第43話Uの謎(4) 鳴き出す木彫りの猿
湯の山孝名が生前に集めた宝を巡る旅をしている侑、次に彼が目を付けたのは『鳴き出す木彫りの猿』である。
一見するとなんの変哲もないただの木彫りの猿なのだが、夜な夜な「キーッ!キーッ!ギャーッ!」とまるで暴れる猿のような声がするのだ。
この木彫りの猿が実は明後日、公民館で行われる「
内藤独歩は今日も有名な木彫り作家で、すでに亡くなってしまったがその界隈では知らない人はいないと言われる有名人なのだ。
「この木彫りの猿が鳴き出すなんて、不気味だな・・・。」
その木彫りの猿は岩山の上で堂々と腰を落としているボス猿をイメージして作られている。さぞかし大きな声で鳴くことだろう。
侑はどんな謎が待ち受けるのか、木彫りの猿を凝視しながら期待した。
そして二日後、侑は公民館へと向かった。
中に入ると高齢者の観覧者がたくさん来ていて、内藤独歩の木彫りの作品がケースで飾られていた。
しかし侑は数ある作品に目もくれず、あの木彫りの猿を探したが、それはどこにもなかった。
「おかしいなあ、展示されていないのかな?」
侑は公民館の係員に聞いてみることにした。
「すいません、ちょっといいですか?」
「はい、あらこれは若いわね・・・。あなたも、内藤独歩の作品に興味があるの?」
「はい、それでこの作品を見に来たんだけど、どこにありますか?」
侑は木彫りの猿の写真を係員に見せた、すると係員の表情が変わった。
「この作品は・・・、ある事情で展示できないのよ。ごめんなさいね」
「それはどういうことですか?」
「あたしもよくわからないのよ、ごめんね」
そう言うと係員はどこかへ行ってしまった、これは相当な理由があるに違いない、侑はなんとしてでもあの木彫りの猿について調べたくなった。
そして侑は強行的な手段に出た、警備員の隙をついてバックヤードの中へと入っていく。
「よし、この中にあの木彫りの猿があるはずだ!」
侑は音をたてないようにバックヤードの中を物色した。
そして白い布がかけてあるアクリルケースを見つけた、侑が白い布を取るとそこには目当ての物があった。
「あった・・・、これが木彫りの猿だ!」
これが湯の山孝名の宝の一つ、夜中に鳴き出す木彫りの猿だ。
達人の作品だけあって猿の毛並み・目・歯が、精巧に彫られている。
侑はこの作品のどこかにある謎の紙を探したが、見つからない。
「見つからないということは・・・、誰かがゴミ箱に捨てたのか!?」
侑はゴミ箱をあさりだした、するとくしゃくしゃにされた一枚の古い紙を見つけた。
「よし、これだ!」
侑が紙を開くと、そこにはこんなことが書かれていた。
「いつまでもそばにいた者を探して、この猿は今夜も叫ぶ。それは災いか友か、どっちだろう?」
いつまでもそばにいた者・・・、それは一体なんだろう?
侑はバックヤードから古い紙だけを持ち出して、謎について考えた。
「いつまでもそばに・・・、ということは大切な人だということ?」
でもそれが正解なのかはわからない、これまでにも作品に関わる怪奇現象には何か理由があったはずだ。
やはりこの作品を知っている人に聞き込みをするしかない、侑は作品展へと向かっていった。
作品展に行くと、作品の目利きしているかのように見える男がいた。侑が声をかける。
「あの、すみません。」
「ん?なんだね?」
「ぼく、この作品が好きなんですけど、タイトルがわかりません。何なのかわかりますか?」
侑が写真を見せると、男の表情が変わった。
「おお!これは内藤独歩の幻の作品・待つ猿だ!君はこの作品を見に来たのか?」
「はい、でもここに展示されていないようなんです。」
「そっか、私も一目見たくてここへ来たんだが・・・。とても残念だ。」
「ええ、係員にも聞いてみたんですけど、詳しい理由はわからないそうです。」
「やっぱり、曰く付きになってしまったからなぁ・・・。」
「あの、曰く付きになったというのは?」
「知らないのか?この猿の恐ろしい言い伝えを。」
そして男は語りだした。
「この待つ猿はな、毎日午前九時になると鳴き出すという言い伝えがある。この待つ猿をかつて持っていた人は、突然鳴き出すものだから気味が悪くて、お祓いしてもらったりしたんだけど待つ猿が鳴きやむことはなく、なくなく手放したそうだ。」
「午前九時・・・、もしかして、そこに何かヒントがあるかもしれない!」
侑は男と別れると、公民館を出て急いで帰宅するのだった。
それから侑は図書館へ向かい、内藤独歩についての本を読み漁った。
「あった、これだ!」
侑は内藤独歩の作品集と題名された本から、待つ猿の写真を見つけた。
「この作品は内藤独歩が人里離れたアトリエで作成したもの、当時彼のところにやってきていた猿がいて、それが作品のモデルとなっている。彼はしばらくアトリエを離れて、そしてまた来てみるとあの猿がアトリエの近くで死んでいるのを見つけた。そして自分のことを待っていたという事実に衝撃を受け、この作品を創ったと言われる。」
つまりあの猿は、ずっと内藤独歩が来るのを待っていた。きっとその猿の想いが、この作品に宿ったのだろう・・・。
あの時、この猿は内藤さんが来るのをどんな心境で待っていたんだろう・・・?
それを知る術はもうなかった。
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