辺境に住む元Cランク冒険者である俺の義理の娘達は、剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を持っているのに何歳になっても甘えてくる

マーラッシュ【書籍化作品あり】

第1話 決意

「よし! このまま盗賊達を追跡するぞ」


 声の主である俺の指示に従い、仲間のゴードンとリリーが逃げていく盗賊達を追撃する。


 俺の名前はユクト。

 ルナファリア公国の冒険者ギルドに所属しており、S~Fまであるランクキングのちょうど真ん中に当たるCランクの冒険者だ。


 今日は冒険者ギルドから警護の依頼を受託し、このタルホ村までやってきた。

 そして村長から直接この村を守ってほしいと頼まれた矢先、さっそく10人ほどの盗賊がタルホ村を襲撃してきたので、俺とタンク役のゴードン、そして魔法使いのリリーが撃退する。

 7名の盗賊を無力化したことで残りの盗賊達は背を向けて逃げ出していた。


「ユクト追うぞ!」


 血気盛んなゴードンは盗賊達を追撃することを進言してくる。


「ダメよ! 私達の仕事はこの村を守ること⋯⋯もし私達がここを離れている間に魔物が襲ってきたらどうするの⁉️」


 そしてリリーはゴードンとは逆に、村に留まる意見を出してきた。


 確かに村長からここには盗賊と火を吐く魔物が現れると話があり、村の安全を最優先にしてほしいと言われたが⋯⋯。


「よし! このまま盗賊達を追跡するぞ」


 ここで盗賊達を全滅させればこの先魔物だけに集中することができるため、俺はゴードンの意見を採用し、盗賊達を追いかけることを選択する。


 だがこの時の判断が自分の⋯⋯そしてこの村の運命を決めるとはこのときは誰も思わなかった。


 盗賊達を2キロほど追いかけた先には洞窟があり、そこで3人の盗賊達を仕留めることに成功する。

 机や椅子、ベッドなどがあることからここが盗賊達の根城になっていたことが伺えた。


「さあ、早く村に帰ろうぜ!」


 ゴードンは盗賊を倒したからか意気揚々としている。


 だがそれは俺とリリーも同じで、村長に良い報告ができると少し浮かれていた。


 後は魔物を討伐すればすぐにこの依頼は達成だ。


 しかしその浮かれた気持ちは洞窟を出た時に一瞬にして吹き飛んで行く。


「ユクト! あれを見て!」


 先行していたリリーが指差す方向にはいくつもの黒煙が立ち上ぼり、何かが燃えていることが容易く想像することができた。


「村の方角が燃えている!」


 ま、まさか盗賊の別動隊がいたのか!? いや、だとしたら手際が良すぎる。あれだけの広範囲を火の海にするにはかなりの人数が必要だ。そうなるとこれは⋯⋯。


「魔物か!」


 ゴードンは俺と同じ予想をしていた。


 そしてその答えを合わせるかのように、銀色に輝く何かが村から飛び去り消える。


「まさか竜種!?」


 この世界の生存競争で頂上に君臨する種族。滅多に人の前に現れることはないが過去には幾つかの国を滅ぼし、もし出会うことがあったら災害だと思って諦めた方がいいと言われているほとだ。


 そんな希少な種族がこのタルホ村にいるはずがないと思いつつ、これ程の広範囲を一瞬にして火の海にしてしまうものがいるとすれば⋯⋯。


 嫌な答えが頭に浮びながらも俺達は急ぎタルホ村へと走り出したが⋯⋯そこには無惨な焼け野原しかなかった。


 家は崩れ落ち、田畑は燃え、人だと思われるものが焼失してそこら中に転がっているのがわかる。


「俺達がこの場を離れたから⋯⋯」


 村からの依頼は盗賊や魔物の討伐ではなく村の警護だった。

 俺達が竜種に敵うかどうかはわからないが、もしここにいれば村人達を少しは逃がすことができたはずだ。


 つい先程まで大人達が笑い、子供達が駆け回っている姿が一瞬にして崩れ去る光景にショックを受けた俺達は現実を到底受け入れることができなかった。


「とりあえず生き残りがいないか探そう」


 ゴードンとリリーは返事をすることができないほど茫然としていたが体を動かし、生き残った村人達がいないか散り散りになって探しにいく。


 誰か⋯⋯誰か生存者はいないのか。


 俺は村の隅々まで駆け回り村人達を探したが、どこからも返答はなく、ただ聞こえるのは火が家や田畑を燃やす音だけだった。


「ゴードン、リリー⋯⋯」


 村の中心部で2人と落ち合い、生存者がいるか確認するが2人は首を横に振る。


 やはり先程村から飛び立っていった銀色の竜種に殺られてしまったのだろうか。

 日常があっという間に非日常へと変わってしまう。だからこそ冒険者の役割が大きいのだが、俺達はその期待を裏切ってしまった。


 俺達は焼け落ちていく建物を眺めながらただその場に呆然と立ち尽くしている。


「⋯⋯ギャア⋯⋯」


 何だ!?


