第31話突撃!となりの地下迷路
中学三年になり、受験勉強やらなんやらで忙しい時期になった九月のある日、重雄が難しい顔をして食卓にやってきた。
「お父さん、なんかあったの?」
「ん?ああ、実はな・・・家がテレビに出ることになったんだ。」
侑は驚きのあまり、口につけたコーンスープを噴き出してしまった。
「ちょっと侑、なにしてんのよ!それで、父さんはなんて言ったの?」
「家がテレビに出ることになったって。」
「なんですって!!」
百合絵も驚いた。
「どうして家がテレビに出ることになったの?」
「ほら、日曜の午後八時にやっている『ポツンとお屋敷』という番組があるだろ。どうも誰かがその番組にこの屋敷のことを投稿したようだ。」
『ポツンとお屋敷』というのは、町中にある大きな家や屋敷を紹介するバラエティー番組である。
「すごい、家がテレビに出るなんて凄いよ!」
「でも、あの地下迷路がなあ・・・。もしテレビが地下迷路のことを取材したいなんて言い出したら・・・。」
侑は重雄の懸念に気づいた。
確かに今までも地下迷路でとても怖い体験をした人たちはたくさんいる、そのところがテレビで取り上げられたら、ますます世間から嫌な目線で見られてしまうかもしれない。
「あなた、断ったら?」
「断れなかったよ、もう取材の準備もしているから、今更取り止めることはできないってさ。」
重雄はため息をついた。
でもテレビに家が紹介されることは、侑にとって少し嬉しかった。
そして侑は学校についてからも、その嬉しさが抜けずに顔に出ていた。
「侑、そんなに嬉しそうにしてどうしたんだ?」
男子たちに声をかけられた侑は、『ポツンとお屋敷』に出ることを話した。しかし男子たちは、「ふーん・・・」とそっけない反応だった。
侑は意外に思ったが、『ポツンとお屋敷』が少年向けのバラエティー番組ではないことを思い出した。そもそも、侑自身もあまり見ない番組なのだから。
そう思うと侑は心の嬉しさが半減した。
そして取材の当日がやってきた。
テレビ局からきたワゴン車から、マイクを持った取材者が降りてきた。
「あの、ここはあなたのお屋敷ですか?」
「はい、そうです。持ち主の道明寺茂雄といいます。」
「では早速、屋敷の中へ入らせてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
茂雄の案内で取材者とカメラを持った男二人が、屋敷の中へと入っていった。
三人は屋敷の中を見学しながら、茂雄に屋敷についてのいろんなことを聞いていた。
「それでは、この屋敷にあるという地下迷路へ案内してもらえますか?」
ついに取材者が地下迷路について聞いてきた、重雄の顔が曇る・・・。
「それはあまりおすすめできません、どうかこのままお帰りください。」
「それは、どういうことですか?」
「うちの地下迷路は、迷い混むと一生出られなくなります。命の保証はできませんよ。」
重雄は真剣な顔で言った。
「それでも、行くといったら・・・?」
「私の言っていることがわからないのですか!地下迷路なんて危ないところへ行くなということです!!」
重雄は激怒した、その迫力に三人は持っていたマイクやカメラを手放して、その場に倒れこんだ。
「す・・・、すいませんでした!」
三人は慌てて屋敷を後にした。
「父さん・・・」
「もう、誰もこの屋敷の魔の手に襲われてほしくないんだ。」
重雄は静かに言った。
しかし、その後三人は戻ってきた。もう一人男を連れてきている。
「重雄さん、お気持ちはわかりますが、どうか地下迷路に、入れていただけませんか?」「なんだと!ダメだって言ったはずです。」
「ですがここの地下迷路は、この屋敷のアイデンティティーになっているのでしょう?それを撮影しないでというのは、テレビの画にはなりません。」
男は落ち着いた声で言った、重雄は悩みに悩み、四人に言った。
「あなた方がそこまで言うなら、地下迷路の入り口へと案内しましょう。しかしさっきも言ったとおり、命の保証はしませんよ。」
四人は重雄にお礼を言った。
「父さん・・・、いいの?」
「カギがかかっているからな、地下迷路の中へは入れない。」
重雄は少し不安な口調で言った。
重雄は地下迷路の入り口へと通じる奥の扉へと三人を案内した。
「ここが地下迷路への扉です、カギがかかっていて普段は入れませんよ。」
「本当ですか?」
男が扉を開けようとした時、扉がキィーという音を立てて少し開いた。
「あれ!?」
「おや、開いていますね。これは中へ入ってもいいですか?」
男が重雄に言った。
「ダメです!前に言ったこと、覚えていないのですか?」
「そりゃ、覚えているさ。だけど仕事なんだから、そうも言っていられないんだよね。」
こうして重雄とテレビの男とで、押し問答が続いたが、最終的にテレビの男に軍配が上がった。
「もういい・・・、好きにすればいい。」
重雄は投げやりな気持ちで言った。
三人は地下迷路の扉を開けて、その内二人が奥へと進んでいく。
もう一人は通信機で連絡をとりあっている。
だが二人が地下迷路に入ってから十五分たっても、なんの連絡もない。
「おかしいなあ・・・」
扉の前に残された男が通信を試みるも、やはりなんの連絡もない。
重雄と侑は、恐れていたことが起きたと確信した。
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