前で言うのは恥ずかしいようだ。


「本名はバルドだ。俺はおやっさんに冒険者としての全てを教えてもらった」

「パパの師匠ということですね」

「ということはボク達にとっては大師匠だ」

「トア⋯⋯1度会ってみたいなあ」


 俺もすぐに会えるならあってみたいがおやっさんは⋯⋯。


「今獄中にいるから会うことはできない」

「「「ご、獄中!?」」」


 娘達は驚きの声を上げる。そりゃそうだよな⋯⋯父親の師匠が獄中にいるなんて思わないし、犯罪者に会うのも戸惑うだろう。


「だが15年の刑期だからそろそろ出てくると思う。悪い人では⋯⋯」


 いや、良く考えろ。修行と言われて谷から突き落とされたり、免疫を得るためだと言って毒キノコを食べさせられたことを思い出せ。そして何より女性にはだらしない面があるので少なくとも良い人ではない。


「あるな。やはり3人は会わない方がいいだろう」

「ええっ! ボクどんな人か逆に気になっちゃうよ!」


 さすがにおやっさんも娘達に手を出すことはないと思うが⋯⋯いやあの人を常識で考えてはダメだ。


「私も気になりますね。それにパパの師匠ですからぜひ剣の技を教えて頂きたいです」

「トアは料理のことを聞きたいな。パパに今より美味しいものを食べてもらいたいもん」

「おやっさんは剣の腕前は凄いが料理は全然出来ないぞ」

「えっ? それじゃあパパはどうやって料理を覚えたの?」

「おやっさんに⋯⋯娘がいてその子に習ったんだ」


 だが家がなくなっていたし⋯⋯|。


「「「む、むすめ!?」」」


 3人は何故か料理のことよりおやっさんの子供ことに驚いている。


「パパ⋯⋯どういうことですか?」


 何かセレナから今までに感じたことのないプレッシャーを感じるが気のせいか?


「おやっさんには俺の2つ年下にコトっていう娘がいて3人で⋯⋯いやおやっさんは年に半分はいないことが多かったから2人で暮らしていた」

「「「2人暮らし!?」」」


「ふ、ふ~ん⋯⋯そのコトって人ボクを差し置いてパパと2人暮らしをするなんてやるじゃない」


 ミリアの言っている意味がよくわからない。何をやると言っているんだ?


「これはパパの過去について話を聞かないとね」


 俺の左腕がミリアにロックされる。


「トアもパパのこと知りたいなあ」


 今度は右腕がトアにロックされる。


「ここでは何ですから家でじっくりと話を聞きましょう」


 そしてセレナに背中を押されて俺は娘達の家へと戻るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る