「ゴードン! リリー!? 今何か聞こえなかったか!?」


 微かだが何か声が聞こえたような気がする。


「いや? 俺にはなにも」

「⋯⋯私にも何も聞こえないわ」


 いや、そんなはずはない!


 俺は周囲の音に集中し辺りを見渡す。


「⋯⋯オギャア⋯⋯オギャア⋯⋯」


 やっぱり聞こえる! これは⋯⋯斜め前方からだ!


「2人ともついてきてくれ!」


 生存者がいるかもしれない⋯⋯その思いが俺の足を前へ前へと進めていく。


「なんだ? ユクトの奴村が破壊されておかしくなっちまったのか?」

「とにかく私達もユクトの後を追いましょ」


 2人も俺の後に続き、駆け出し始める。


「オギャアオギャア⋯⋯」


 これは⋯⋯赤子か!?


「おいリリー⋯⋯俺の耳にも何か聞こえてきたぞ」

「私もよ⋯⋯しかもこれは⋯⋯」


 前方に燃え広がっている建物が見えてくる。声はここから聞こえているぞ。


 俺はその火がつき崩れかけた建物に躊躇なく突入するとゴードンとリリーから忠告してきた。


「ユクトあぶねえぞ!」

「その家はすぐに燃えてしまうわよ!」


 2人は俺の身を案じて言ってくれているが、今は一刻も早く中にいるを助けないと。


 そう⋯⋯泣いている声は1つではなく、少なくとも3つは聞こえた。


 天井がギシギシといっているが、俺は構わず声がする方向へと向かっていくとそこには籠に入った3人の乳幼児が身を寄せあって泣いていた。


「生存者がいた⋯⋯」


 俺はなんとか生きていてくれた3人を見て涙が溢れそうになるが、今はそんなことをしている暇はない。

 3人が入った籠を抱き上げ、今にも崩れ落ちそうな部屋から脱出するとちょうど乳幼児がいた所の天井が燃えて、先程までいた場所が火に包まれる。


 3人の乳幼児達はその様子を見て、さらに泣き出すかと思ったが、むしろなぜか安らかな表情を浮かべていた。


 誰かが来てくれたことで安心したのだろうか?

 答えは出ないまま俺は何とか家が崩れる前に建物から脱出することができた。


「ユクト! 大丈夫か!?」

「その手に持っている子達は⋯⋯」


 俺は2人に籠に入った乳幼児達を見せる。


「この村の生存者だ」

「それは良かったが⋯⋯お前この子達どうするんだ」

「施設に預けるしかないわね」


 施設か⋯⋯この子達の親はおそらく死んでしまっているのだろう。

 だが施設の環境は正直良いとは言えない。そんな中このような幼い子達が行って無事でいられるかどうか⋯⋯だがこの子達には頼るべき家族や親戚がいない。


 俺と同じだな。父さんは俺が産まれてすぐに死んでしまい、母さんは7年前に病気で失くなったため俺は施設で暮らしていた。

 それでも2年後施設から俺は引き取ってくれた人がいたから冒険者として生活をすることができたし、ゴードンやリリーがいたから1人になるということはなかった。


 けどこの子達は⋯⋯。


「これもあなたを⋯⋯おやっさん」


 俺は思わず施設から引き取ってくれた人の名前を呟いた。だが今その人物は投獄されている。


 過酷な施設に送られたらこの子達は成人まで育つことができないかもしれない。それに万が一成人しても施設上がりだとろくな仕事につけない可能性がある。そう考えたら俺はこの子達を施設に預けるという選択を選ぶことができなかった。


「この子達は俺が育てる」


 タルホ村が滅びた日⋯⋯俺は穏やかに笑っているこの子達の義理の父親になることを決意した。

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