俺と不幸の親和性が高すぎる

名還フェガ

第1話

 濡れた窓越しに見る歪んだ景色。特別綺麗とは言えない。というか汚い。マンションの狭い駐輪場と、ゴミ捨て場。その奥には不均等に住宅街が並んでいる。きらびやかな夜景やシンボルタワーなどは全く見つからない。あるのは、夢を見せることを一切許さない、くどいまでの現実味を帯びた町並みだ。

 一応都内に引っ越してきたはずなのだが、地元とあまり変わっていない気がするのは気の所為せいだろうか。いや、きっと俺が『東京』という場所に夢を持ちすぎていたのだろう。どこで暮らしていたって、人が生きるためにすることは変わらない。人は人なのだ、悲しいことに。

「はぁ」と俺は小さくため息をついて、窓についた結露けつろをティッシュで拭う。ひや、と窓越しですら実感できる外気の冷たさに、体が一瞬強こわばり拒否反応を見せる。ティッシュは湿るだけでなく、どこか薄汚い鼠色ねずみに染まっており、ぬぐった部分から見た空は、心なしかいつもより鮮やかで、遠く思えた。






「………」

 ドライヤーの駆動くどう音だけが部屋に響いていた。あまりにもショッキングな出来事の連続に、俺はドライヤーを上下に動かしYシャツを乾かすことしかできなかった。

 手や顔やYシャツにべったりと付いた血を落としている間に、俺は少し頭の中を整理してみたが、現状を飲み込むことはできなかった。

 鏡に映る自分の姿を見て、血痕けっこんが残っていないか隅々すみずみまで確認する。

 ふと、自分の顔がとても険しい顔をしていることに気がついた。父親譲ゆずりの鋭い目がいつも以上に鋭くなっている。眉間みけんに深いしわが入っているからだろう。

「ふぅ、平常心、平常心。大丈夫、どうにかなる」

 俺は心を落ち着かせるために大きく息を吸って、吐いた。頭の裏にチラつく最悪な妄想の数々。そんなもの考えても仕方がない。

 俺はチラッと玄関の方を見た。

 そこには十分前と同じく、ぐったりと横たわる女子高生の姿があった。

「はぁ……」

 俺は大きなため息をついて、あらかた乾いたYシャツを着直した。まだ少し赤い痕が残っているが仕方がない。ブレザーを着たらわからないだろう。

 俺、薄城うしろゆきは今日から都立高校に編入することになっている。なっていたのだが。

 現在時刻は八時四十分。余裕を持って遅刻ラインを突破している。編入初日なのに。

「はぁ〜……」

 もう一度大きなため息を吐く。

 どうしてこんなことになってしまったのか。話は約三十分前にさかのぼる。

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