第17話 真実を聞いた娘達
北東の森の入口の前に到着すると娘達が俺を出迎えてくれた。
俺は娘達の前に立ち、真っ直ぐに向き合う。
何て言葉をかければいいのか⋯⋯ここに来るまで色々考えていたが緊張しているのか思ったより言葉が出なかった。
だが何も言わない訳には行かない。
「セレナ、ミリア、トア⋯⋯今まで本当のことを言えなくて悪かった。じつは12年前タルホ村で――」
俺は意を決して娘達を育てた経緯を語る。
どんな言葉が返ってくるか、もしかしたら罵詈雑言を言われるかもしれないがそれは覚悟の上で、許してもらえるまで何度でも謝るつもりだ。
「パパ⋯⋯」
「何だい? セレナ」
今ほど緊張して心臓の鼓動が早くなったことはないだろう。俺はセレナから出てくる言葉を待つ。
「ごめんなさい逃げてしまって」
「えっ?」
セレナから謝罪の言葉が出てくる。謝らなければならないのは俺の方なので驚いてしまった。
「いや、謝るのは俺の方だ。親子として幸せな時間を壊したくなかった⋯⋯だから真実を伝えるのを躊躇ってしまったんだ」
「パパ⋯⋯その話はもういいよ。むしろお礼を言わなければならないのは私達の方だよ。今まで育ててくれてありがとうございます」
「ボク⋯⋯パパといれて幸せだよ」
「トアもパパがパパで良かったあ」
「セレナ、ミリア、トア⋯⋯」
どんな言葉が返ってくるか不安だったが娘達が俺が父親で良かったと⋯⋯幸せだと言ってくれた。こんなに嬉しいことはない。
「本当の親子ではないとわかってもパパは私達のパパです」
「もちろんだ。12年間3人の父親ではないと思ったことは1度もない」
自分のできる限りの愛情を3人には注いできた。
「けどボクは
「ああミリア、今まで以上に仲良くなろう」
真実を伝えた俺は、真実を知った娘達ともっと仲良くなれるだろう。たぶんそういう意味でミリアも言ったと思う。
「パパ、これからもよろしくね。可愛くなっていくトア達のことを見ててね」
「あ、ああ⋯⋯」
親としてこれからも娘達を見守っていくの当然だが、トアの言う可愛くとはどういうことだ? 大人になって成長していく所をってことか?
「ほらパパ、お家に帰りましょう」
「
「トア、昔のパパのお話聞きたいなあ」
3人共真実を受け入れてくれた。一事はどうなるかと思ったけどこれからも娘達と親子の関係は続けられそうだ。
そして俺はリリーが待つ自宅へと娘達に手を引かれ戻るのであった。
「おかえりなさい」
「ただいま」
娘達と自宅へと戻ると椅子に座らず立っていたリリーに迎えられた。
「その様子を見るとどうやら仲直りできたようね」
リリーは平静を装っているが、自分のせいで俺と娘達の関係を壊してしまったかもしれないと後悔していたのだろう。
その証拠に俺達のことが気になり、落ち着いて座ることが出来なかったと思われる。リリーは昔から優しい奴だったからな。
「ああ、何とかなったよ。悪いな巻き込んでしまって」
「ううん⋯⋯私が余計なことを言ったから⋯⋯」
リリーが頭を下げこの部屋に気まずい空気が流れる。だがその空気を壊したのは意外にも娘達であった。
「リリーさん⋯⋯頭を上げて下さい。私達は本当のことを聞くことができて良かったと思っていますから」
「そうそう気にしないでいいよ。親子じゃなくてもボク達を育ててくれたパパのことが益々好きになったから」
「それに将来トアとけっ」
「それは今言ってはダメです!」
「それを今言っちゃダメだよ!」
何だ? トアが何かを言おうとしたらセレナとミリアが口を塞いで遮ったぞ。もしかしたら俺と本当の親子ではないと言うことを知って、娘達には何か思うところがあるのかもしれない。
「うぐぐ⋯⋯ぷはあ⋯⋯苦しいよセレナお姉ちゃん、ミリアお姉ちゃん」
トアが口を塞いでいた2人の手を払い深呼吸をする。
「言いたい気持ちはボクも凄くよくわかるけど今はシーっだよ」
「うん。ごめんなさい」
ミリアとトアのやり取りを見て益々何を言いたいのかわからなくなった。だがミリアは「今は」と言葉にしていたのでいつかは俺に話してくれるのだろうか。
「と、とにかくリリーさんは長旅でお疲れじゃありませんか? 部屋の用意をしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、セレナ頼めるか」
「任せて下さい」
セレナはどこか慌てた様子で辺境のブルク村に来たリリーを気遣っている。
確かにリリーが暮らしている帝都からこの村に来るまで1週間くらいはかかる。話したいことはたくさんあるが今日はゆっくり休んでもらうことが先決だな。
「リリー⋯⋯何日かいられるんだろ? 今日はゆっくり休んでくれ」
「うん⋯⋯ありがと。夕御飯はユクトが作るの?」
「そのつもりだ」
「じゃあ久しぶりのユクトの手料理か。私、あなたの料理が1番好きだから楽しみしているね」
「なるべく期待に添えられるようがんばるよ」
そこまで言われたら美味しい料理を提供してあげたい。俺は本日の夕御飯のメニューを頭の中で構築して料理を作る準備に入る。
そんな俺とリリーのやり取りを見て娘達が何やら集まって話をしていた。
「リ、リリーさんとパパは仲が良さそうですね」
「トアもパパのお友達のリリーさんと仲良くしたいなあ」
セレナとミリアは呆れた様子でトアのことを見ている。
「ライバルになるかもしれないのに」
「けどそれがトアちゃんの良いところじゃない?」
「そうだね。トアには綺麗な心を持ったまま育っていってほしいよ」
「な、何かその言い方は嫌ですね。まるで私は汚れて育ったかのように」
「だってセレナ姉は怖くないのに怖い夢を見たって言ってパパのベットに潜り込むくらいだから」
「そ、それは⋯⋯もう言わないで下さい!」
「そんな狼狽えているセレナ姉も可愛いと思うよ。だからこの録音した言葉はずっと残しておくね」
「先程取り上げたと思ったらまだ持っていたの! ミリアちゃん待ちなさい!」
そして何故だかセレナとミリアの追いかけっこが始まる。
セレナよ、リリーの部屋の準備はどうしたんだ。
こうしてリリーの来訪から始まり、親子ではないと真実を伝えられた娘達との関係は修復することができたが、何やら新しい日常の始まりを感じさせる1日であった。
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