第15話 真実を知る娘達

 ドアが開かれ、姿を現した者は⋯⋯。


「リリー!」

「久しぶりねユクト。元気にしてた?」

 冒険者時代にパーティーを組んでいた魔法使いのリリーだ。懐かしいな⋯⋯娘達と暮らしてから会っていないからもう12年ぶりか。


「どなたですかこの綺麗な方は?」

「ま、まさか! 僕達のお母さん!」

「本当に⋯⋯おかあさ~ん」


 いやいや違うから。トアはミリアの言葉を信じ母親が恋しかったのかリリーの胸に飛び込んでしまったぞ。


「娘達よ大きくなったわね⋯⋯って違うから!」

「リリーは何をやってるんだ」


 久しぶりの再会なのに1人でのり突っ込みするなんて変わらないなリリーは。


「そんなことより⋯⋯」


 リリーは何か大事な用があってここに来たはずだ。大した用もないのにわざわざ辺境の村に来ることはないだろう。


「えっと~あなたの名前は?」

「ボク? ボクはミリアだよ」

「そう⋯⋯ミリアちゃんって言うんだ」


 リリーはミリアの名前を確認して近づくと背後に回り両手をグーにする。そしてそのグーの手でミリアの頭を⋯⋯挟み込む。


「痛い痛い!」


 当然のごとくリリーの攻撃でミリアの悲鳴が部屋に響きわたる。


「ミリアちゃんは私があなた達のような大きな子どもがいるくらい老けて見えるのかな?」

「み、見えません見えません! 20歳くらいに見えますぅ!」

「そう⋯⋯わかってくれて嬉しいわ」


 ミリアから20歳という言葉を聞けた⋯⋯いや言わされたことでリリーはミリアを解放する。


 子供の言うことにムキになるなんてお前は何をしに来たんだ。


「パパ~この人がボクのこと虐めるよぉ」


 リリーの元から逃れたミリアが俺の胸に飛び込んでくる。


「リリー大人気ないぞ」

「だって人が気にしていることをこの子が! 親から早く結婚しろとか26歳はもういかず後家だなんて言われているのよ!」

「そ、そうなのか」


 どうやらリリーはまだ結婚してないようだ。


「まさかそれでパパを狙ってここまで!」

「ち、ち、ち違うわよ!」

「あーっ! 顔を真っ赤にした! パパ、婚期を逃した人は何をしてくるかわからないって言うから気をつけて!」

「ミ、ミリアちゃん!」


 リリーは俺の背中に隠れたミリアを捕まえようと追いかける。

 本当に何をしに来たんだリリーは。


 そして3分後、ミリアが捕まり2人の追いかけっこがようやく終わりを遂げたのでリリーがなぜここに来たのか聞いてみる。


「で? 今日はどうしたんだ? こんな所まで」


 リリーに任せていたら話が進まなそうなので俺は自分から切り出すことにした。


「ちょっと仕事が忙しくてまとまった休みがずっと取れていなかったから」


 おかしい。下位のランクだとギルドから次々と依頼を入れられるがリリーはAランクだからある程度の休みは取れるはずだ。


「冒険者は今そんなに忙しいのか?」

「冒険者? 冒険者はやめちゃった」

「えっ?」

「あの年功序列の制度が嫌で⋯⋯ユクトがパーティーから抜けた後若い人達を集めてギルドの依頼をボイコットしたの。そうしたらギルドに苦情が殺到しちゃって。それで冒険者ランクの設定は実力で決めることになったのよ」


 そんなことがあったのか。確かに冒険者としての年数でランクを決定するのはおかしいと思っていたけど。


「だがせっかくAランクになれたのに勿体ない気もするな」

「ああ⋯⋯けっきょく最後はSランクになったわよ。ゴードンも一緒にね」

「それはすごいな」


 Sランクの冒険者は数えるほどしかいないはずだ。そこまで上り詰めるとは。


「それでSランクになったら魔導学校の理事長に就任しないかって言われて。だから冒険者はもうやめたの⋯⋯それに冒険者をやる理由もなくなっちゃったから⋯⋯」


 理由がなくなった? タイミングからしてSランクになることが目的だったのか?


「何か嫌な予感がしますね」

「パパは鈍感だからなあ」

「鈍感ってなあに?」

「そこ! 静かにして!」


 娘達のひそひそ話に間髪いれずリリーが突っ込みを入れる。


 鈍感? 俺が? 娘達は何のことを言ってるんだ。


「と、とにかく時間が空いたからユクトに会いに来てあげたのよ! 嬉しいでしょ!?」

「ああ⋯⋯俺もリリーに会えて嬉しいよ。それにしても以前より綺麗になったな」

「なっ! あなたっていつもストレートに言ってくるのね」

「何の話だ?」


 1年足らずだったがパーティーを組んだ仲間だ。嬉しくないわけがない。


「まあいいわ。それにしてもちゃんと父親やってるじゃない。あの時引き取った子供が⋯⋯」

「リリー!」


 まだ娘達にはタルホ村でのことを話していない。正常な判断ができるまで⋯⋯13歳になったら話そうと思っていたが。


「ど、どういうことです⋯⋯か⋯⋯」

「ボ、ボク達がパパの子供じゃないって言うの⋯⋯」

「嘘だよ⋯⋯嘘だと言ってよパパ!」


 娘達は悲痛な表情で声を上げ、俺の答えを待っている。


「ご、ごめんなさい! まだ話して無かったのね」


 リリーは悪くない。悪いのは俺だ。13歳になるまでなんて言い訳をしているが、本当は親子でいられる時間がなくなるのが怖かったのかもしれない。

 父親と娘⋯⋯元々は赤の他人だ。その関係が壊れるのは容易いだろう。


「パパ⋯⋯その方が言っていることは⋯⋯ほ、本当ですか⋯⋯」


 セレナの心が今どんなものに侵されているかがわかる。恐れ⋯⋯不安⋯⋯動揺⋯⋯少なくても良い感情ではないのは確かだ。

 今、そんなことはない。3人とも俺の娘だ! と言えばもしかしたらまだ親子を続けられるかもしれないが⋯⋯。


 だがそれでいいのか? このまま嘘をついたまま娘達と親子を続けられるのか?

 それは無理だろう。何より俺は娘達に嘘をつく大人でありたくない。

 俺は真実を話すことを決意する。


「本当だ⋯⋯3人はタルホ村で俺が拾った。だが俺は3人を本当の娘の⋯⋯」

「くっ!」

「セレナ姉!」

「セレナお姉ちゃん!」


 親子じゃないと聞いたセレナは外に出ていき、そのセレナをミリアとトアが追いかけていく。


「セレナ⋯⋯」


 先程まで賑わいを見せていたこの部屋が今は静寂に包まれ、そしてここには俺とリリーの2人だけとなった。

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